shin

自分はおもしろいと思っているけど他人が読んだら全然おもしろくなさそうなことを胸を張って書いています。ご了承ください。

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マガジン

  • 小説と小説のようなもの

    文字を記して芸とすることを目指して書いています

  • エッセイやコラム

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最近の記事

不適切裁判所

 早朝のターミナル駅で意図的に混乱を引き起こしたと訴えられた被告人は、起訴状が読み上げられる間もイラつきを隠せない様子だった。検察官が起訴状を読み終わり着席すると、裁判長は穏やかな声で被告人に語りかけた。 「あなたはなぜ、その老人を助けたのですか?」 「助けた行為がなぜ罪になるというのですか? 困っている人がいたら助けるのが普通じゃないですか」  被告人の声のトーンが少しだけ荒くなり、裁判長は少し呆れたように首を横に振った。 「では、被告人。あなたが老人を助けたときの様子を、

    • すり鉢すべり台

       息子は幼稚園が終わるといつも、近くの公園に行きたいと言ってせがんでくる。お迎えの帰り道、一時間だけという約束で公園に行くのだが、その約束が守られることはほとんどない。  今日もいつも通り公園に着くと、息子はお気に入りのすり鉢すべり台に向かって走り出した。コンクリートでできた丸くて大きなこのすべり台は、中央がすり鉢のようにくり抜かれており、手前から奥に向かって傾斜がきつくなっている。側面には、子供が足をのせるには十分なサイズの石が、一定の間隔で埋め込まれていた。すべり台にたど

      • TX¥

         火曜日の午後三時、スーパーの店内は客もまばらで、五台あるレジは二台しか稼働していなかった。島村はそのうちの一台に立つ星野という女性を目当てにこの店に通っていた。彼はレジに星野がいることを確認してから店内を一周する。一週間分の食料を適当に選び、迷うことなく彼女のレジに並んだ。島村の順番が回ってくると、彼女は優しく微笑みながら丁寧にお辞儀をし、商品をスキャンしはじめた。 「いらっしゃいませ、今日はちょっと冷えますね」  声をかけられた島村は、視線を星野の手から顔に移し、照れなが

        • 或る1日の記録

           副編集長に昇進する辞令を受けたのは昨日のことだった。入社してから常に特集記事の企画採用率がトップだった私としては、やっとという思いだった。上司や同僚たちからお祝いをしようと飲み会に誘われ、帰宅したのは深夜2時近くだった。朝は強い方なので普段は目覚ましなしで起きられるのだが、今朝起きて枕元の時計を見るといつもより30分も遅かった。急いで身支度を済ませて家を出ると、少しだけ足取りが重かった。気分は悪くなかったので久しぶりの深酒のせいだと思い、できるだけ急いで歩いた。  オフィス

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        • 小説と小説のようなもの
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          5本

        記事

          星詠みの窓

           帰宅してノートパソコンのスリープを解除し、パスワードを入力した。エンターキーを押してキッチンへ行き、冷蔵庫からペットボトルのジャスミン茶を取り出してグラスに注ぐ。リビングに戻ると今日もタイミングよくデスクトップが表示された。新規ドキュメント作成のボタンをクリックし、テンプレートから「ペルソナ」を選ぶ。今日調べた女性の調査結果を入力して、いくつかの情報を検索サイトで調べながらドキュメントを完成させていく。彼女に興味はないが、僕は星奈のために何人かの女性を調査している。  星奈

          星詠みの窓

          赤信号を渡る

          鬼は突然現れる、平穏な日常に。桃太郎でも、一寸法師でも、鬼は突如としてその世界に姿を現す。ただそれは、人が鬼のように変貌したという昔あった出来事が、比喩的に伝えられた結果であると解釈するのが妥当だろう。現代においても、このようなニュースは頻繁に目にするものだ。 その日は打ち合わせが重なり、会議ごとに新たなタスクが増えていった。翌日から新しいプロジェクトが始まることもあり、私はその日のうちに全てのタスクを片付けようとしていた。適当に終わらせて早く帰ることもできたが、ひとつひとつ

          赤信号を渡る

          雑穀ごはん

          午前の仕事がひと段落し、私は少し早いランチをとることにした。オフィスを出て当てもなく歩いていると、いつも行列のできているカフェが店を開けたばかりのようで、まだ誰も並んでいなかった。せっかくだからと店に足を踏み入れると、黒板に手書きの文字で3種類のメニューが書かれているのが目に入った。 日替りランチ(チキンソテー) お肉ランチ(ビーフシチュー) お魚ランチ(サーモンムニエル) メニューの端には小さく『白ごはんか雑穀ごはん』と書いてあった。注文を取りにきた店員に私が「日替

          雑穀ごはん

          チャリの逆走とナニワの愛想

          東京で暮らしていたころ私は近距離の移動手段としていつも自転車を利用していた。大阪に引っ越してきてから1年ほどになるが近場の移動は変わらず自転車に乗っている。自転車には移動手段としての利便性だけでなく季節の変化を肌で感じられたり手軽に気分転換ができるという利点もある。引っ越してきてからは自転車に乗りながらこの街の魅力を探るという楽しみも加わった。 大阪には8車線もあるのに一方通行の広い道もあれば車1台分の幅しかないのに対面通行の道もあり自転車の機動力を存分に活かすことができる

