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アルゼンチン経済、ミレイ政権の成果と課題


 最近、アルゼンチン経済に関する解説のリクエストを多くいただいています。特に、ミレイ大統領が就任して1年が経過し、その取り組みを評価する記事が多く出回っています。この記事では、ミレイ政権の政策とアルゼンチン経済の現状について詳しく説明します。

元首
ハビエル・ミレイ大統領(2023年12月10日から任期4年、1回限りの連続再選可)

外務省HP

アルゼンチン経済の現状

 まず、近年のアルゼンチン経済の状況を振り返ります。
 アルゼンチンは長年にわたって経済危機に直面してきました。インフレ率は2023年には前年比200%を超え、1年で物価が2倍、3倍になるという深刻な状況に陥りました。この状況では、給料を手にした人々はすぐに物を購入しなければ価値が目減りしてしまいます。

通貨価値の下落

 このインフレの原因は通貨価値の下落です。アルゼンチンでは慢性的な通貨安が続いています。また、同国は建国以来、国債のデフォルトを9回経験しており、国際的な信頼を失っています。このため、国内外を問わず国債が買われず、中央銀行が国債を引き受けることで財政を賄う、いわゆる財政ファイナンスが繰り返されてきました。大幅な財政赤字とそれを補うための通貨発行が負の連鎖を生み出していました。この連鎖を断ち切らなければ、インフレや通貨危機の改善は見込めません。

日本との比較

 なお、日本とアルゼンチンの状況は大きく異なります。アルゼンチンでは過去に9回ものデフォルトを経験しており、国債への信頼が極めて低い状況です。そのため、国内外の投資家が国債を購入せず、中央銀行による引き受けが続いてきました。
 日本は依然として国債市場における信頼を保っています。日本とアルゼンチンの財政状況や通貨の信頼性には大きな違いがあることを認識する必要があるでしょう。

ミレイ大統領の政策

 2023年に就任したミレイ大統領は、財政赤字削減を最優先課題として掲げました。

内政
 2023年12月、決選投票を経て、自由至上主義的政策を掲げるミレイ政権(自由の前進党)が発足。小さな政府(緊縮財政、規制緩和、自由貿易等)を目指し、また、ショック療法的な経済・財政改革に取り組んでいる。

外務省HP

 この1年間で、以下のような具体的な政策が実行されています。

  • 公共料金補助金の廃止:電気代やガス代への補助金を撤廃しました。

  • 国営企業の民営化:国営企業を民間に移管しました。

  • 公務員のリストラ:この1年で解雇または契約更新されなかった公務員は7万人を超えました。

 これらの改革により、政府支出を歳入の範囲内に抑えることに成功し、国家財政は黒字化を実現しました。

 結果、インフレ率も徐々に落ち着きつつあります。2024年11月の消費者物価指数(CPI)は前年比+166%と依然高水準ですが、前月比では+2.4%にまで低下しました。アルゼンチンの過去と比べれば安定した水準です。なお、ミレイ大統領就任当初の2023年12月には、前月比+25.5%という極端なインフレ率が見られていました。

経済成長の停滞

 財政健全化やインフレ抑制は一定の成果を上げていますが、経済成長率はマイナス成長が続いています。実質GDP成長率(インフレ調整後)は、

  • 2024年第1四半期:前年比−5.2%

  • 第2四半期:−1.7%

  • 第3四半期:−2.1%

 という状況です。政府が緊縮財政を進めた影響で経済活動が低迷し、雇用環境も悪化しました。失業率は2023年第4四半期の5.7%から、2024年第1四半期には7.7%に急上昇し、第2四半期以降も7.6%前後で推移しています。

貧困率の上昇

 アルゼンチン国家統計局の発表によると、貧困率は2023年下半期に41.7%から、2024年上半期は52.9%に上昇しました。国家財政の黒字化や物価安定だけでは、国民の生活水準が向上しているとは言えない状況です。

支持率の維持

 ミレイ政権の支持率は高水準を維持しています。2024年10月末時点でのロイターの調査では支持率は52.5%で、他メディアでも概ね50%前後の支持を得ています。特に、物価上昇の抑制は国民にとって実感しやすい成果であり、高い支持率の要因となっています。
 ただし、経済成長率の低迷や失業率の悪化が続く中で、国民の忍耐がどこまで続くかが注目されています。

今後の課題

 財政政策による景気刺激が難しい中、アルゼンチン経済を成長軌道に乗せるためには、以下の施策が重要でしょう。

  • 規制緩和:国内外の企業活動を促進。

  • 海外投資の呼び込み:特にアメリカとの外交関係強化が鍵となります。

  • IMFとの交渉:IMFからの支援を有利に進めるため、アメリカの支援を取り付ける努力。

 ミレイ大統領はアメリカとの関係強化を積極的に進めており、イーロン・マスク氏がアルゼンチンへの投資に関心を示しているとの報道もあります。こうした動きが実際に成果を上げられるかが、2年目以降の課題となるでしょう。

結論

 ミレイ政権の1年目は、財政赤字削減やインフレ抑制において一定の成果を上げました。しかし、経済成長率や失業率、貧困率といった指標を考慮すると、まだ評価を下すには早いと言えます。今後の成長戦略や国民生活の改善が、政権の真価を問う試金石となるでしょう。
 アルゼンチン経済の動向は今後も注目される分野です。引き続き情報をお届けしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。


ご参考

 「日本もアルゼンチンのようになるのではないか」、「日本は大丈夫か」とのコメントがたくさん寄せられています。しかし、結論から言ってしまうと、日本はアルゼンチンのような状況にはならないと思います。

日本経済とアルゼンチン経済の比較

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