和歌をヨム②:修辞法
これは高校生の大学受験のための知識整理を目的としたページです。
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修辞法
■ 公式42・枕詞
A:基本知識:空欄を埋めてみよう!
枕詞は、和歌の中にある語を導き出すために用いられる。主として5音から成り、例えば「ひさかたの」という枕詞に対して「空・光・天」などの語が導かれるといったように、枕詞と導き出される語の間には一定の対応関係が決まっている。ただその関係性が現代では不明なものが多く、口語訳はしない。初読の和歌で枕詞を見つけるヒントは、原則が五音と言うところから考えると初句、または三句にあり、中心主題とは無縁な表現(取り除いても意味が変わらない句)があれば枕詞であることを考えてみることである。
B 基本問題
次の枕詞によって導かれる語を表示されたもの以外で答えなさい。
ア:あしひきの=峰
イ:あづさゆみ=張る・音・末
ウ:あらたまの=月・日
エ:あをによし=
オ:いはばしる=滝
カ:うつせみの=世・人・身
キ:くさまくら=仮・露・結ぶ
ク:しろたへの=袖・袂・床・枕
ケ:たらちねの=親
コ:ちはやぶる=宇治・わが大君
サ:ぬまたばの=夜・闇・月・夢
シ:ももしきの=うち
■ 公式43:序詞
A:基本知識:空欄を埋めてみよう!
■ 枕詞との違い
序詞も枕詞と同じように和歌の中にある語を導き出すために用いられる修辞である。しかし、枕詞とは次の三点で異なる特徴を持つ。
①:枕詞が5音が多いのに対し、序詞は7音以上。
②:枕詞には導き出される語との間に一定の対応関係が決まっているのに対し、序詞では対応関係は定められていない。その場で即興的に創作される。
③:枕詞は口語訳しないが、序詞は原則口語訳をする。口語訳する場合、中心主題との接続は「~ではないが・~のように」と意味を取る場合が多い。ただ、序詞はある語を導き出すために用いられる修辞であるため、歌の中心主題のみを読み取りたい場合は序詞を除いた部分で考える。
■ 序詞の基本的な三つのパターン
①:比喩的に接続
例えば「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む」の歌では「長々し夜をひとりかも寝む」という「ひとり寝の寂しさ」を中心主題とし、その夜の長さを表す「長々し」を導き出すために「山鳥の垂れた尾のように」という序詞が用いられている。この場合には序詞の切れ目に格助詞の比喩の「の」があって「~のように」とつなげているこのようなケースが多いことにも注意する。
②:掛詞によって接続
例えば「風吹けば沖つ白波たつた山夜半にや君がひとり越ゆらむ」なら、「龍田山を夜に越えていく男の安全を思う気持ち」を中心主題とし、その「竜田山」を導き出すために序詞の「風吹けば沖つ白波」が導き出す(白波が)「たつ」がそれに掛けられることで下に接続していく。
③:同音反復によって接続
例えば「みかの原わきて流るるいづみ川いつみきとてか恋しかるらむ」であれば、その「いづみ川」の「いつみ」を繰り返すことで「いつみきとてか:まだお会いしたこともないのにどうしてこんなにも恋しいのか」という思いを中心主題を導き出すのである。
■ 初読の和歌で序詞を見つけるヒントは、七音以上の中心主題とは無縁な表現に着目すること。一般的には自然描写を序詞とし、中心主題の心理描写につなげる形が多く、そうした理解も読解には大きなヒントになる。
B:基本問題
序詞とその中心主題への関わり方(上の説明の①②③のいずれか)を確認しよう!
ア:かくとだにえやはいぶきのさしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを
イ:瀬をはやみ岩のせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ
ウ:駿河なる宇津の山辺のうつつにも夢にも人にあはぬなりけり
エ:みちのくのしのぶもぢづり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに
■ 公式44:掛詞
A 基本知識
掛詞は一つの語に二つの意味を持たせ、表現を豊かにする表現技巧である。
立ち別れいなばの山の峰におふるまつとし聞かば今帰り来む
であれば、「いなば」には「因幡・往ばな」が、「まつ」には「松・待つ」が掛けられている。
■ 基本的には、今の歌の「まつ」、また例えば「はる」が「春・張る」のように二つの意味の違いは漢字での書き分けが可能であり、掛詞を探す時には平仮名で書かれている語を探すことが大きなヒントになる。ただ、「逢」が「逢う・逢坂」のように同じ漢字をかけている場合や、「おもひ」の「ひ」が「(思)ひ・火」というかけられ方をしているなどのように一部の意味が重なるケースもある。また、清音・濁音の区別は関係なく使われるので注意が必要。
■ もうひとつ大事にしたいのは、原則的にということではあるが、掛詞の一方は中心主題に関連・一方は中心主題に無縁(間接的関連)であり、中心主題を見極め、逆に中心主題とは無縁な表現に着目すること。
この歌では「立ち別れいなば・まつとし聞かば今帰り来む」(あなたと別れ都を去ったとして・あなたが私を待つと聞いたなら私はすぐに帰って来よう)が中心主題。「因幡の山の峰におふる松」は中心主題とは無縁ということになる。それに気づくことが修辞法の存在を教えてくれる。この部分は中心主題を導く序詞ということになる。
この歌のように、和歌の前後の文章にある自然の描写や地名に目を向けることも掛詞を見抜く手がかりとなる。
B:基本問題
1:掛けられている二つの意味を考えよう!
