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トルコのBRICS加盟申請とその背景


 2024年9月5日、トルコの報道官がBRICSへの加盟手続きが進行中であると発言しました。春頃には外務大臣がBRICSに加盟したいという意向を示しており、今回の発言はその意向を再確認するものでした。来月予定されているBRICS首脳会議に向けた動きと見られています。

トルコの政治と経済

 この記事では、トルコの政治と経済について解説したいと思います。トルコの外交関係については詳しい方も多いと思いますが、歴史的な背景も簡単に振り返りたいと思います。

NATO加盟国としてのBRICS加盟

 トルコがBRICSに加盟するとなると、NATO加盟国で初めてBRICSに加盟する国ということになります。BRICSは政治について話し合う国際会議という位置付けにあり、NATOのような軍事同盟とは異なります。
 
ただし、BRICSは西側に対抗した経済圏を拡大したいというロシアや中国の思惑もあり、政治色も強い枠組みとなっています。そのため、NATO加盟国のトルコがBRICSに入るというのは非常に微妙な動きと言えます。

BRICSの新通貨構想について

EUとの関係

 トルコがBRICSに加盟するということになると、もう一つ面白くないと思っているのがEUです。トルコはEUの加盟候補国でもあるからです。トルコは1987年にEUの前身であるECに加盟申請をしてから加盟候補国となっています。
 元々トルコは経済的に強くないため、EUに入ってもEU側にあまりメリットがないというのもありましたが、特に近年トルコのEUへの正式加盟を妨げてきたのが移民問題です。

シリア内戦と難民問題

 2000年代、シリア内戦が起こり、トルコには何百万人もの難民がシリアから押し寄せてきました。シリアは北側がトルコ、東側がイラクで、逃れようとする人たちは経済的に豊かなヨーロッパ側に行きたいわけで、大量の難民がトルコ方面に向かいました。
 当時、EUにも地中海を渡ったり、トルコからギリシャへと渡ってEUにもたくさんの難民がやってきましたが、同時にヨーロッパではイスラム過激派によるテロが起こるようになりました。イスラム国が勢力を拡大していた時期です。

EUの懸念

 EUからすると、トルコのEU正式加盟を認めてしまうと、トルコとEUの間の国境がなくなり、ますますイスラム圏の難民が押し寄せる、そして同時にテロリストも入ってきてしまうかもしれない。そうした状況を危惧し、トルコのEU加盟は認めるわけにはいかないという状況になっていました。
 トルコは2011年から2016年の間に受け入れたシリア難民の数が310万人にも上っていました。人口8,500万人のトルコからすると、極めて多い難民の数と言えます。トルコがこれだけの難民を受け入れる中、EUは非協力的で、トルコ側は「協力しないなら国境を開けるぞ」と度々EUとの間で揉めてきました。

EU加盟の可能性

 2016年3月、EUとトルコは、トルコからギリシャに渡ってギリシャで拘束された難民申請者をトルコが引き受ける代わりに、EUからトルコに30億ユーロの支援をすることで合意しました。しかし、その後もEUの支援が十分ではないと度々揉めてきています。
 このような難民問題があるため、トルコ側からするとEUに正式加盟できる可能性は極めて低いということは明らかでした。今回、トルコはEUを見限ってBRICSの方に行こうとしているという話です。EUが冷たい対応をしたから悪いのですが、EUからすると面白くない展開と言えるでしょう。

トルコの地理的な立場

 トルコはEUの加盟候補国でありながらBRICSにも加盟する方向、そしてNATOに加盟していながらロシアとも一定の関係を有している微妙な立場を維持しています。
 それはトルコが置かれている地理的な位置とも関係しているでしょう。中東とヨーロッパのちょうど間に位置していて、黒海を隔てた向かい側はウクライナとロシアです。様々な対立軸がある中で、どこかに振り切ってしまうと対立が深まった場合に常に最前線になってしまう恐れがあります。

アフリカでの影響力拡大

 地中海を隔てた向かい側のアフリカ大陸では、トルコは軍事的・経済的影響力を拡大してきています。
 特にトルコがアフリカ大陸での足がかりとして重視してきたのがソマリア、スーダン、そしてリビアです。トルコはリビアの西側をサポートするために軍隊も駐留しています。リビアは産油国でもあり、トルコにとってはエネルギー政策上重要な国となっています。
 その他の国においても影響力を拡大しており、アフリカにおけるトルコ大使館の数は2000年の段階ではわずか10個でしたが、現在44個に増えています。トルコからアフリカへの輸出は2013年に比べて2倍以上に拡大しています。

ソマリアへの関与

 ソマリアにおいても軍事拠点を設けて軍隊を駐留させているなど、ソマリアに関与していく意思を示してきました。一部でトルコはソマリア沖の油田開発などを狙っているといった話もあります。
 トルコはソマリアへの関与を強める中で、ソマリアのイスラム過激派からテロ攻撃を受けるなどしていますが、そのイスラム過激派の背後にはUAEがいると言われています。トルコはアフリカを巡ってUAEとの対立を深めています。 

武器輸出の拡大

 こうしたアフリカへの関与にも関わることですが、最近のトルコの政治経済において非常に重要なのが武器の輸出です。特にドローンの輸出で存在感を示しており、ウクライナ戦争以降非常に注目されました。アフリカ大陸においては、マリ、ナイジェリア、エチオピアを含めた複数の国にトルコはドローンを輸出していることが明らかになっています。ウクライナ以外でも、アゼルバイジャン、エチオピアなどでもトルコのドローンが実戦で使用され、大きな成果を上げたと言われています。
 トルコのドローンは、アメリカのドローンよりも安く、中国のドローンよりも性能が良いと報道されています。ドローンを作っている会社は、エルドアン大統領の娘婿が最高技術責任者を務めていることでも知られています。
 スウェーデンの調査会社の調べでは、過去5年間でトルコの武器輸出は69%増加し、武器市場での存在感を高めています。これらはエルドアン政権が熱心に進めてきた成果と言えるでしょう。

総括

 EUを見限ったトルコですが、非常に野心的に武器輸出の拡大やアフリカでの影響力拡大を進めています。そのような状況でBRICS加盟に動いているというのは、これまでのトルコの外交戦略から言って驚くものではありません。今後もトルコの動向を注視していきたいと思います。


ご参考

 ナイジェリアはアフリカでは経済規模の大きな国ですが、BRICSではなく西側と行動を共にすることを選んだ国です。BRICSの厳しい面について取り上げることが多いですが、西側を選んだナイジェリアもまた苦しんでいます。どちらが正しい、どちらが常に優位という簡単なものではありません。

ナイジェリア経済の現状と食糧危機

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