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米ドルの12月下落要因として考えられる理由3点


 最近、「なぜ12月に米ドルが下落しやすいのか」という質問を多くいただきます。過去10年間を振り返ると、12月のドルリターンは2勝8敗となっており、明らかに12月は米ドルが弱い傾向を示しています。過去の傾向が今年にも必ず当てはまるとは限りませんが、なぜ12月にドル安が起こりやすいのか、その要因について考えたいと思います。

イールドカーブのデータを重視する見方を完全に否定するつもりはありませんが、私はイールドカーブの動きを見て判断するよりも、そうしたイールドカーブの変化の動きの要因を分析した方が良いと考えています。

景気後退とデータ、サインと経験則について

過去10年間のドルリターン傾向

 まず、こちらは過去10年間の月ごとのドルリターンの平均値をまとめたグラフです。このドルリターンは、ドル円ではなく、ドルインデックスを基に計算しています。ドルインデックスとは、米ドルの主要通貨に対する変動を総合した指数のことです。

出所)「Bloomberg」(2024/12/2)

 グラフを見ると、12月のリターンはマイナスであり、そのマイナス幅は12カ月中で最も大きいことが分かります。では、なぜ12月にドル安が起こりやすいのでしょうか。結論として、「これが決定的な理由です」と確実に説明するのは難しいですが、考えられる理由をいくつか挙げたいと思います。

考えられる理由①:リバランスの影響

 1つ目に考えられるのは「リバランス」です。リバランスとは、ポートフォリオの資産配分を定期的に見直し、調整を行うことを指します。年度末にあたる12月にこのリバランスが行われる場合が多く、それがドル売りの要因になるという見方があります。

 特に近年では、年後半にドル高が進むケースが見られます。そのため、年末のリバランスではポートフォリオ内でウェイトが高くなりすぎたドルを売却する動きが強まる傾向があると予想されます。今年もドルインデックスが11月に年初来の高値水準を記録しているため、同様の動きが発生する可能性があります。

データに基づく米ドルの価値の現状の整理

考えられる理由②:クリスマス休暇の影響

 2つ目に挙げられるのがクリスマス休暇の影響です。欧米では、12月中旬からクリスマス明けまで長期休暇を取る人が多く、またクリスマス前後は市場が閉まる国も少なくありません。そのため、取引できない期間中のリスクを避けるため、ポートフォリオを調整する動きが加速します。

 具体的には、ドルを多く保有してリスクを取っていた投資家が、休暇前にドルを売却してリスクを抑える傾向があります。このポジション調整は11月末から12月にかけて行われることが多く、日本の感覚よりも早いタイミングで動きが始まることがあります。

考えられる理由③:中央銀行の動向

 もう1つの要因として、12月は主要な中央銀行の政策決定会合が集中する月である点が挙げられます。例えば、12月18日にはFOMCが開催され、金融政策の動向が注目されています。さらに、翌年の金融政策に関するFRBの姿勢も市場の焦点となっています。

 過去を振り返ると、2023年12月にはFRBが利下げのタイミングを探り始めたことで、年末にかけて利下げ期待が一気に高まりました。2022年12月は利上げが続いていましたが、利上げのゴールがどこになるのかという点が注目されていました。このように、中央銀行の金融政策に対する市場の期待感や、債券市場の閑散期における値動きの荒さがドル安に影響している可能性があります。

アノマリーとしての12月のドル安

 以上の理由を挙げてみましたが、どれも「これが決定的な理由だ」と断言できるものではありません。そのため、12月のドル安は「アノマリー」として捉えられることもあります。アノマリーとは、理論や論理では説明がつかない現象を指します。
 私自身も「今年も12月はドル安になる」と強く予測することはできません。ただし、過去の傾向が示されている以上、リスク管理の観点から備えをしておくことが重要だと考えます。

失業率が一定以上悪化すると景気後退がほぼ間違いないといった過去の経験則や、イールドカーブの逆イールドが解消された後に景気後退がよく起こっているとか、そうした経験則やサインを見て、今回景気後退が過度に意識された面があったと思います。

景気後退とデータ、サインと経験則について

投資家としての対応策

 12月のドル安をアノマリーとして受け入れるのであれば、リスクを取らないことが最善策です。過去の傾向を重視する場合、ドル保有を少し減らすなどの対応を行うのが賢明です。資産運用やマーケットで生き残るためには、予測が当たるかどうかよりも、不確実な状況の中でリスクを適切にコントロールすることが何より重要です。


MBAの話

 TeamモハP【note】では、チャンネル登録者数20万人達成を記念して、メンバーシップに参加いただいている方の質問に答える特別企画を実施しています。その中で、「良い経営者になるためにMBAは役に立つか」という質問が寄せられました。
 MBA(Master of Business Administration)は経営学修士のことで、経営学を学ぶための大学院課程の卒業資格を指します。この質問に対し、私とTeamモハPのメンバーがそれぞれの意見を記事として書いています。是非ご覧いただけたらと思います。

MBA取得の考え

 MBAについては、「取得したからといって必ずしも素晴らしい経営者になれるわけではない」という意見や「取得しなくても優れた経営者は存在する」という見方もあります。
 一方で、指導者のライセンス不要論がスポーツ界で議論されていることと同様に、「理論的な基盤を持つことの重要性」を訴える声も根強いです。
 例えば、ライセンスが求められないプロ野球の指導者と、ライセンスが必要とされるプロサッカーの指導者を比較するように、MBAが必要かどうかの議論には様々な視点があります。どちらの考え方にも一理あるでしょう。

まとめ

 今回の記事では、12月にドル安が起こりやすい理由について考察しました。今後とも皆様の投資活動やキャリア形成に役立つ情報をお届けしていきたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。


ご参考

 関税にはドル高要因もドル安要因も存在するため、どちらがより強く影響するかは状況次第です。

日米金利差とドル円相場の関係、関税の話

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