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恋猫効果 #シロクマ文芸部

 恋猫と出会うと恋が叶う。
 そんなありきたりな噂を聞いた。

 友だちの少ない私の耳にも入ってくるのだから、相当流行っているんだな。
 他人事のように思う。
 恋猫と呼ばれるその猫が、どんな猫なのかを、私は知らない。
 私は恋も知らない。
 中学二年にもなれば、すでに恋のひとつやふたつ、いや、いくつもの恋を経験している子だってクラスにはいるだろう。
 けれど、私は、恋を知らない。

「友だちが送ってくれたの〜! 待ち受けでも効果あるかな?」
「待ち受けで効果あるなら、みんな恋愛成就じゃない?」
「あー、そっかぁ。やっぱり本物かー!」
 今日もクラスの女の子たちはキャアキャアと盛り上がっている。
『私にも見せて』と、ひとこと、言えたらいいのに、とは思う。
 猫は好きだ。
 いじめられているだとかそういうことではなく、私は単にそういう輪の中に入っていけないだけ。
 いわゆる陰キャなのだという自覚はある。

 恋猫。
 会ってもわからないし、叶えてもらいたい恋もない。
 それでも、どんな猫なのか興味は湧く。



 また明日、と友だちと別れた帰り道。
 一匹の猫が私の前にいる。
 初めて見る猫だ。
 見かける猫を目で追ってしまうクセがあるけれど、この猫は見たことがない。

「にゃ」
 小さく、猫が鳴く。
 スルリと足元に寄ってきた。
 ついしゃがんで猫に手を伸ばすと、撫でて、とでも言うように頭を擦り寄せてくる。
 スルスルと数度その小さな頭をなぞれば、やけに毛並みが良く、指先に伝わる心地よい感触。
「君は、恋猫?」
 そんな質問をしても返事をするはずもない。
 ただ、頭を撫でられて満足げな様子だ。

「あ、恋猫じゃん」

 うしろから聞こえた声にビクリと肩が跳ねた。
 それでも猫は逃げずに、また「にゃ」と小さく鳴く。
 振り向けばクラスの男の子。
 やっぱり、この猫が恋猫なんだ。
 心の中で相槌を打った。声に出して言えばいいのに。

「あ、え、そう、なんだ……、私、知らなくて」
 振り絞って出したような声は震えていた。
 けれどそんなことを気にしない様子で、彼は返事をくれる。
「えっ、そうなの? でもすごいね」
 すごい? 私が? いったい、なにが、
「すごいって、なにが、」
「だって、あんなにクラスの女子が盛り上がってるのに全然会えないって。そんなレアな猫に会って、なつかれてる? みたいだし、すごくね?」
「そ、かな?」

「おー、好きなやつとか居るのか知らないけど。叶うといいなー」

 のんびりと言ってくしゃりと笑った。

 私は、恋猫を知った。


 恋を、知った、のかも、しれない。





#シロクマ文芸部 企画に参加しました。

よくありそう、なものになってしまった感。
自分で書いておきながら、ちょろすぎるよ、主人公……
とか言い訳を書いてしまう。


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涙星 1/23「星が降る」
冬の半袖 1/30「寒い日に」

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2025.02.09 もげら

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