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177. Seitengrat/その夏と秋の間に⑦完

ある夏の日のお話
(ほぼノンフィクション)です。
日記を小説風に書いています。

17. さぁ、次はテント場へ

「ここから先は下るだけだから」彼はそう言った。と、いうことは、彼は登ってきてくれたんだ、と思って更に嬉しく思った。

昨日先に到着していた彼は、私の倍以上の重たいザックを背負って、かなり疲弊していたはずだ。

しかも、登山靴のインソールが合わなかったらしい。足をだいぶ痛めていたと思う。それなのに迎えにきてくれて、本当に優しい人だなぁと再び惚れたのは云うまでもない。

木道を歩いて下っていく。彼は下りが得意だから、どんどん離されていく。「待って~」と心の中で叫びながら、彼を追いかけて下山していった。

18. クマーっ

しばらく痛みの激しい木道が続いて、先頭切って歩いている彼が危険な箇所を教えてくれた。

おっ、あと少し。

だんだんと景色が変わっていく。あと少しだなと思って、重たい足を前に進めた。

パーン、パーン、パーン。彼が両掌を合わせて手を叩くと大きな音がする。何度も繰り返し、少し進む毎に音を出していた。

看板には「熊注意」と掲げてあった。峠道よりも人の気配がするこのエリアでも、熊が出るのか…。改めて自然の怖さを実感した。彼がいなかったら、熊鈴をチリンチリン鳴らしながら…としか思いつかなかっただろう。

彼が山登りの先輩でよかった、と胸を撫で下ろし、木道を歩く彼を追いかけていった。

19. とぼとぼ歩いて

待って~。

足が動かなくなってきた。彼がどんどん遠くになっていく。家族連れがあちらからやってきて、周囲を散策しているグループ何組ともすれ違った。

灯がとぼとぼ歩いていると、平坦な木道なので家族連れが不思議そうな面持ちでこちらを見ている。ザックが重たいとか、峠越えしてきたんだとか、初心者なんだ、とか言い訳したくなるが、そんなの正に言い訳でしかなくて、悔しいので今日の日を忘れずに将来リベンジしてみせる!と決意した。次回のテント泊では、私がテントを持ってくると灯は決めた。

肩も足も痛くて泣きそうになりながら、テント場まで向かっていった。景色がよかったのが幸いして、彼の誘導のままに進んでいった。

20. み、見えたぁ

やっと目的地が見えた。やったー!見えた。灯はやっとのことで手を動かして、到着の景色をカメラで撮った。涙が出るほど美しい山の風景。これでオババのひと夏の冒険の第一章が無事に終了となった。

ここが目的地。

疲れた身体と頭であったが、次へ繋がる歩きができたことを誇りに思った。いつかそのうちに夢のまた夢、上高地バス停から奥穂高を目指し、ザイテングラードを登れるようになろうと決めた。今回の歩きはまだまだの経路で、彼にはまだ内緒だ。これからも縦走や岩場、鎖場を経験して、数年掛りでも叶えていこうと思った。そんな2024年の夏から秋の間の藤原灯なのだった。

ただの日記を読んでいただき、ありがとうございました。コナンくんのように何も事件は起きませんし、遭難していましたら、こんなにダラダラと書きませんので、読者お察しの通り、おばちゃんが観光地のテント場に1人で歩いていけたよ、彼が迎えに来てくれて優しかったよ、というなんでもないストーリーでございました。お付き合いいただき、ありがとうございました。今後とも気が向いたら、読みに来てくださいね。

完…やっと終わった。www

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