ア:あかし・イ:あき・ウ:おく・エ:なみ・オ:かり・カ:すみ・キ:しのぶ・ク:よる・ケ:よ・コ:みる・サ:みをつくし・シ:かる
2:次の歌の掛詞を指摘しなさい。
ア:大江山いく野の道の遠ければまだふみも見ず天の橋立
イ:山里は冬ぞさびしさまさりけり人めも草もかれぬと思へば
ウ:花の色は移りにけりないたづらにわが身世にふる ながめせしまに
C:入試問題
1:次の掛詞にはどのような意味がかけられているか。漢字で答えなさい。
いかでかく巣立ちけるぞと思ふにもうき水鳥のちぎりをぞ知る
2:次の歌の「鳴海」にかけられているもうひとつの意味を答えなさい。
これやさはいかに鳴海の浦なれば思ふかたには遠ざかるらむ
以下、掛詞・序詞以外の修辞法
■ 公式45:縁語
A 基本知識
縁語とはある語を中心として、それと関係の深い語を歌の中に配置し、連想の効果によって表現を豊かにする技法である。文字通り「縁の深い語」である。
例えば「青柳の糸よりかくる春しもぞ乱れて花の乱れにける」の歌には「糸」ということばを中心に「よりかくる・乱れ・乱れ」という縁語が配置されている。
初読の和歌で縁語を見つけるヒントは、多くは中心主題の心情とは無縁であること。したがって、心情とは別の和歌の中の事物や情景に関する語、内容に関連する自立語(付属語の縁語はない)を探していくこと。
また、掛詞は「掛詞の一方は中心主題に関連・一方は中心主題に無縁」と説明したが、その掛詞の中心主題と関連のない方の意味が縁語として並んで用いられていることも非常に多い。
B:基本問題
1:次の縁語の並びの中心となる語を予想してみよう。
ア:ふし・よ・刈り根
イ:沖・漕ぐ・海人・波・潮
ウ:結ぶ・解く・涙
エ:渡る・はやし・瀬・底・淵・沈む・せきとむ・深し
オ:傾く・入る・雲・影
カ:なびく・火(思ひ)
キ:消ゆ・結ぶ・干る・玉・命
ク:楫(かぢ)・漕ぐ・渡る
ケ:張る・射る・引く
2:次の歌の縁語を指摘しよう。
から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ
■ 公式46:体言止め
A 基本知識
体言止めは歌の末尾を体言で結ぶことによって余情を表す技巧であり新古今集(以降)に特徴的な技法である。
例えば、新古今集には「秋の夕暮れ」で終わる有名な三つの歌があり、これを「三夕の和歌」と呼んでいる。れも名歌であり、記憶したい。
・心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮れ(西行)
・見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ(定家)
・さびしさはその色としもなかりけり槙立つ山の秋の夕暮れ(寂蓮)
■ 公式47:本歌取り
A 基本知識
本歌取りは古歌の語句や趣向を背景として取り入れ、その詩情ベースにしつつ、新たな詩的情趣を付加して詠み出す技法である。
よく知られている例としてひとつ挙げる。
A:苦しくも降り来る雨か神の﨑狭野の渡りに家もあらなくに(万葉集・長忌寸奥麿)
B:駒とめて袖うちはらふ陰もなし佐野のわたりの雪の夕暮れ(藤原定家)
Bの歌はAの古歌を本歌としつつも、それにとどまらず、①雨を雪にかえ、②時刻を夕暮れに限定し、③旅の苦労を歌った古歌を、白一色の雪景色の中にたたずむ旅人の寂寥感に満ちた絵画的世界に創造することに成功しているといった具合である。
前にあった作品をうまく踏まえて独自色のあるものに仕上げることを広い意味で本歌取りと言うようにもなっている。
B 基本問題
■ 空欄を補ってみよう。
君をおきてあだし心をわが持たば末の松山波も越えなむ(古今集)
この和歌は「契りきな( ア)」という和歌を踏まえている。「末の松山」は陸奥国の歌枕。「波が決して越えない山」として歌に詠まれた。
古歌においては「末の松山を波が越えることはあるまい(心変わりすることはあるまい)と誓ったのに」とかたく愛を誓い合った相手(女)の心変わりを恨んでいるのに対し、この歌は自分が(イ:「あだし心」の意味)を持つならば、末の松山を波が越えるだろう:ありえないことが起こるだろう」と言い、自分の愛の強さを誓う歌となっている。
