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ノルウェーで電気自動車が売れる理由
2024年、ノルウェーで販売された新車のうち、電気自動車(BEV)の販売割合は前年より6.5%上昇し、88.9%に達しました。ノルウェーは2025年までに新車販売をすべて電気自動車にするという目標を掲げており、この目標にかなり近づいています。
一方、イギリスをはじめとする欧州各国では、ガソリン車やディーゼル車の販売をゼロにするという目標を後ろ倒しにする動きが見られます。この中でノルウェーは着実に電気自動車の普及を進めています。
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私は欧州諸国の電気自動車への急速なシフトは無謀だと以前から主張しています。なぜノルウェーではこれほどまでに電気自動車が普及したのか、またノルウェーと他の欧州諸国の違いについて解説します。
欧州ではエンジン車を段階的に減らし、EVの割合を年々高めることが自動車メーカーに義務づけられています。その結果、ドイツのメーカーはコスト高に苦しむ中、中国製のEVとの競争に直面しています。
ノルウェーの電気自動車普及の状況
ノルウェー道路連盟が2025年1月2日に発表したデータによると、2024年の新車販売における電気自動車の割合は88.9%となりました。イギリスでは電気自動車の割合が18%台に留まり、かつて掲げていた「2030年までにガソリン車・ディーゼル車の販売をゼロにする」という目標が難しくなっています。このように、ノルウェーとイギリスでは状況が大きく異なります。
さらに、ノルウェー国内で登録されている全車両に占める割合では、ディーゼル車が36.1%、電気自動車が28.6%、ガソリン車が23.0%、ハイブリッド車が12.3%です。このデータから、電気自動車がガソリン車を上回る割合にまで達していることがわかります。
極寒地特有のインフラ事情
ノルウェーでこれほどまでに電気自動車が普及している理由の一つは、極寒地特有のインフラが関係しています。気温がマイナス20度以下まで下がると、ガソリン車やディーゼル車ではエンジンオイルが固まるため、エンジンがかかりづらくなる問題があります。また、エンジン内の潤滑作用が低下し、通常通りに車を動かすのが難しくなります。そのため、こうした地域では車を動かす前にヒーターで車を温める必要があります。
これは電気自動車が登場する前から、ガソリン車やディーゼル車にも見られた対策です。車内を含めて金属製の部品が多い車両を極寒地でそのまま使用すると、人が冷凍庫の中にいるような状態になり、ヒーターの使用は必須です。ノルウェーではこのヒーター用の電源を駐車場に備え付けのコンセントから取る仕組みが一般的で、電気自動車が普及する以前から整備されていました。そのため、電気自動車が普及し始めた際、新たに充電インフラを設ける必要がありませんでした。
ノルウェーにおける電気自動車の充電場所に関する調査でも、自宅の駐車場で充電を行うケースが圧倒的に多いという結果が出ています。このように、既存のインフラが電気自動車普及の重要な要素となりました。
他国との比較と北欧の特徴
電気自動車の新車販売割合ランキングでは、1位がノルウェー、2位がデンマーク、3位がスウェーデン、4位がオランダ、5位がフィンランドと、北欧諸国が上位を占めています。オランダについては、地形的な理由(海面上昇による水没リスク)から環境対策として電気自動車に力を入れている背景があります。
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特にノルウェーが電気自動車の販売で突出している理由には、政府が補助金を含む支援政策を一貫して行い、購入者の負担を軽減してきたことがあります。
他の欧州諸国では、EV補助金が削減または廃止されるなど政策が変動する中、ノルウェーは「2025年までにガソリン車・ディーゼル車の販売をゼロにする」という目標に向けて政策を継続しています。この安定性が電気自動車普及に寄与しています。
エネルギー事情と今後の課題
ノルウェーのエネルギー事情も電気自動車普及を後押ししています。ノルウェーは山岳地帯が多く、国内の電源構成の約9割を水力発電で賄っています。そのため電力供給に恵まれた環境が整っています。一方、産出される石油は海外に輸出し、その収益をソブリンウェルスファンドで運用する経済構造を持っています。
これに対し、日本やイギリスのように電気自動車普及を進める場合、原子力発電所の増設や再生可能エネルギーの導入が必要になる国々では、エネルギー供給の不安定さや環境負荷といった課題が生じます。
ノルウェーの成功例は北欧特有の条件に基づいており、他国がこれをそのまま模倣するのは現実的ではありません。今後も北欧を中心に電気自動車の割合は増加すると見られますが、多くの欧州諸国が無理にこれを追随しようとして困難に直面する展開が続くのではないでしょうか。
総括
ノルウェーにおける電気自動車普及は、極寒地特有のインフラ、政府の一貫した政策、そしてエネルギー事情に大きく支えられています。他国が北欧諸国を参考にしつつも、それぞれの状況に合ったアプローチを模索することが重要と言えるでしょう。
ご参考(自動車業界の財務分析記事のまとめ)
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