イギリスとギネスビールとSNSの話
イギリスの食文化を象徴する存在として、多くの人々に親しまれているのがパブです。このパブで定番となっているギネスビールが不足しているという事態が現在イギリスで話題となっています。特に、クリスマスシーズン前は、地元のパブで仲間たちと集まり、家族で訪れる機会が増える重要な時期。
このタイミングでのギネスビール不足は、イギリス人にとって非常に残念で寂しい出来事といえるでしょう。今回は、ギネスビールが不足している背景やその理由、そしてイギリス社会への影響について詳しく説明します。
ギネスビールについて
まずギネスビールについて簡単に説明します。ギネスビールは、1759年にアイルランドで誕生した黒ビールで、その特徴は焙煎した大麦の香ばしい香りと、きめ細かくクリーミーな泡立ちです。この独特な味わいは、多くの人々に長年親しまれています。
アイルランドは、かつてイギリスが世界の覇権を握っていた時代に、最初の植民地となった国です。そして、その後イギリスから独立を果たしましたが、パブ文化などアイルランド発祥の文化的要素は、イギリスにも強く影響を与えています。例えば、イギリスで一般的なパブ文化やその象徴ともいえるフィッシュ&チップスは、実はアイルランドに起源を持つと言われています。
ギネス社とDIAGEO社について
ギネスビールを製造しているギネス社は、その後1997年にイギリスの流通関連企業と合併し、現在では「DIAGEO(ディアジオ)」というグローバル企業の一部門として運営されています。本社はロンドンにあり、ギネスビールはディアジオのビール部門を代表する商品となっています。
ギネスビール不足の背景
ギネスビール不足が話題となり始めたのは、2023年12月に入った頃からです。この時期、イギリス国内の多くのパブでギネスの樽が空になってしまう事態が発生。ディアジオ社には通常をはるかに超える注文が相次ぎました。しかし、供給が需要に追いつかず、ディアジオ社は供給制限を行うと発表しました。これがきっかけとなり、「ギネスビールが足りない!」というニュースが広まりました。
ビールの消費量全体との比較
この事態は、近年の全体的なビール消費量の減少傾向の中で発生しています。イギリスを含む多くの先進国では、お酒を飲む人そのものが減少しており、パブでのビール消費量も長期的には減少傾向にあります。しかし、この傾向にもかかわらず、ギネスビールだけは急激に需要が増加しているのです。
ギネスビール需要増加の理由
ギネスビールの需要増加には、いくつかの理由があります。かつてギネスビールといえば、年配の男性が飲むイメージが強いビールでした。しかし、近年では若者や女性がギネスビールを選ぶようになり、それが需要急増の主要因となっています。
この変化の背後には、ディアジオ社のマーケティング戦略が大きく影響しています。例えば、ディアジオ社はプレミアリーグのスポンサーとなり、試合チケットが当たるキャンペーンを展開しました。また、SNSを積極的に活用し、話題作りに成功したことも大きいです。
インフルエンサーの影響
さらに、イギリス王室のキャサリン皇太子妃や、モデル・女優として知られるカーダシアン氏がギネスビールを飲む写真がSNSで拡散されたことも需要拡大に寄与しました。この写真が話題となり、ギネスビールが「おしゃれで洗練された飲み物」として若者や女性の間で認識されるようになったのです。その後も、インフルエンサーがギネスを楽しむ動画や写真を投稿し、さらなる需要増を後押ししています。
ヨーロッパのビール業界
ヨーロッパでは、食品や飲料のメニューが何十年も変わらず続くことが一般的です。ギネスビールも1759年の誕生以来、変わらぬ味で多くの人々に親しまれてきました。そのため、急激な需要増加や変化は極めて珍しいことです。
ヨーロッパのビール業界は人口増加が見込めず、新興市場であるアジアへの進出を成長戦略の柱とする企業が多い状況です。そのため、今回のギネスビール不足は、SNS時代ならではの新たな消費動向を象徴する出来事と言えるでしょう。
ビール不足の影響
ギネスビール不足は、社会全体に混乱をもたらすような問題ではありません。他のビールは十分に供給されており、生活必需品の不足とも異なります。
しかし、クリスマスシーズンにギネスビールが足りないというのは、イギリス人にとって感情的な影響を与える問題です。パブで仲間や家族と過ごす特別なひとときに、定番のギネスビールがないというのは、やはり残念なことなのです。
まとめ
今回のギネスビール不足の背景には、SNSや現代のマーケティングの力が強く関与しています。伝統的なビール銘柄が若者や女性の心をつかみ、新たな層を取り込むことで、需要が急増するという結果に至ったのです。このような現象は、SNS時代ならではの消費者行動の変化を示すものといえるでしょう。
今後、ディアジオ社がどのようにこの需要増加に対応し、ギネスビールの供給を安定させるか注目が集まります。また、他の伝統的なブランドにも同様の変化が波及する可能性があり、ヨーロッパのビール業界全体の動向がさらに興味深いものとなりそうです。
ご参考
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