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第6回『エルヴィス』番外編:映画で描かれなかったエルヴィス伝説 童貞アーティスト山口明(童貞歴:62年)の『LIFE IS ART‼ 映画でアート思考をアップデート』

取材・構成◎ギンティ小林

(c)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
エルヴィスの事なら、おそらく一生話していられるグッチーさん

山口:今の時期、ドキュメンタリー映画『アートなんかいらない!』(2022年)や『ザ・ローリング・ストーンズ ロックン・ロール・サーカス 4Kレストア版』(1968年)、『ザ・ローリング・ストーンズ チャーリー・イズ・マイ・ダーリン 2Kレストア版』(1965年)、『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』(2021年)など気になる映画が公開しているんだよね。

山口:でも前回、『エルヴィス』を前後編でやったけど、まだまだ話し足りないんだよ! なので、今回は映画『エルヴィス』では描かれなかった「エルヴィス ちょっとイイ話」をお送りしたいと思います! エルヴィス・プレスリーには、2時間49分の映画じゃおさまりきれないぐらいイイ逸話が多いからね。

――お願いします!


映画では描かれなかったエルヴィス伝説① 小さかった


山口:エルヴィスといえばキング・オブ・ロックンロール。そして俺はキング・オブ・童貞だよね? そんな2人はキングと呼ばれている者同士なのか、共通点がかなりあるんだよ。

――絶対にないと思いますけど、一応聞きますよ。

山口:まず1つ目! 2人とも「股間のものが小さい」。

――いきなりソッチ方面ですか……。

山口:エルヴィスの全裸を見た人はいないと言われてるんだよ。女性にも男性にも股間を見せたことがないんだって。

――連れションとかしなかったんですか?

山口:トイレは必ず個室を利用してたのよ。誰も見た事がない、って事はだよ。実は巨根だったんじゃねえのって思うかもしれないけど、エルヴィスは自分自身のものを「リトル・エルヴィス」と名づけていたらしいんだよ。小さいって自己申告してるんだよね。

――お茶目な人だな。ちなみに日本にはLITTLE ELVIS RYUTA & THE S.R.P.という粋なバンドがいますよね!

山口:ただ、実は包茎で、それがコンプレックスで見られたくなかったって説もあるんだよ。これって、オッケー・ベイビー・ロックンロールならぬホーケイ・ベイビー・ロックンロールじゃない?

――……もう帰って良いですか?

山口:(カジュアルに無視して)エルヴィスもね、俺みたいなお茶目な一面があったらしいのよ! 映画『スピードウェイ』(1968年)で共演したナンシー・シナトラに自分のトレーラーハウスの中で、自分の股間を押し付けて、「俺のリトル・エルヴィス感じるか?」って言ってたんだって。で、ナンシー・シナトラは大喜びでじゃれ合ったらしいのよ。

『スピードウェイ』(1968年)のナンシー・シナトラとエルヴィス

山口:だから、俺もこれからは自分の股間をリトル・アキラと呼ぶことにしようかな! 

――グッチーさんの場合、エルヴィスとは違う意味で、リトル・アキラを見た女性は母親以外にいないんですよね。

山口:そうそう! それに俺の場合、股間だけじゃなくて全身リトルになんだけどね(笑)。

映画では描かれなかったエルヴィス伝説② 身長が小さいと思い込んでいた……?

こんなに背が高いのに……

山口:でも、エルヴィスは「自分は背が低い……」って悩んでたらしいよ。

――どういう事ですか? 180センチ以上あるのに!

山口:それなのに彼が履く靴には必ず半インチの踵をつけて、さらに上げ底してたらしいんだよ。ちなみに家で履くスリッパにも踵をつけてたらしいんだよ。

――狂ってる……。そんなに履いてたら家でくつろげないですよ!

山口:さっきから俺、見てきたように話してるけど、今回のネタ元は1985年に出た『エルヴィス』って本なんだよ。

――その本、現在は入手困難で2万円以上するんですよ。著者のアルバート・ゴールドマンは『ジョン・レノン伝説』というビートルズ・ファンにとってはショッキングな内容の本も書いているんですよね。

大事なネタ本を自慢するグッチーさん

映画では描かれなかったエルヴィス伝説③ エロ本愛好家だった?

山口:2つ目は共通点。2人ともオナニストだった!

――バズ・ラーマン監督の『エルヴィス』には当然、そんな描写は1ミリも描かれるわけがないですね。

山口:メンフィス・マフィアと呼ばれていたエルヴィスの側近たちは、毎日のようにエルヴィスのズリネタを買ってくる事が重要な仕事の1つだったんだよ。

――キングのオカズ調達係……大変な任務ですね。

山口:メンフィス・マフィアのメンバーたちは毎日、過激なポルノ雑誌を買いに行かなければならなかったんだよ。エルヴィスは毎晩、彼らが調達したポルノ雑誌を持って寝室に籠っていたらしいんだよね。

映画では描かれなかったエルヴィス伝説④  家にのぞき部屋があった?

