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中国から香港への資金移動の拡大について


 最近、中国国内の投資家が香港に資金を動かし、香港への投資を加速させているという話題がよく取り上げられています。この動きについて、多くのリクエストが寄せられているため、今回は中国から香港への資金流動について詳しく解説します。

中国の為替政策と資本規制

 中国と香港の資金の流れについて理解するためには、まず中国の為替政策と資本規制についての理解が必要です。
 中国は人民元を米ドルと連動させる、管理相場制という為替政策を採用しています。この管理相場制を維持するためには、資本の移動を制限する必要があります。なぜなら、資本の移動が自由になると、お金が海外に流出し、為替相場を管理することが困難になる可能性があるからです。

資本移動を制限しているというのは、簡単に言うと、お金を自由に海外に送ったりできないようにしているということです。これは、こうした管理を行わないと、中国国内から資金流出が起きる可能性があるということを、中国当局が理解しているからです。

円安と人民元安の資金流出リスクの比較

人民元の国際通貨化

 中国は現在、原油を人民元で決済するなど、人民元を国際的な通貨にする取組みを行っています。しかし、資本の移動を制限している状況では、使い勝手が悪く、自由に動かせない通貨は使い物になりません。そのため、本当の意味での人民元の国際化を進めるためには、自由な資本移動を徐々に認めていく必要があります。同時に、再建市場やデリバティブ市場などの金融市場の整備も進めていく必要があります。そのため、中国は2010年頃からそうした取組みを行ってきています。

香港の役割

 香港はもともとイギリス領だったため、欧米と繋がっている金融市場があります。一方、中国本土は外部との取引が厳しく制限されています。そのため、中国本土と香港との間の取引の規制を緩和することで、中国の金融市場の国際化と資本移動の規制緩和を行っています。つまり、香港は中国の金融市場が国際社会とつながる窓口のような役割を果たしています。

「ボンド・コネクト」と「クロスボーダー・ウェルスマネジメント・コネクト」制度

 「ボンド・コネクト」は中国本土債券の投資を解放する仕組みですが、これも、香港の金融当局の監視のもと、海外から中国本土にお金が流れていく仕組みです。

中国と香港との資本取引の規制緩和も進展している。2017年7月には、海外投資家が香港を通じ中国国内の債券の購入が可能となる「債券通」(ボンドコネクト)が始動した。

日本貿易振興機構(ジェトロ)HP

 そして、今回の香港への投資が増えているという話は、同じように香港を通じて自由な資本移動を一部認める仕組みで、中国本土の個人投資家が香港の金融商品を、香港の個人投資家が中国本土の金融商品を取引できるようにする制度に関連しています。これは2021年に始まった、漢字で「越境理財通」、英語では「クロスボーダー・ウェルスマネジメント・コネクト」という制度です。
 ただし、この制度では自由にどんどんお金を移せるわけではなく、当初は1人当たり100万元という上限が設けられていました。しかし、2024年2月に上限金額が3倍に拡大され、これを機に中国本土から香港への投資が急拡大してきています。

中国本土と香港・マカオの投資家がクロスボーダーで資産運用商品を売買できる「越境理財通」を発足させる。

日本貿易振興機構(ジェトロ)HP

中国の金融政策の課題

 中国本土から香港への投資は急増し、4月には223億元にまで拡大しました。一方、香港の個人投資家が中国本土に投資する資金は全然伸びておらず、4月は1,400万元で、桁が3つも違います。つまり、中国本土から香港にお金が出ていく、そうした動きが加速してきているという状況になっています。
 中国では、資本移動を自由にすると、海外にお金を移したいと考えている国民が多いため、どんどん資本の流出が起こってしまう可能性があります。しかし、この「クロスボーダー・ウェルスマネジメント・コネクト」は、中国の金融市場全体からするとそこまで大きな金額ではないため、金融危機につながるような話ではありません。そのため、中国当局はこの動きをコントロールしながら進めています。

香港の金融業界の現状と未来

 では、なぜ今回、中国本土からどんどんお金が出ていくような結果が分かっていて、中国の金融当局は「クロスボーダー・ウェルスマネジメント・コネクト」の上限金額を引き上げたのでしょうか。これは、香港の金融業界をサポートするのが狙いだったのではないかという見方があります。

香港の金融業界の現状

 香港は近年、国際的な金融センターとしての地位を落としています。これは、中国の政府による管理が厳しくなっていることが影響しています。そのため、香港をどう立て直すかというのが、中国にとっては大きな課題になっています。香港上海銀行(HSBC)を始めとするその他のイギリスの金融機関と協力しながら投資を呼び込もうという動きも見られますが、今の国際情勢からすると、なかなかうまくいっていないようです。
 今回、中国国内の資金が香港の金融商品に流れるようにして、香港の金融業界をサポートする狙いがあったと見られています。ただし、中国国内の資金をどんどん香港に流すわけにはいきません。金額が大きくなってくると人民元に下落圧力がかかってしまうので、いくらでもできるわけではありません。それほど、香港の金融業界が厳しい状況にあるということが伺えます。

総括

 今回の「クロスボーダー・ウェルスマネジメント・コネクト」を通して、中国本土から香港への投資が急増しているという話、香港の金融業界が厳しい状況にあるということ、そしてやはり少しでも自由な資本移動を認めると中国の富裕層は海外にお金を移したいと考えているということが伺えます。中国が資本規制を緩和して人民元の国際化を進めていくのは、まだまだ時間がかかりそうです。
 人民元がどんどん使われるようになっているとか、米ドル崩壊とか色々言っている方もいますが、これが人民元のリアルな現在地と思います。中国の富裕層がなぜ好きあらば中国本土から海外にお金を移したいと考えているのか、これはもちろん中国経済の低迷で国内に有望な投資先がないということも影響していると思いますが、要因はそれだけではありません。

私の考え

 なぜ中国人はお金を海外に移したいのか。これはおそらく、監視社会から逃れたいということと、そして自国の政府が信用できないということが影響しているのではないかと私は考えています。そういう意味では、今の体制が続く限り、人民元の真の国際化は無理なのかもしれません。


ご参考

ドル崩壊と言うと注目が集まるから取り上げている人たちです。これは海外のインフルエンサーにもたくさんいます。アメリカのことが嫌いな人も世の中にはたくさんいるので、この手の情報は世界でよく取り上げられる傾向があります。

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