ムー! 【無門関第一則 趙州狗子】①
カエル「(ドアを開ける)あ、こ、こんにちは。この部屋でいいのかな … ?ケロ。」
無門ガエル「よく来たねえ、カエル君。待っていたよ。」
カエル「あ、初めまして … あの、とりあえず、お師匠様に、話をしてこいと言われてここに来たんですが、いったい何のお話をするのでしょうか?ケロ。」
無門ガエル「そうだね。これから、公案の話をしよう。あまり難しく考えなくていいよ。肩の力を抜いて … 気楽にね。」
カエル「は、はい … (優しそうなおじさんケロ … )。」
無門ガエル「公案というものが何かは、知っているかい?」
カエル「はい、お師匠に教えてもらいました!禅の修行で使われる問題ですよね。」
無門ガエル「うん。ざっくり言うと、そう。それじゃあ、無門関は知ってる?」
カエル「はい。無門慧開さんが編集して、コメントとか詩を付けた、公案集ですね。ケロッ。」
無門ガエル「そうそう。ところで、私の名前は、その無門さんからいただいたんだ。」
カエル「ほえ〜、いい名前ですねぇ。」
無門ガエル「うん、自分でも気に入っているよ。今日は、その無門関の第一則、つまり一つ目の公案の、『趙州狗子』の公案の話をしようか。」
カエル「おぉ〜、いいっすねぇ!確か、無門関を編んだ無門さんは、この公案で悟ったから、公案集の最初にこれを持ってきたんスよね。」
無門ガエル「そうだね!よく知っているねえ。公案としては、最もベーシックなものなんだけど、悟るには、これひとつあれば足りる、という類の代物でもあるんだよ。」
カエル「そ、そうなんスか?!そういえば、お師匠様が、ムーってやれやれ!ってしつこく言ってました。ケロ。」
無門ガエル「そうそう。だから、けっこうな割合で、公案を扱う道場では、最初に取り組む公案に設定されているみたい。さて、このお話の登場人物は、趙州和尚だ。この人は、数ある禅マスターたちの中でも、別格扱いされていてね。」
カエル「お、そうなのかぁ。どこらへんが別格なんでしょうかね?」
無門ガエル「この人はね、18歳のときに見性して、つまり、自己の正体を体験的に見破ってしまって、そのあと南泉というお師匠さんのところで修行して、57歳のときに悟った。禅では「大悟徹底」なんて言われるやつだ。その間 39年、修行の日々だよ!」
カエル「ひえ〜、そんな長い間 … 」
無門ガエル「それだけで、すごいよね。でもさ、これには続きがあって … 彼はね、60歳になってから、再び修行の旅に出るんだ。」
カエル「ほえ?!なんでですか?悟ったんですよね?」
無門ガエル「そうだねえ、理由ね … 趙州和尚になってみないと本当のところはわからないけれど、まあ、悟りを落とす修行、あと、指導力を養う修行に出たんだと思うよ。」
カエル「指導力を養う、は良いとして、悟りを落とす … って、良く意味がわからないんですけど … 」
無門ガエル「うん。なかなかイメージしづらいと思うんだけど、悟ると、「悟った」っていうのが意識に残っちゃって、それが不自由のもとになるんだ。分かりやすいところで言うと、天狗になっちゃったりとかね。だから、落としちゃわないといけない。喩えるならね … 服を洗濯するには洗剤を使うけれど、その洗剤も最後は濯いで落とさなきゃ、洗濯が終わったとは言えないでしょ?洗剤が残ってちゃマズい。悟りを、この喩えで言うところの洗剤だと思ってもらえると、ちょっとイメージしやすいかな?」
カエル「おぉ、なるほど〜!分かりやすい。」
無門ガエル「それで、趙州さんは、方々の禅マスターたちと問答をしながら旅を続けた。あの有名な臨済禅師との問答なんかも残っていて、胸熱なんだよ!」
カエル「それは、リヴァプール対レアル・マドリードばりに熱いっスね!」
無門ガエル「? そ、そうかもしれない。それでね、80歳になって、やっと自分のお寺を持って、後進の指導を始めたんだ。悟ってから20年以上、修行だよ!」
カエル「気の遠くなるような話っス … 」
無門ガエル「さあ、その円熟した趙州和尚が、いったいどんな風に弟子に対したか。ベーシックかつ究極の公案「無字」とは?それを、次回見てみることにしよう!」
カエル「(あ、今回は前置き … )」
続く
参考文献: 窪田慈雲著、春秋社、「心に甦る『趙州録』」2013年