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「やがて海へと届く」を読んで。私たちは、ずっと旅をしていく

「評価が高いから一度読んでみたい」と夫が言ったので、図書館で子どもが読む絵本と共に借りてみた一冊。

それなら、と私も読ませてもらった。

感想としては、評価が高い理由がなんとなくわかる、不思議な読後感だった。

これは、震災で親友を失ったある1人の女性の物語。

これを読んで想起されたのは、4年前に亡くなった義姉と、2年前に亡くなっていたと知った大学の同級生の子のこと。

2人とも、病により幼い子を残して死ななければならなかった。

もし、この本のように死後に旅をする期間があるのであれば、彼女たちは今どんなところにいるのだろう。どうか、苦しい、寂しい段階は通り過ぎていますように。そう祈らずにはいられなかった。

ずっと親友の痛みを感じ続けようとする主人公の想い

主人公は、親友の死に対して「亡くなってからも、ずっとその無念を共に苦しまなければ、それはその人への裏切りだ」「勝手に生きている者が、それを簡単に手放すべきじゃない」という気持ちがあり、親友の母親や元恋人に嫌悪感を抱いています。(と私は解釈)

その気持ちは、親しい人を亡くした経験がある人にとっては、なんとなく理解できるのでは無いでしょうか。私も、少しはわかるつもりです。

そして、それと同時に「きっと、ずっとこのままでは多分、いけないのだ」と心のどこかで気づいている、寂しくて複雑な、なんとも言えない心境も。

暗闇と向き合う時に守ってくれる「火」とは

主人公の職場の先輩が言う、印象的なセリフがあります。

「…小さくても火を持ってると、目の前に迫ってくる暗いもんの圧力がゆるむんだ。落ち着いて、それがなんなのか目を凝らして見られるようになる。逆に、なんにも持たずに暗くてでかいものを覗き込むのは危ないんだなっていうのも、わかった」

ここでは「何も持たずに、死というものに向き合う際の危うさ」みたいなことに言い及んでいるのだと思いますが、ここでいう「」ってなんなのでしょう。

主人公も先輩に問いますが「人それぞれだろうな」と言う答えが返ってくきます。きっと、その通りです。

主人公はかつて親友と「死後にもつながり合えるような、深く深く愛し合う相手が欲しい」といった会話をしていますが、そういう「愛された、愛した記憶」などが、先輩の言う「暗闇に向き合う時の火」なんでしょうか。

暗闇に飲み込まれそうになる時に、自分を失わずにいられる何か正気に戻してくれる何か

私にとっては、なんだろう。

私にとっての「火」は

私は「自分の人生は、生まれる前に自分で決めてから生まれてくる」という考え方が個人的に好きで、これが今まで危機と思える場面で、自分を大いに支えてきてくれたなぁと思っています。

別にスピリチュアルに興味があるわけでは無いのですが、この言葉を聞いた時に「たとえ辛いことがあっても、それを経験することを自分で敢えて決めてきてるのが本当だとしたら、納得して受け止められる」と思いました。それから、ずっとこの言葉が節目節目に思い出されます。

(だからと言って、義姉や大学の頃の友人や、震災その他辛い目に遭われた方にもその考えを当てはめることは乱暴な気がしてできないです。あくまで自分にだけ。)

なので、私にとっての「火」はそれかな、と今は感じています。主人公の親友の、元恋人の男の子の感覚に近いかな。

彼は、泣きぼくろがあることで「何か自分の人生では1度、大泣きすることが訪れる」と幼少期から親から言われていたことが、いつしか自分の人生に起こるかもしれない事への覚悟になっていったのかなぁ、という感じの人物です。

甘ったるい考えかもしれないけど、私は好きだ

主人公は、様々な出来事など周囲からの影響を受けながら、やがて考え方を少しずつ変化させていきます。

途中であった女子高生のリコとミチカとの会話が、私は好きです。

彼女らは授業での太平洋戦争のことや震災のことなどを持ち出し、「『あの出来事を忘れてはいけない』と言うのはわかるが、真意が伝わらない。それをとりあえず言うことで、それ以上のことについて思考停止しているように感じる」といったことを話します。

「あなたたちは、忘れられることが嫌じゃないの?」
「そりゃ、覚えててもらえたら嬉しいけど。でも、あんな死に方をしたかわいそうな子って意味でならいやだなあ」

「すごく仲良かった子が学期の途中で、海外とか、めちゃくちゃ遠くに転校しちゃうの。別れて辛いし、さみしいし、新しい友達もできてだんだん思い出さなくなるし、でも元気でやってるといいなって時々思うの。
私が死んだら、リコにそんな風に思われたい。二度と会えなくても、遠くにいても、友達のままでいたい」

主人公はそれらの考えを聞いて「この子達は、きっと本当の絶望を知らないからこんな甘ったるいことを考えられるんだ」と思いますが、おそらく彼女の中でもこの一件は、その後の心の変化の一つのきっかけになっているはずです。

甘ったるい考え。確かにそうかもしれない。でも、私はこの考え方に共感します。だって、きっと私ももし死んだ後、家族や友人が私を思い出す時に暗い感情と共に思い出されるのは、やっぱり辛いと思うから。
愛する人たちにせっかく思い出してもらえるのなら、出来れば明るい感情と共に思い出されたい

そして、生きていても死んでいてもお互い大切な関係であることに変わりはない、という考え方は素敵だと思うんです。

生きている間も、亡くなった後も、私たちはずっと旅をする

全体を読み終えて思うのは、「私たちは、生きていても死んでいても旅を続けていく存在なのかなぁ」ということでした。

この本では、死後の世界のいわゆる「成仏」とか「転生」とか言われる段階までのことが、著者の見事な描写によって表現されています。

もちろん、これはあくまで想像の世界なんだけど、もし死後がこんな感じなら…

私たちが今生きている人生は「川」で、それは死後も続いていて、「やがて海へ届く」、たどり着く。
そしてまた海の彼方へ向かっていくことを何度も繰り返す。

だから◯◯だ、というような、教訓めいたことが書いてあるわけじゃないし、そんな綺麗にまとめられるものでもないと思うけれど、

私たちの人生も、私たち自身も、流れていくものだから、時々とどまることはあったとしても、やはり歩いて行く。進んでいく。そういうものなんだ。

読んだあとは、そんな気持ちが自分の中に残っているような気がしました。


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