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ロシア経済の現状、人手不足と今後の経済の課題


 2025年2月14日、ロシアの中央銀行は金融政策会合を開き、政策金利を21%に据え置く決定をしました。これは極めて高い水準であり、ロシア国内のインフレの加速や人手不足が影響を及ぼしていると見られます。
 この記事では、ロシア経済の現状について、発表されたデータをもとに解説していきます。

ロシアのデータの信用性
 ロシアの政府や中央銀行が発表するものについて、信用できないから見ても無駄だと考えている人もいるかもしれません。そうしたお考えは理解できますし、私もある程度割り引いて見る必要があると思っています。
 しかし、だからと言ってデータを全く見なくていいということではないです。

ロシア経済の現状と利上げの要因

ロシアの政策金利推移

 ロシアの政策金利は、ウクライナ戦争が始まる直前の8.5%から、通貨防衛などの目的で一時20%に引き上げられました。その後、2022年後半には経済の混乱が落ち着き、7.5%まで引き下げられました。
 しかし、2023年後半からインフレが再燃し、2024年10月には21%まで引き上げられ、現在もその高水準が維持されています。

 中央銀行は今回の決定に際し、国内の需要が供給能力を上回っていることや、対外貿易条件の悪化により、さらなるインフレ上昇リスクを懸念していると発表しました。

インフレの現状

 ロシアのインフレ率は、ウクライナ戦争が始まった2022年4月に前年同月比+17.8%まで上昇しましたが、その後、2023年4月には+2.3%まで低下しました。
 しかし、そこから再び上昇傾向となり、2025年1月時点では+9.9%に達しています。特にサービス関連の価格と食料品価格の上昇が顕著であり、以下のような状況が報告されています。

  • 輸送サービス:+15.9%

  • 医療サービス:+10.6%

  • 教育サービス:+10.6%

  • 食料品全体:+11.1%

    • フルーツ:+16.8%

 輸入に頼る品目ほど価格上昇が目立つ傾向にあります。

 サービスというのは人が提供することになるため、そのサービスを提供する従業員の賃金と密接な関係があります。賃金というのは基本的に契約期間があり、ある程度長い期間の契約になっている場合が多いです。そのため、サービスの価格上昇には継続性があります。

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人手不足と労働市場の変化

 ロシアでは深刻な人手不足が発生しており、その影響で失業率は2.3%まで低下しました。これは2021年第4四半期の4.3%と比較しても大幅な減少です。人手不足の主な要因は以下の通りです。

1.軍事産業への労働力の流出

 ウクライナ戦争により、多くの労働者が軍関連の職に就き、他の産業での人材不足が深刻化しています。

2.移民規制の強化

 ロシアは1990年から2015年にかけて約1,200万人の移民を受け入れ、世界第2位の移民大国でした。しかし、2010年代後半から移民規制が強まり、新型コロナウイルスやウクライナ戦争の影響もあり、移民の流入が減少しました。さらに、2024年3月に発生したタジキスタン出身のテロリストによるモスクワの銃乱射事件(死者140人以上)を受け、移民への締め付けが一層強化されました。

 この結果、労働力不足に拍車がかかり、賃金の上昇率が加速しています。2024年11月時点のデータでは、名目賃金は前年同月比+16.8%、実質ベースでも+7.3%の上昇となっています。

ロシアルーブルの動向

 ロシアルーブルは、2024年11月後半のアメリカ大統領選挙後に急落し、一時1ドル=110ルーブルを下回る水準まで下落しました。この背景には、バイデン政権がトランプ政権に変わる前にロシアへの制裁を強化したことが影響しています。特に、欧州の天然ガス取引に関わる「ガスプロムバンク」が制裁対象に追加されたことで、金融システムへの懸念が高まりました。

ウクライナ政府は、欧州のガスプロムの顧客から天然ガス代金を受け取る役割を担うガスプロムバンクにより強力な制裁を発動してほしい、と米国に要請していた。

Reuters(2024/11/22)

 しかし、その後、新たな決済ルートが確保されたことや、ウクライナ和平交渉への期待が高まったことで、ルーブルは徐々に回復傾向にあります。

今後のロシア経済の課題

 ロシアはエネルギーや食料の自給が可能な国ですが、労働力不足は深刻な問題となっています。

少子高齢化の加速

 ロシアの出生率は2023年時点で1.4と低水準で、特に1990年代の経済危機による影響で、少子高齢化が以前から課題となっていました。

移民政策の転換

 過去には移民受け入れを積極的に行っていたものの、現在は締め付けを強化しています。今後、この方針が維持されるかどうかが経済の動向に大きく影響を与えるでしょう。

金融政策の変化

 一部報道では、中央銀行のナビウリナ総裁を引きずり下ろそうとする動きがあるとされています。仮に総裁が交代し、金融緩和政策が採用された場合、ルーブル安とインフレの加速が進み、かつてのトルコのような状況に陥る可能性も指摘されています。

まとめ

 現在のロシア経済は、高い政策金利とインフレ、そして深刻な人手不足という三重の問題を抱えています。特に、労働市場の逼迫が賃金の急上昇を引き起こし、さらなるインフレを招いている状況です。
 今後、ロシア政府が移民政策をどうするか、中央銀行の金融政策にどのような変化があるかが、経済の安定に大きく影響を与えるでしょう。情報のアップデートがあればお伝えしたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考

インフルエンサーがロシアを訪れ、「モスクワは戦争しているような雰囲気はない」と報告しています。これにより、ロシア経済が好調であるように見えるかもしれませんが、これは戦時経済の一面に過ぎません。

ロシアの戦時経済の現状と利上げの要因

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