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森村誠一さん死去

◉いちおう大学の先輩なんですよね、面識はまったくないですけれど。幸田露伴やあさのあつこ先生、菊地秀行先生なども有名ですが。自分は、1978年の映画版『野性の証明』が好きで、小説の方は中学の時に初めて読んだ記憶が。そこから、『人間の証明』は進み、『青春の証明』の三部作へ。また同時期、後に批判される『悪魔の飽食』も、市営図書館で借りて読みました。執筆自体は、2017年頃を最後に、止まっておられたようですが。昭和一桁という年齢を考えれば、仕方がないですね。90歳は大往生かと。

【作家 森村誠一さん死去 90歳 「人間の証明」など】NHKニュース

小説「人間の証明」などで知られる作家の森村誠一さんが24日、肺炎のため都内の病院で亡くなりました。90歳でした。

森村誠一さんは1933年に埼玉県で生まれ、大学卒業後、東京や大阪のホテルに勤務しながら執筆活動を始めました。

1969年にホテル勤めの経験を生かしたミステリー作品、「高層の死角」が江戸川乱歩賞を受賞して人気作家となり、1973年には原子力をめぐる研究者や企業による利権争いを題材にした「腐蝕の構造」で日本推理作家協会賞を受賞しました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230724/k10014140681000.html

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、麦わら帽子の写真です。

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個人的には、小説版『人間の証明』の切なさと、最後に描かれた人間の良心の部分が、好きです。また、理想的な家族を演じる姿が、後に次々と明らかになる仮面夫婦や、崩壊した芸能人の家庭を先取りしていました。『野性の証明』は映画版は、高倉健さん演じる主人公の味沢が、かっこよくて。でも、小説版の方は救いようのない、後味の悪いラストなんですよね。まぁ、そこがまた切ないんですけどね。映画版は、そういう意味では改悪なんですが。でも、あの戦車軍団にピストル一丁で立ち向かう高倉健さんの姿は、やっぱりかっこよかったです。町田義人さんの主題歌『戦士の休息』は、永遠の名曲ですしね。

『人間の証明』は西條八十の『ぼくの帽子』をモチーフにしており、最初に読んだときは衝撃でしたし、あとがきでの森村先生とこの詩との出会い、作品に使いたいという構想との長さが、なかなかに興味深く。作話というものの、参考になりました。戦後という時代の、ある種の反米気分とか、いろんなものが絡んでいて、時代背景もかなりでした。トリック重視というよりは、動機重視の作品で、これ自体は森村作品の傾向でもありますが。と言っても、自分は証明三部作と悪魔の飽食以外は、時代劇を幾つかしか読んでいないので。あ、でも生原稿は出版社勤務時代に、見たことありますけどね。

ぼくの帽子

母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
ええ、夏、碓氷うすいから霧積きりづみへゆくみちで、
谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。

母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
僕はあのときずいぶんくやしかった、
だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。

母さん、あのとき、向こうから若い薬売りが来ましたっけね、
紺の脚絆きゃはん手甲てこうをした。
そして拾はうとして、ずいぶん骨折ってくれましたっけね。
けれど、とうとう駄目だった、
なにしろ深い谷で、それに草が
背たけぐらい伸びていたんですもの。

母さん、ほんとにあの帽子どうなったでせう?
そのとき傍らに咲いていた車百合の花は
もうとうに枯れちゃったでせうね、そして、
秋には、灰色の霧があの丘をこめ、
あの帽子の下で毎晩きりぎりすが啼いたかも知れませんよ。

母さん、そして、きっと今頃は、今夜あたりは、
あの谷間に、静かに雪がつもっているでせう、
昔、つやつや光った、あの伊太利イタリーむぎの帽子と、
その裏に僕が書いた
Y.S という頭文字を
埋めるように、静かに、寂しく。

追悼の意味も込めて、Kindleで証明三部作を購入しました。久しぶりに読み開けそうと思います。ジョー山中さんの『人間の証明のテーマ』も名曲でした。角川映画は当初から、音楽にも力を入れていたんですよねぇ。今は、TBSラジオ『問わず語りの神田伯山』のテーマ曲としてかかりますが、切ないメロディが胸に刺さります。西條八十の詩を英訳しているのですが、子供の頃は歌詞の内容が解らず。でも、なんか夏の日差しと、子供時代を思い出しますね。麦わら帽子は、鹿児島でもあんまり被りませんでしたが。小学生時代の思い出と、シンクロする楽曲です。

森村誠一先生のご冥福をお祈りします。合掌



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