目取真俊『目の奥の森』
太平洋戦争末期の沖縄。
ある夕、島の浅瀬で貝を採っていた少女達の方へ対岸から数人の米兵達が泳いで来た。彼らは波打ち際の少女達のところまでやって来ると、小夜子を拉致しアダンの茂みの陰に連れ込んだ。
この事件の後、米兵達はジープで部落にやって来ては、男達が見ている前で女達に乱暴を繰り返したが、ライフル銃ににらまれて男達は動けないままだった。/
【米兵達が海に飛び込んだ直後、崖の下の岩場から一人の若者が銛(もり)を手に海に走っていくのが見えた。褌(ふんどし)姿の若者は海に入ると、銛に付けた紐を腰に結わえ、沖に向かって泳ぎ始めた。(略)
盛治(せいじ)だ。(略)
西日が海に反射し、米兵達の姿は黒い頭しか見えなかったが、まだ岸に近い盛治の姿は、後ろに引いている紐と銛も水面下にはっきり見えた。波を立てないように平泳ぎで進み、盛治は米兵達の側面に回り込もうとしていた。米兵達が内海の半分まで来たとき、盛治は方向を変え、潮の流れに乗ってそれまでの倍以上の速さで米兵達に近づいていった。】/
【闇の奥から走ってくる足音が近づくと白い砂が敷かれた集落内の筋道を踏む女の足やふくらはぎが浮かび上がり、流れ落ちる血が砂にまみれた足の甲に白と赤の斑模様を作る。乱れた黒い髪が陽の光をはじき、女のはだけた胸が揺れ、滴る汗と涙が青い血管の透けて見える肌や白い道に飛び散る。蟬の声と波の音を女の叫び声が切り裂く。聞いている者の心を抉るその声に誰もが動けなくなり、女の見開かれた目と大きく空いた口を見つめ、走り去る後ろ姿を見やる。森の中に走って消えていく女の最後に発した叫び声が耳に残り、立ち尽くして見ている者達の目から熱いものが溢れる。】/
大戦末期、ソ連の参戦によって、雪崩をうって満州から引き揚げる人々。
生き延びるため、ソ連軍に婦女子を差し出した。
どうしても、このエピソードを思い出してしまう。
荒ぶる米軍に沖縄の婦女子を生け贄に差し出して、そのことによって本土の国民の安寧を図ろうというつもりなのか?
僕にはどうしても分からないのだ。
この国が独立国だということが。