■ 公式48:引き歌
A 基本知識
引き歌は、ある古歌の一部が示されることで古歌全体のニュアンスを暗示的に示す方法。
例えば、和泉式部日記の冒頭、作者と恋人の関係にあった為尊親王が亡くなり、その弟の敦道親王から作者のもとに橘の花が届けられる。それを見た作者が「昔の人の」と思わず口にするのだが、それは「五月まつ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」を踏まえており、「橘」の香りがきっかけとなって「昔の人」すなわち、亡くなった為尊親王が思い出されたことを示しているのである。
他にも例えば、「しのぶの乱れやと疑ひきこゆることもありしかど」ということばは「みちのくのしのぶもじずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」を踏まえ、「恋に乱れる心」を表し、「飛鳥川」であれば「世の中はなにか常なる飛鳥川昨日の淵ぞ今日は瀬になる」が踏まえられ「無常」を表している。くどいが、「これも、わりなきこころのやみに」とあれば、「人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな」が踏まえられ「子を思う故の惑い」を表す。
こうした、古歌を踏まえてその心情と関連させる例は古文には多い。引き歌はその歌の一部だけが示されることになる。入試においては、注にその歌の全体が示されることが多く、古歌の中心主題を読み取ったうえで、引き歌と本文の関係を考える。
■ 公式49:隠題(物名・折句・沓冠)
A 基本知識
和歌の中にある言葉を隠して詠み込む技法である(清濁の音は不問)。これらは歌の前後の文章に詠み込まれる物の名前が記されているケースがあるので注意したい。隠し題には次の三つがある。
■ 物名・・ある物の名を、連続する語のまま歌の中に詠み込む。
例えば「あしひきの山たちはなれゆく雲の宿りさだめぬ世にこそありけれ」であれば「たちはな:橘」という花の名が隠されている。この場合のように、歌の中の語の意味とは全く別に、二つの語にまたがり、活用語尾や助詞から始まることもある。
■ 折句・・折句は物名が連続した語として詠み込まれるのとは違い、各句の頭に一字ずつを詠み込む技法である。「から衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬるたびをしぞ思ふ」の歌であれば「かきつはた」という花の名が隠されている。
■沓冠・・各句の頭(冠)に言葉を詠み込むのが折句であれば、沓冠は各句の末(沓=くつ)にもある言葉を折り込んだものである。吉田兼好と友人の頓阿との間でやり取りされた次の和歌が非常に有名。
兼好の歌の各句の頭の文字を拾うと
「よもすずしねざめのかりほたまくらもまそでもあきにへだてなきかぜ」→「よねたまへ(米、給へ)」と読め、各句の末尾を逆さから読むと
「よもすずしねざめのかりほたまくらもまそでもあきにへだてなきかぜ」→「ぜにもほし(銭も欲し)」となり、貧乏な兼好が友達に米と金を無心しているのが分かる。
一方、頓阿の返事の歌の各句の頭の文字を拾うと
「よるもうしねたくわがせこはてはこずなほざりにだにしばしとひませ」→「よねはなし(米はなし)」と読め、各句の末尾を逆さから読むと
「よるもうしねたくわがせこはてはこずなほざりにだにしばしとひませ」→「せにすこし(銭少し)」となり、兼好の申し出に応じられない旨が表現されている。実に面白いやりとりである。
■ 公式50:付け句・連歌
A:基本知識
技法というわけではないが、和歌を含む古文を読むには欠かせないものとして「付け句」を採り上げておきたい。これは、五七五が提示され、それに七七を付けるケースと、逆に七七が提示されていて、それに五七五を付けるケースがある。
こうした形で和歌を用いた贈答も多く行われた。
枕草子で藤原公任から「少し春ある心地こそすれ」という下の句が届き、それに清少納言が「空寒み花にまがへて降る雪に」という上の句を付けて返したという有名なくだりがある。これは公任が「少有春」という白氏文集の一節を和歌の下の句に読みかえたものだということを見破り、同じ白氏文集の詩の「雲冷多飛雪」を踏まえて和歌の上の句として付けた清少納言の機知を描いたものである。このような知的な機転と素養が貴族社会では求められたのである。
