見出し画像

中国のサウジアラビアでのドル建て国債発行理由


 2024年11月5日、中国の財務省は、11月11日の週にサウジアラビアでドル建て国債を発行する計画を発表しました。この国債の規模は約20億ドル、日本円にして約3,000億円相当です。これがサウジアラビアで初めて発行される中国国債となり、国際的にも大きな注目を集めています。

中国とサウジアラビアの関係

 今回の発表には、中国とサウジアラビアの経済的な関係強化を強調する意図があると見られており、特に西側諸国やアメリカに対して存在感を示す狙いが指摘されています。サウジアラビアと中国は、ETF(上場投資信託)の相互上場など、経済協力を深めてきました。今回の国債発行も、このような関係強化の一環として位置付けられるものです。

ETFとは、証券取引所に上場し、株価指数などに代表される指標への連動を目指す投資信託で、「Exchange Traded Funds」の頭文字をとりETFと呼ばれています。

一般財団法人投資信託協会HP

サウジアラビアのドル離れ

 一方で、サウジアラビアは近年「アメリカ離れ」や「脱ドル化」といった動きが注目される中、人民元を含む多様な通貨の活用が取り沙汰されています。それでも今回、中国が人民元建てではなく米ドル建てで国債を発行した理由は何でしょうか。この背景には、現実的な金融市場の制約が存在しています。

 今回、中国がサウジアラビアでドル建て国債を発行した理由は、「お互いに米ドルの方が都合が良い」という点に集約されます。人民元建てではなく、ドル建てが選ばれた背景について、重要なポイントを解説します。

ドル建てが選ばれた理由

1. 国際的な通貨で発行する必要性

 通常、国債は自国通貨か、あるいは米ドルやユーロといった国際的な通貨で発行されることが一般的です。これは、各国の決済機関がこれらの主要通貨に対応していることが多いためです。
 一方で、人民元は依然としてマイナー通貨と見なされており、国際的な金融取引において十分な受け入れ態勢が整っているとは言えません。
 
仮にサウジアラビアの決済機関が人民元に対応していなかった場合、人民元建てで発行することは実現不可能だったと考えられます。このように、人民元の国際化が進んでいると言われながらも、その実用性には限界があることを今回の事例は示しています。

2. リヤル建て発行の非効率性

 では、サウジアラビアの通貨であるリヤル建てで発行するという選択肢はどうでしょうか。リヤルは米ドルにペッグされた通貨であり、マイナー通貨と見なされています。そのため、中国がリヤル建てで資金を調達した場合、最終的には人民元に交換する必要があります。

通貨相場の安定を目的として、自国の通貨レートを経済的に関係の深い大国の通貨と連動させることをペッグ制といい、世界的な基軸通貨である米ドルと連動させる場合を特に「ドルペッグ(制)」と呼びます。中東産油国などが採用しています。

三井住友DSアセットマネジメント株式会社HP(情報提供:株式会社時事通信社)

 この交換プロセスではスワップ取引というデリバティブ取引を利用することになりますが、これにはコストがかかります。また、スワップ市場もドル中心に動いているため、ドルを介して取引が行われることがほとんどです。結果として、リヤル建て発行は非効率であるため、選ばれることはありませんでした。

3. 投資家にとっての利便性

 サウジアラビアの政府系ファンドをはじめとする投資家の視点からも、ドル建ての発行が好まれる理由があります。これらのファンドの多くは、ポートフォリオの大部分を米ドルで運用しています。そのため、リヤル建てで発行された場合、余計なコストが発生し、利回りが低下する可能性があります。こうした理由から、投資家側もドル建てを支持したと考えられます。

人民元国際化の課題とドル依存の現実

 今回の事例は、国際金融市場が依然として米ドルを基軸通貨としている現実を浮き彫りにしています。債券市場やデリバティブ市場においても、米ドルやユーロが中心的な役割を果たしており、人民元やリヤルといったマイナー通貨が主流になるにはまだ多くの課題があります。

ドル依存は続く

 人民元での原油取引が始まることや、BRICS諸国による新通貨の議論など、脱ドル化の動きは注目されています。しかし、これらがドル覇権を脅かすためには、金融市場の根本的な構造改革が必要です。特に債券市場やデリバティブ市場における通貨の扱いが変わらない限り、ドル依存は続くと見られています。

人民元の国際通貨化
 中国は現在、原油を人民元で決済するなど、人民元を国際的な通貨にする取組みを行っています。しかし、資本の移動を制限している状況では、使い勝手が悪く、自由に動かせない通貨は使い物になりません。

中国から香港への資金移動の拡大について

総括

 中国がサウジアラビアでドル建て国債を発行した背景には、国際金融市場の現実があります。人民元の国際化が進んでいるとはいえ、依然として米ドルに取って代わるには多くの課題が残されており、それが実現するには長い時間がかかるでしょう。
 今回の事例は、米ドルの基軸通貨としての地位が依然として強固であることを示すと同時に、人民元や他の通貨がそれに対抗するにはまだ道のりが長いことを改めて明らかにしました。
 金融市場の現状を踏まえると、ドルの存在感は簡単には揺るがないものの、脱ドル化の議論が続く中で、今後どのような変化が起こるのか注目されています。今後ともよろしくお願いいたします。


ご参考(ドル離れ記事のまとめ)

■ BRICSの新通貨構想について(2023/7/13)
■ メディアが報じないペトロダラー協定(2024/6/16)
■ 石油取引の資金の流れと米ドルの重要性(2024/6/22)
■ サウジアラビアのドル離れの理想と現実(2024/7/9)

サイトマップ(目的別)はこちら

いいなと思ったら応援しよう!