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あらためて「安全配慮義務ってなんだ?」と考えたときに。お勧めの本:「安全配慮義務の実務と対応」

産業医はなんのために必要なのか?
「予防医療のため?」 どうも私にはピンときません。
「健康経営のため?」 これも政策というか、行政に誘導されている感じがして、しっくりきません。
「法律で義務付けられているから」 まあそうなんだけれど、もう少し具体的にならないと、医者である産業医が必要な理由がわからない。


「企業が安全配慮義務を果たすことに、医学的知識を知識を生かして協力するため!」
ということになりましょう。

安全配慮義務とは


まず、その安全配慮義務ってなんなのか?
ChatGPTさんに中学生にわかるように説明してもらいましょう
ーーーーー
安全配慮義務とは、会社やお店が働いている人の「体や心を守るためにちゃんと気をつけてあげる」ルールのことです。
たとえば、こんなことがあります:

1、ケガや事故が起きないようにする:危ない道具や場所がないか確認して安全にしておく。
2、無理をさせすぎない:たくさん働きすぎて体や心が壊れないように、休みをしっかりとらせる。
3、嫌なことをされないようにする:いじめや嫌がらせ(ハラスメント)がない職場にする。

もし会社がこのルールを守らなかったら、困ったことが起きたときに会社が責任をとらなきゃいけないこともあります。
このルールがあるおかげで、みんな安心して働けるようになるんだよ!
ーーーーー
うん。今回はまあまあカモ。

何をどこまで対策しようか


さて、何をどこまで対策したら安全配慮義務を果たしたことになるのか、
そこが問題となるわけです。
「安全は産業医の領域ではない、保健衛生こそ我が本分」というご意見もありますが、
「事件は現場で起きてるんだ!」の名言の通り、産業臨床の現場で起きるアクシデントはこちらの都合に合わせてはくれません。
自分の本分でないモノはないなりに対応の原則は知っておかねばなりません。

でも、産業医は孤独なもの、
実際の現場に出てしまえば、即専門家としてある程度の見識を持たねばなりません。
そして現場の不明瞭さに触れれば触れるほど、自分の至らなさに気が付き、不安になります。
そんな、安全配慮義務ってなんだ?というシンプルな怖い疑問を見て見ぬ振りができず、自分でヒントを探していた時に出会った本です。

「安全配慮義務の実務と対応 -今、企業に求められる安全配慮とは-」  2023/8/1
安西愈 (監修), 木村恵子 (編集)

総論の1章と、
各論でありこの本の本体である50問のQ&Aが並ぶ2章、
そして安全配慮義務違反があるとされてしまった時の行政への
対応の実務に必要な知識の3章、
関連するコラム、
といった構成です。

正直、1章も3章も後回しで良いです。
(筆者さんごめんなさい)
読むべきはコラム、そして2章です。
2章を読んでいくことで、企業が安全配慮義務について問われる場面が概観できます。
いろいろ知っているようでいて、実は自分の専門分野しか知らない、
私の様な狭くなりがちな専門家にはこういった書物が必要です。

また今回も末尾に目次を挙げておきます

安全配慮の大きな流れを感じる

特に良いと感じたのは、この本のコラムの中で触れられている、
化学物質の管理の分野での国の方針の転換です。

化学物質について、国がリスク評価して有害性・危険性が確認し、細かなルールを定めて事業者に管理させる方法=ルールベースの対策から、
規制対象となる化学物質を広げ、「ばく露濃度を一定以下にする」等の達成目的を法令で制定しつつ、目的達成のための手段は国が指摘しない方法=ゴールベースの対策へと転換し、
自律的に調査・検討を行って適切な管理方法を取るよう求めるように変化してきています。

企業が自分の果たすべき安全管理について考え、対策する、
自分とその従業員の安全・健康は自分で守る、
それを求められるようになってきています。

私の専門分野であるメンタルヘルスは、
一定の対応方針が作りにくく、
かつその最低限の対応ではほとんどの場合、配慮が不足してしまうような、
そんな個別的かつ手間のかかる分野です。