こうした付け句はやや時代が下がるにつれて連歌という形式に整えられていく。言ってみれば付け句は短連歌だが、最初に置かれた五七五に対して、次の人が七七を付け、また別の人が五七五を付けるというかたちで連綿と続けていく長連歌が流行していく。百韻を単位として千句、万句など。
ちなみに、連歌の最初の五七五を「発句」と言い、これが独立して後の俳諧、さらに俳句へ発展していく。同じ五七五の形をとる川柳は、逆に下の句に対して行う「前句付け」が独立したものである。
B:基本問題
■伊勢物の一節に次のようなやりとりがある。男君の五七五、女君の七七をそれぞれ解釈しなさい。
男君、来ざりつるを思ひけるもあはれにて「何事を思へるさまの袖ならむ」
とのたまへば、女君、「身を知る雨のしづくなるべし」とのたまへば、
■ 公式51:見立て
A 基本知識
見立てはある事物を別の事物になぞらえて表現する修辞である。大雑把な言い方をすれば比喩である。例えば、「堀北真希は女神だ」と比喩すれば、これは見立てであり、取り立てて難しいものではない。
例えば「秋風にこゑを帆にあけてくる舟は天のとわたる雁にぞありける」では「舟」が「雁」に見立てられている。
即興的に作られるものもあるが類型的な見立ても多く、いくつかのパターンは覚えておくと理解がスムースであるケースが多い。・雪→花(桜・梅)・花→雪・遠くの山に咲く桜→白雲・雨→涙・紅葉→錦・白髪→雪・霜のようなものである。
例えば、「白露に風のふきしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける」では「白露」を「玉」に、「霞たち木の芽も春の雪ふれば花なきさとも花ぞちりける」では、「雪」を「花」に、「さくら花ちりぬる風のなごりには水なきそらに浪ぞたちける」では、桜の花びらを「浪」に見立てている。
■ 公式52:歌枕
「歌枕」は、和歌に多く詠まれた名所旧跡のことである。これも修辞法と言えるかどうか微妙だが、和歌の中にはたくさんの地名が唄われており、歌人たちは意識的にその土地の名を歌に採り入れたと考えられる。
致命は単に地名を意味するだけでなく、古歌に繰り返し歌われる中で、ある特定のイメージを持つ作用を帯びるようになった。例えば、「吉野山」であれば桜、「竜田川」であれば錦、「末の松山」であれば、絶対に「ありえない」ことから「心変わり」に関わる歌に用いられ、「逢坂の関」であれば、人と逢うこと別れること、あるいは、逢うことを妨げられるという関わりで用いられるといった具合である。
ちなみに、伊勢物語の「東下り」で多くの場所が採り上げられているのは、京の人が見たこともない土地のありようを紹介するような意図があったのではないかと思われる。
■ 公式53:和歌用語・知識
この項目に関しては挙げきれない。中途半端だが、項目だけを立てて必要を感じた時に随時加筆していきたい。
A:基本知識
■歌合せ
競技者を左右二組に分け、それぞれから一首ずつ歌を提出させ番を作り優劣を争わせた文学的遊戯。
例えば「千五百番歌合」では、左右から千五百の歌が出され、三千首の歌が提示される膨大なものである。題詠が多く、前もって出しておく兼題と、その場で出す即題があった。
左右に競技者としての「|方人《かたうど》」を選出し、それぞれの方人の統率者は「頭」と呼ばれた。時代を経るにしたがって代作ではなく、自分の歌を真剣に歌う傾向が強くなり、遊戯的気分が薄れて行った。
「|判者《はんじゃ》」が「勝・負・|持《じ》:引き分け」を判定。平安時代から鎌倉前期にかけて流行し歌学の発達を促したが、歌につく「|判詞《はんじ》」は現在でも歌学史研究の好資料である。
■歌論用語
歌論や歌合せの判詞には、その分野独特の用いられ方をする言葉がある。
■ 次の語の意味を考えよう!
ア:本
イ:末
ウ:腰
エ:腰折れ
オ:こころ
カ:詞
キ:姿(さま・風体)
ク:たけ(例:たけたかし)
ケ:優(艶・やさし))
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