分散投資の意義と個人投資家へのアドバイス
分散投資はすべきか、という質問を受けました。
これはここ10年ほど業界でも注目を集めてきたテーマです。分散投資はポートフォリオのリスク・リターン効率を改善する方法と考えられてきましたが、最近では分散投資をしなかった方がリスク・リターン率が良かったという状況も見られます。特に、分散投資をしなかったファンドのリターンが好調であるため、業界でも悩ましい問題となっています。
分散投資の基本
まず、分散投資とは何かを簡単に振り返ります。
Aという資産とBという資産があった時に、AだけもしくはBだけを保有するよりも、AとB両方を保有した方が「リスクに対してのリターン」が向上する場合があります。リターンだけに着目すればAかBのうちリターンの高い方の資産を保有するのが良いですが、「リスクに対してのリターン」を考えるとAとBを両方保有することで、どちらか一方を保有する場合よりも効率の良いポートフォリオを作ることができます。これが分散投資です。
分散投資の歴史と現状
この考え方に基づいて、伝統的には株4割、債券6割といった分散投資が行われてきました。この考え方が整理されたのは1950年代から1960年代のアメリカで、日本に入ってきたのはもっと後です。歴史としてはまだ50年と少しというイメージです。
しかし、近年では分散投資があまり機能していない状況が多々見られるようになってきました。これは中央銀行が量的緩和を実施したり、それを巻き戻したりするタイミングで、株や債券を含めた様々な資産の価格が同じ方向に動くことが増えたことも関係しています。分散投資したファンドが分散投資して良かったという状況が少なくなってきました。
分散投資に対する意見
そのため、分散投資は死んだとか、分散投資しない方が良いという意見も業界で以前より増えてきました。しかし、分散投資についての考え方は、するべきかしないべきかの二択ではなく、様々な考え方があります。
例えば、著名投資家のバフェット氏の考え方です。彼はアナリストであり、企業分析のプロフェッショナルです。そのため、企業のことを理解して投資をするわけですから、様々な企業に闇雲に分散投資をするのはプロがやることではないと考えています。だから分散投資は意味がないという考え方です。
分散投資の意義とバフェット氏の見解
一方で、分散投資には意味があるという考え方もあります。これは、いくつかの性質の異なる資産を組み入れることでリスク・リターン効率が良くなるという考え方です。
リターンとは何かというと、リターンとそれが起こる確率から求められるものです。つまり、リターンが得られる確率は分かっているけれど、次にどうなるかは分かりませんということが分散投資の考え方には含まれています。バフェット氏が言っているように、将来のことを予想する力がないということが前提になっています。
これはファイナンスという学問そのものに関わることですが、基本的にマーケットはランダムウォークと言って、将来を予想することができないという考え方に基づいています。その中で分散投資した方が良いという考え方になっています。バフェット氏はファイナンス理論を根本から否定しています。
分散投資の適正な比率
ファイナンス理論に従って分散投資した方が良いという考え方の中でも、リターンが得られる確率や他の資産との連動性など、資産の特徴が時間の経過とともに変わっていくため、分散投資の適正な比率も定期的に見直した方が良いという考え方と、資産の特徴は短期的には変わることがあっても長期的には変わらないので、分散投資の適正な比率は長期にわたって変わらないはずだという考え方があります。
やや専門的ですが、分散投資で目指すべき資産配分の比率が長期的に変わらないと考えるべきか、それとも時間の経過とともに変えていった方が良いのか、明確な結論が出ていない状況です。
GPIFの分散投資戦略
私たちの年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、日本株25%、外国株25%、外国債券25%、国内債券25%という比率で分散投資をしています。
バフェット氏のように、自分たちが上がると見ている資産は上がる確率が高いからそれに投資をした方が良いという考え方は、上がる確率をバフェット氏は分かっているかもしれませんが、客観的には証明できません。そのため、GPIFのような透明性の高い機関投資家は、数理的なアプローチで次に何が起こるとしても期待リターンを高められる方法を目指すしかありません。つまり、分散投資しないという方法はありえないということになります。
個人投資家へのアドバイス
ここまで分散投資の考え方を説明してきましたが、個人投資家はどうすべきか。これはその人のリスク許容度とも関係してきますが、基本的に分散投資した方が良いと私は思います。確かに米国株、特にマグニフィセント・セブン(マイクロソフト、アマゾン、テスラ、アルファベット、エヌビディア、アップル、メタ)のような銘柄をたくさん持っていた人が近年お金を増やしたのは間違いありません。しかし、こうした相場がいつ終わるのか、多くの人は予想できないはずです。分からないのであれば分散投資するしかないということです。
高値掴みになるリスクを分かった上でも投資したいという人は株一本で行けば良いと思いますが、ある程度堅実な資産運用をしたい人は分散投資した方が良いでしょう。そして、最適な資産配分についても、個人で自分の最適なポートフォリオを計算できる人は少ないと思います。ロボットが計算してくれるサービスがあるかもしれませんが、それでも完璧ではないでしょう。
ここで大事なのは、最初に自分で決めたポートフォリオをある程度維持することです。これはプロにも言えることですが、状況に応じて最適な資産配分に変更していこうとした場合、多くがうまくいきません。これは過去のデータでも明らかになっています。そのため、個人投資家がしてもうまくいくはずがありません。
結論
結論としては、分散投資を行い、最初に決めた資産配分比率を概ね維持していく方法が個人投資家にとっても良いのではないかと私は思います。
ご参考