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空売り投資家に見る日米資金調達方法の違い
「空売り投資家」として知られるヒンデンブルグリサーチが、2024年1月15日に廃業を発表しました。「空売りに失敗して事業を続けられなくなったのか」と思いきや、実際にはそうではないようです。
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空売り投資家とは、空売りを仕掛けて株価を暴落させたり、時には企業を破綻に追い込んだりする存在で、社会の中では極悪人や厄介者として見られることもあります。しかし、彼らなりの正義感が存在しており、「善と悪」を単純に分けられない現実があります。
この点は、空売り投資家だけでなく、一般的な投資ファンドにも共通する考え方です。
空売り投資家の使命感
では、なぜ彼らは無謀な投資を続けているのでしょうか。もちろん、一発でお金を稼ごうという思いもあるでしょう。しかし、世の中の不正を暴こうという、そういう正義感も少しはあります。
この記事では、ヒンデンブルグリサーチの廃業について多面的な視点で考え、その背景や彼らの正義感、日本とアメリカと資金調達方法の違いについて深掘りします。
ヒンデンブルグリサーチとは
ヒンデンブルグリサーチの名前は、1937年に爆発事故で墜落したドイツの飛行船「ヒンデンブルク号」に由来します。その名前からして過激な印象を受けるかもしれません。同社は2017年創業の比較的新しい企業ですが、電気自動車メーカーに対する調査レポートで一躍有名になりました。
注目された事例
ローズタウンモーターズ事件
電気自動車メーカーの生産能力や予約台数の誇張を指摘。ニコラ創業者の不正暴露
創業者の虚偽行為を暴き世間の注目を集める。
当初は企業の不正行為をレポートにまとめて公表するだけのビジネスでした。その後、注目が集まると投資家から資金を募り、不正を行う企業への空売りを仕掛ける事業に拡大していきました。こうした流れは、新興の投資ファンドによく見られるパターンです。
空売り投資家の正義感
空売りとは、株価が下落することで利益を得る戦略です。
しかし、株価はゼロまでしか下がらないため、利益は有限です。一方、株価が上がると損失は無限大となり、非常にリスクの高い取引です。また、空売りを行うには投資銀行などから株を借りる必要があり、そのコストが高額になることもあります。
実際のところ、空売りで大きな利益を得るのは非常に難しく、空売り投資家には社会的な使命感や正義感が不可欠とされています。
アダニグループ事件と空売りの限界
ヒンデンブルグリサーチがさらに注目されたのは、2023年にインドのアダニグループを対象にした空売りです。同グループはモディ政権との近い関係を背景に、急成長した財閥企業です。ヒンデンブルグリサーチは、不正な株価操作やタックスヘイブンの利用を指摘し、アダニグループの株を空売りしました。一時は株価が急落し、グループは経営危機に直面しましたが、最終的には増資によって乗り越えました。
不正の立証はされず、ヒンデンブルグリサーチもこの取引で利益を得ることはできませんでした。その後、アメリカ検察当局がアダニグループの創業者を贈収賄罪で起訴しましたが、空売りを既にクローズしていた同社は利益を得る機会を逃しました。
日本とアメリカの資金調達方法の違い
アメリカでは、企業の資金調達に直接金融が主流で、投資家が企業を支える形になっています。これに対し、日本は銀行を介した間接金融が主流で、銀行が企業のモニタリング機能を担っています。
この違いから、アメリカではファンドが日本以上に重要な役割を果たしており、空売り投資家の存在もその一環といえます。
ヒンデンブルグリサーチ廃業の背景
ヒンデンブルグリサーチの創業者ネイト・アンダーソン氏は、「疑わしいビジネスを暴くという目的を達成した」と述べ、残された情報は規制当局に引き継がれたと語りました。
日本人の感覚では、空売りで利益を得ることに抵抗を感じるかもしれませんが、アメリカの金融システムにおける役割を考えれば、こうした行為も理解できる側面があります。
おわりに
ヒンデンブルグリサーチの廃業は、空売り投資家やファンドの役割を考える上で重要な事例と言えます。また、日本とアメリカの金融システムの違いにも目を向ける必要があります。こうした視点を持つことで、社会や金融の仕組みについてより深く理解できるでしょう。
今後もこのようなテーマについて、多角的な視点でお伝えしていきます。引き続きよろしくお願いいたします。
ご参考
海外投資家が日本の債券インデックスを「ジャンク債」扱いするのは、評価基準の違いによるものです。国内投資家としては、日本の基準に基づいて投資判断を行えば問題はありません。ただし、海外基準を気にせざるを得ない企業も存在するため、視点の違いを理解することが重要です。
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