昨今のパワハラ、カスハラなどの話題でも、
そういったアクシデントがあった後の対策はメンタルヘルスの問題となります。

まずミニマムの安全配慮義務を満たす対応を充足し、
その上でプラスアルファの必要性を探り、実際の現場でできる実践的な対策を考えていく、
そんな産業医としての働きに考える材料をくれる本でありました。


目 次
はじめに 〜 今、なぜ安全配慮義務について考えるのか
第1章 安全配慮義務について
第2章 安全配慮義務の実務
□□□□1 建設現場等における安全配慮義務
□□□□□□Q1 土木作業現場における事故
□□□□□□Q2 建設現場(高所作業)での下請会社社員の墜落事故
□□□□□□Q3 危険を伴う作業を行わせる際に雇用主が行うべき、事前・当日の事故防止対策
□□□□□□Q4 家屋解体現場における転倒事故
□□□□2 製造現場・製造作業における安全配慮義務
□□□□□□Q5 食品製造現場における挟まれ事故   Q6 作業台による事故
□□□□□□Q7 製造現場における酸欠事故
□□□□3 有害化学物質取り扱い作業における安全配慮義務
□□□□□□Q8 業務上有害化学物質を扱う作業における有機溶剤中毒
□□□□□□Q9 清掃作業中の有機溶剤中毒事故  Q10 建物内配管作業等における中皮腫発症
□□□□□□Q11 築炉作業におけるじん肺発症
□□□□4 施設管理における安全配慮義務
□□□□□□Q12 階段での転倒による事故   Q13 通路での踏み抜きによる事故
□□□□5 受動喫煙
□□□□□□Q14 受動喫煙と安全配慮
□□□□6 熱中症と安全配慮義務
□□□□□□Q15 屋外作業中の熱中症  Q16 屋内作業中の熱中症
□□□□7 長時間労働と安全配慮義務
□□□□□□Q17 脳・心臓疾患  Q18 持ち帰り仕事  Q19 管理職の過労死
□□□□□□Q20 精神障害発症(自殺) Q21 精神障害発症後のアルコール過剰摂取による死亡
□□□□□□Q22 精神障害発症の兆候がない場合  Q23 不調がない場合の安全配慮義務違反
□□□□□□Q24 兼業による長時間労働
□□□□8 基礎疾患のある労働者と安全配慮義務
□□□□□□Q25 会社に基礎疾患を申告している場合
□□□□□□Q26 会社に基礎疾患を申告していなかった場合
□□□□□□Q27 メンタルヘルスの問題について申告しなかった労働者
□□□□9 障害を有する者に対する安全配慮義務
□□□□□□Q28 精神障害に罹患している労働者  Q29 知的障害に罹患している労働者
□□□□□□Q30 障害者に対する非常時の安全確保
□□□□10 ハラスメントと安全配慮義務
□□□□□□Q31 ワーハラスメント   Q32 新入社員に対する安全配慮
□□□□□□Q33 セクシュアルハラスメント   Q34 取引先によるハラスメント
□□□□11 自然災害と安全配慮義務
□□□□□□Q35 自然災害に対する使用者の安全配慮義務
□□□□12 感染症と安全配慮義務
□□□□□□Q36 感染症対策(事前予防)Q37 感染症の基礎疾患を有する従業員からの配転希望
□□□□□□Q38 感染者の就業制限   Q39 予防接種(ワクチン)
□□□□□□Q40 感染症からの復帰を希望する従業員への対応
□□□□13 外国人労働者に対する安全配慮義務
□□□□□□Q41 外国人に対する母国語での安全衛生教育 Q42 外国人従業員に対する日本語教育
□□□□□□Q43 母国語でのストレスチェック
□□□□14 テレワークと安全配慮義務
□□□□□□Q44 テレワークと長時間労働  Q45 テレワークとメンタルヘルス
□□□□□□Q46 テレワーク中の従業員の出社希望  Q47 従業員の出社拒否  Q48 作業環境
□□□□□□Q49 テレワークからの移動中の事故
第3章 安全配慮義務違反がある場合の実務上の留意点

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