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SS【放浪船】
その男は、地球出身だった。
名前は分からない。
当の本人ですら覚えていないのだから、これからも思い出せるとは思えないだろう。
彼は宇宙空間を漂う宇宙船の中で生きていた。
ただ一人、生き続けている。
自ら望んでこの状況を選択したわけではない。
目的の惑星に辿り着く前に、スペースデブリが船に衝突してしまったことから始まった。
それでも運よく船内にある酸素が外へと放出してしまう事態は避けれたものの、船の操縦、及び外部との連絡がままならなくなってしまったのだ。
積んである食料や水を数えると、彼一人が節約して使えば何年かは持つと見込める。
そうして、助けを求めることもできないまま、船は漂い続けていた。
たった一人、地球に思いを馳せる彼を乗せて。
彼の心は、いつ訪れるのか分からない死、自分が何者であるかと思考を止めてしまう恐怖、孤独感、母星への懐かしみ、やり残したこと、そして救助が来るかもしれないという淡い期待…などなどが織り交ぜられ、葛藤していた。
景色の変わらない窓の外を眺める度、自身の体が虚空に溶け込んでしまっているかのような感覚に蝕まれる。
そんな時には決まって、恐怖と孤独がより一層身に染みていくのを分かっていた。
それでも、目を離せなかった。
「夢は叶えられたんだよな」
遥か昔、地球で読んだ星座の図鑑。
ページを捲る度に息を吸い込み本の匂いを感じつつ、未知なる宇宙への憧れを募らせていた日々。
彼は、星座の形、星と星を繋ぐ線を正確に思い出そうと努めた。
不意に、涙ぐみながら。
おわり
今日のお題:線