          チャリの逆走とナニワの愛想

          ヒットソング

          録音ブースの重い扉を閉めると部屋は一瞬真空状態になったかのように静まり返った。私は振り返って椅子に座り左側の少し低い位置にかけられているヘッドホンを手にとって付けた。ギターパートのレコーディング開始からは2時間が経過しようとしている。右側に置かれているギターを手に取るとヘッドホンからプロデューサーの声が聞こえた。 「準備はいい? 次で決めよう! 」 私は、 「はい。お願いします」 とマイクが拾える程度の声で返事をしてギターのピックを持ち直した。 演奏が終わりしばらくするとミキ

          ヒットソング

          一見の客

          レトロな商店街で有名なこの街に越してきて半年。元々街歩きの好きな私がこの商店街にある店を把握するのにさほど時間はかからなかった。それでも路地の多いこの商店街。まだあと1年くらいは散策を楽しむことができるだろう。 11月15日木曜日午後5時。気温16°C。この日は仕事を少し早く終えたこともあり商店街をぶらぶらしてから帰ることにした。この街に来てまだ半年。季節や時間が違えば景色も変わって見える。何か新しい発見はないかと周りを見ながら歩いていると今まで気づかなかった路地を見つけた

          一見の客

          生きること、または、書くことについて

          私は書いていない。少なくとも文章は。私だけでなく多くのビジネスパーソンも同じだと思うが今は“書く”のではなく“打つ”という行為で思考は形になり言葉は文章に変わる。 むかし誰かから「手書きで書いてこそ思いが伝わる」と言われたことがある。手書きで書いている途中に修正が必要になると消しゴムで消すか新しい紙に書き直すことになる。私はその行為に意味を感じない。大袈裟に言えば消しゴムで消す作業をしている間は間違えたことに対して罰を与えられているのではないかという感覚にさえなる。それでもど

          生きること、または、書くことについて

          会社を辞める理由についての考察と決意

          自分の考えを特定多数の人に伝える必要があるとき多くの場合に於いて話せば話すほど伝え方が上手になっていく。それは自分の気持ちが整理されていくということに加え他者の意見を聞く中で自分にとって腑に落ちる意見を取り入れることができるからでもある。 しかし人に伝えることさえ上手く行かないとき自分の場合その気持ちを文字に起こすことから始める。よってこの文章は結論を持たないまま書き始める文章である。閲覧の時間が無駄になる可能性が大きいが故忙しい現代社会を生きる諸君には読むことをお勧めしな

          ¥100

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          メキシコで感じた事

          2週間メキシコに行ってきた。具体的にはハリスコ州のグアダラハラという都市とその周辺に。主にテキーラの蒸留所巡りと街の観光が目的だ。 テキーラエクスプレスに乗った話やアガベ畑でヒマドール体験をした話、そして蒸留所を巡った話などはまた改めて書くとしてここではメキシコで感じた「生きる」ということについて書いてみようと思う。 グアダラハラの街で食事をしていて一番驚いたのはお店の中にあからさまに客ではないとわかる人が入ってきて物を売ったり物乞いをしたりしてくることだ。店員もそれを見

          メキシコで感じた事

          冬の匂い

          今日ふと冬の匂いがした。誰もが感じたことのあるであろう季節の匂い。特定の何かの香りではなく風の匂いというか温度感みたいなもの。 冬の匂いを感じて思い出すのは子供のころ正月におばあちゃんの家の近所で凧揚げをしている光景。 夏の匂いを感じて思い出すのは20歳のころ味噌串カツ屋で串カツをたべてそのあとみんなで海に行った日のこと。 どちらも特定の日ではあるけれど特別な思い出などではなく普通の出来事。 もしかしたらその瞬間が人生の分岐点だったりするのかもしれない。特に何もないけ

          冬の匂い

          特に建築に興味はないのだけれども体感することは良いことだ

          オリンピックには全く興味がなかったから最近起きたエンブレムに関するトラブルも“他人事とは思えない”程度の関心を寄せてはいたけれどそれはオリンピックとは別のところの話であって。 新国立競技場についても同じで政治的な面とか運営面とかでモヤモヤすることはあったけれどそれもオリンピック自体の話とは別の話で。 だからオリンピックについて考えることはほとんどなかったんだけれどたまたま韓国に行ってザハの建築(DDP)を間近で見てわかったことは「オリンピックが開催されることに対するワクワ

          特に建築に興味はないのだけれども体感することは良いことだ

          自己投資についての所見

          最もリスクが少なくリターンが多い投資先は自分である。 技術を習得する。経験を買う。新しい出会いを作る。 これらへの投資は惜しみなく行うべきである。 もちろん投資効率はあげなくてはならない。ただし投資効率をあげるのは投資した“後”であって投資する“前”ではない。効率を考えて行った投資は投資をすることに対する経験の価値を下げる。たとえその投資が失敗に終わったとしてもその経験は次に活かすことができる。失敗かどうかの判断は適切に行われるべきであるがもし失敗であれば素早く引き上げ

          自己投資についての所見