山口:エルヴィスの家にはのぞける寝室があったらしいのよ。側近の男たちにその部屋に女性を連れ込ませては、のぞいて楽しんでいたらしいのよ。

――嫌な縦社会だな……。

山口:どうもエルヴィスって、セックスそのものには、あまり興味なかったらしいんだよね。飽きてたのかもしんないけど。

――グッチーさんも15年前、同じことを言ってましたね。AVの観すぎで「もうセックスを見るのは飽きた……」って。

山口:言ってた! そこも共通点だ! まあ、俺の場合は「見る」事でエルヴィスは「やる」事だけど。

映画では描かれなかったエルヴィス伝説⑤ 女性の下着は絶対に白!

山口:エルヴィスは、目の前で下着姿の女性たちにレスリングさせるのが大好きだったんだって。しかも、戦う女性たちの下着は絶対に白じゃなきゃダメ! というこだわりもあったんだよ。それで、白い下着からハミ出す陰毛に大興奮してたらしいよ。これってマイ・ハニーならぬマイ・ハミーだよね(笑)。

――……そろそろ、映画『エルヴィス』に感動して、彼の事が気になってこの記事を読んでくれている方たちが怒りだしますよ。

山口:(まったく動揺することなく)じゃ、結論を言わせてもらうと、エルヴィスが、セックスそのものにあまり興味がなかったって事は、潜在的なホモ・セクシャルだったのでは? って説があるのよ。だから俺もそうかもしれないね! 

――グッチーさんの事はどーでもイイです。

山口:エルヴィスが女性に人気だったのは、「エロチックな幻想を体現してた」とか「女性に向けて女性的な特徴を表現してたから」って言われてんだよ。これって思うんだけどロック・スターに共通してる事じゃないの? ミック、ジャガー、デヴィッド・ボウイ、ジム・モリソン、マドンナ、レディー・ガガって皆、性を超越した存在じゃない。だから魅力的なんだよ! 日本のヴィジュアル系のバンドもそうでしょ? だから、エルヴィスは、そういうジェンダーを超えたロックミュージシャン像のルーツかもしれないんだよ! 

――1950年代に化粧をしていたんですもんね。

山口:映画『エルヴィス』でオースティン・バトラーが演じるエルヴィスって、繊細で女性的な感じもあるじゃない。エルヴィスの性を超えた感じを表現してたんじゃないかな! 

――下ネタ多めの話でどうなるかと思いましたが、綺麗にまとめましたね。

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映画では描かれなかったエルヴィス伝説⑥ 珍銃マニアだった?


1973年、メンフィス・マフィアのメンバーの結婚式に手にはショットガン、全身のいたるところに銃を携帯という完全武装スタイルで出席したエルヴィス
友人のTV司会者ジョージ・クラインの結婚式も拳銃持参で出席した

山口:エルヴィスのマニアックな面をお伝えしたけど、マニアックといえばエルヴィスは物凄い銃のコレクターだったんだよな! アメリカではエルヴィスと銃についてだけで『Elvis Firearms & Weapon Collector』(2020年)という本になっているんだよ。

――でも、映画『エルヴィス』では、ちょっとしか描かれてないんですよね。エルヴィスが、ブーツの中に小型拳銃のデリンジャーを隠すシーンがありましたが。

山口:あれ本当の事なんだよね。プライベートでクレイジーなファンから殺害予告が来るようになってから、護身のためにやってたんだよ。

実際にエルヴィスが所有していたデリンジャー


山口:他にも、映画ではエルヴィスが拳銃でテレビ画面を撃つシーンがあるけど、あれも本当の事。

――映画ではオースティン・バトラーが、『ダーティハリー』(1971年)でクリント・イーストウッドが使っていたS&W M29(44マグナム)でテレビを撃ってましたね。

山口:実際は、もっと凄いんだよ! スタームルガー・ブラックホークという銃で、漫画『ドーベルマン刑事』の主人公が使っていた、44マグナムよりも威力があると言われていた銃だよ。

山口:エルヴィスは、その銃を「ダーティハリー・ガン」って名づけていたんだよ(笑)。

――チャイルディッシュなネーミング・センスが素晴らしいですね(笑)。

現在はグレイスランドに展示されているダーティハリー・ガン

山口:さすがに今回の映画では描かれなかったけど、実際のエルヴィスはテレビ画面だけじゃなくて、妻と離婚した後に交際していたリンダ・トンプソンに向かって発砲した事もあるんだよ。リンダ・トンプソンに対して気に入らない事があると、すぐに発砲したんだって。でも、一発も当たらずに全部、壁に命中していたようだけど。

