見出し画像

ドイツの連立政権崩壊と今後の見通し


 ドイツの連立政権が崩壊し、早ければ来年1月にも総選挙が実施される可能性が高まっています。今回の記事では、ドイツの政治情勢のこれまでの流れを振り返り、今後の見通しについて詳しく解説していきます。

政党まとめ
・ドイツ社会民主党(SPD)
・自由民主党(FDP)
・キリスト教民主同盟(CDU)

連立政権崩壊の発端

予算を巡る対立

 連立政権崩壊の発端となったのは、2025年の予算案をめぐる与党内の対立です。現在、ドイツの与党はショルツ首相が所属するドイツ社会民主党(SPD)と自由民主党(FDP)、および緑の党の3党による連立政権ですが、ウクライナ支援や環境政策のために予算を増やすべきだと主張するドイツ社会民主党(SPD)と緑の党に対し、財政規律を重視する自由民主党(FDP)との対立が表面化しました。

ドイツの「債務ブレーキ」問題

 ショルツ首相は低迷する国内経済を支えるため、環境関連の投資を増やしたい考えです。こうした環境政策重視の姿勢については、政策失敗の可能性を指摘する声もありますが、ショルツ首相は経済刺激のために財政赤字を拡大することを視野に入れています。
 しかし、歴史的に財政赤字に厳格なドイツには「債務ブレーキ」というルールが存在し、財政赤字をGDPの0.35%以下に抑える規則があります。近年、このルールを遵守できないケースが増えており、「債務ブレーキ」を守るべきか無視すべきかについて与党内で議論が紛糾しました。

ドイツの節約志向(歴史的な背景)
 ドイツ人の節約志向は歴史的な背景があります。
 18世紀まで歴史を遡ると、1778年にハンブルクで世界で初めて貯蓄銀行が誕生しました。年を取ったり病気になった時のため、貯蓄が行われるようになりました。プロテスタントの節約志向もあり、国中で貯蓄ブームが起こったとされています。

BNPLの利用者の増加とその背景

連立政権の崩壊

 こうした対立が続く中、11月6日、ショルツ首相は自由民主党(FDP)のリントナー財務大臣を解任しました。これを受け、自由民主党(FDP)は連立政権から離脱することを決定し、ドイツ社会民主党(SPD)・自由民主党(FDP)・緑の党による3党連立政権は崩壊しました。
 現在、ドイツ社会民主党(SPD)と緑の党だけでは議会での過半数を確保できないため、政権は何も決定できない状態に陥っています。

総選挙の前倒しを求める声

 ドイツは2025年9月までに総選挙を予定していますが、この状況から前倒しを求める声が強まっています。ショルツ首相も3月頃に選挙の前倒しを示唆しましたが、最大野党であるキリスト教民主同盟(CDU)はより早い1月の実施を提案しています。キリスト教民主同盟(CDU)はかつてメルケル首相が率いた政党です。

 11月に入ってドイツの政局が緊迫する中、アメリカの大統領選挙でトランプ氏が勝利したことも影響しています。トランプ政権下では、EUに対する経済的な打撃が予想され、ドイツをはじめとするEU諸国にもマイナスの影響が見込まれるためです。また、トランプ政権が中国に対して厳しい政策を取ることで、中国経済と関係の深いEUも影響を受ける可能性があります。加えて、ウクライナ支援の継続が不透明になることで、ドイツやフランスが独自に支援を行わざるを得なくなる懸念もあります。

製造業を中心とした経済構造という点においても、トランプ大統領の政策と相性が悪い国と言えます。

トランプ氏が勝利した場合のドイツ経済

総選挙の見通し

 このような状況で、政権の決定力が欠如したままの状態が続くことは、ドイツにとって大きな問題であり、世論調査によると6割以上の国民が早急な総選挙を求めています。こうした世論の後押しもあり、総選挙の前倒しの可能性が高まっています。
 総選挙が実施されると、ショルツ政権は大敗する可能性が高いと見られています。

有力候補

 現時点の世論調査では、最も多くの議席を獲得すると予想されるのがキリスト教民主同盟(CDU)です。このため、キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首が次期首相の最有力候補とされています。
 
かつてメルケル氏が率いた頃はリベラルなイメージがありましたが、現在のメルツ党首のもとでは保守路線へと方針転換を進めています。

キリスト教民主同盟(CDU)の注目政策

 ドイツは2023年4月に最後の原発を停止し、脱原発を完了していますが、ロシアからのエネルギー輸入に依存してきたことが現在のエネルギー問題の一因となっています。キリスト教民主同盟(CDU)は、エネルギー問題を改善するために原発を再稼働させるべきだと主張しています。また、不法移民の取り扱いについても現政権より厳格な対応を求めています。

複雑化する連立交渉の見通し

 11月10日現在の情報では、クリスマスまでに政権への信任投票が行われる可能性が高く、過半数の信任を得られない場合、来年早期に総選挙が実施される見通しです。
 しかし、各党の支持率のばらつきから見て、どの党も単独で過半数を取れず、連立交渉が難航する可能性もあります。結果として過半数を持たない政権が誕生するシナリオも考えられ、選挙後も混乱が続く可能性は十分にあります。

政権交代後の経済的課題と将来展望

 また、キリスト教民主同盟(CDU)が財政緊縮を主張していることから、政権が交代しても経済の厳しい状況は続くと見られます。ドイツ経済の低迷は、ウクライナ戦争やエネルギー問題に加え、長年の中国依存や無理なEVシフトによる環境対策が原因とされており、政権交代だけでは解決が難しいと予想されています。
 このように、来年のドイツの政治情勢は非常に注目される状況が続くでしょう。今後も新たな動きがあれば、随時アップデートしてお伝えしていきます。よろしくお願いいたします。


ご参考

BMWの財務分析


いいなと思ったら応援しよう!