エルヴィスと、標的にされちゃったリンダ・トンプソン

――クレイジーすぎる……。リンダ・トンプソンは『200 キャデラックス』(2005年)というドキュメンタリーで、彼との想い出を楽しそうに語っていましたよ。でも、「エルヴィスは絶対に謝らない人だった」とも証言していましたね。しかも、同じ事をドキュメンタリーに出演した関係者が全員言ってました(笑)。謝らない代わりに、少し時間が経った後にキャデラックなどのゴージャスすぎる贈り物をくれる、って。

山口:他にもエルヴィスは、1974年にスポーツカーのパンテーラを購入するんだけど、ある時、エンジンがかからない事に怒り狂って、車に向かってコルト・ガバメントという拳銃を全弾撃ちつくしたんだって(笑)。

エルヴィスが購入したパンテーラ


パンテーラのハンドルには弾痕が……

――『エルヴィスとニクソン 〜写真に隠された真実〜』(2016年)ではマイケル・シャノンが演じたエルヴィスが、常に綺麗な彫金が施された銀のコルト・ガバメントで武装してましたね。

『エルヴィスとニクソン 〜写真に隠された真実〜』(2016年)

山口:その映画でも描かれていたけど、ニクソン大統領にも彫金が施されたコルト・ガバメントをプレゼントしてるんだよね。

エルヴィスがニクソン大統領にプレゼントしたコルト・ガバメント

山口:その銃に限らず、エルヴィスが知人にプレゼントしたりコレクションしたりしていた銃は、どれも豪華にデコレーションされていてカッコいいんだよな!

――飾りつけがゴージャスすぎて、メキシコの麻薬カルテルが持っている銃みたいですね(笑)。

山口:どれも素敵なんで、ここで紹介しようよ!

銃のコレクションの前で御満悦のエルヴィス
スタッフのリチャード・グロブにプレゼントしたコルト・パイソン


コンサートの警備でお世話になった保安官にプレゼントしたブローニング・ハイパワー
グリップにTCBのロゴが刻印されたS&W M19

エルヴィスがコレクションした銃は現在、グレイスランドに展示されている
エルヴィスが愛用したコルト・ガバメント
俳優のジャック・ロードに贈ったワルサーPPK
エルヴィス愛用のS&W M19
エルヴィス愛用のベレッタ
友人のリチャード ・ゴードンに贈ったS&W M60


愛用したショットガン。ストックにTCBのロゴが刻印されている
冗談でパーカー大佐に銃口を向けるエルヴィス。この写真を見たアメリカの熱狂的なファンの多くが「この時、撃っちゃえば良かったのに……」と思ったという。

映画では描かれなかったエルヴィス伝説⑦ エルヴィスの空手バカ一代


ステージでエキセントリックかつ独特すぎる空手パフォーマンスを披露するエルヴィス
映画でエルヴィス空手の構えに挑戦したオースティン・バトラー。(c)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

山口:エルヴィスと言えば空手だよね! 映画『エルヴィス』では、オースティン・バトラーがステージで空手の構えをするぐらいで詳しくは描かれなかったから、ここで詳しく解説しようよ。1973年にブルース・リーが主演した『燃えよドラゴン』が公開された事によって世界的にカンフーや空手のブームが起きたけど、エルヴィスって空手をエンターテインメントに取り入れたのが早かったのよ。1968年に出演したTV番組『ELVIS』でやってるから!

――ミュージカル・シーンで空手アクションでチンピラたちと戦うんですよね(笑)。

山口:そもそもエルヴィスと空手の出会いは1958年、軍隊にいた時なんだよね。

――兵役でドイツに駐留していた時に松濤館流空手を習い始めるんですよ。1960年には兵役の休暇を利用してパリで松濤館流の村上哲次先生の指導を9日間連続で受けたんですって。

村上哲次先生とエルヴィス

――1960年に除隊するとアメリカン・ケンポーの創始者エド・パーカーの弟子になるんですよ。

山口:アメリカン・ケンポー?

――ストリート・ファイトに適した格闘技のようです。松濤館流は昇段が厳しいからアメリカン・ケンポーに路線変更したようです。

山口:昇段審査でエルヴィスを落とせる人なんていなかったんじゃないの(笑)。

1962年、メンフィス・マフィアのメンバーを相手にアメリカン・ケンポーの稽古をするエルヴィス
エルヴィスとエド・パーカー先生

映画では描かれなかったエルヴィス伝説⑧ 武道家に暴露本を出された?

――エド・パーカーの道場にはデイヴ・ヘブラーという弟子がいて、ある時、エルヴィスの稽古相手を務めたんです。そしたらエルヴィスが一回稽古相手をしてくれた彼の事を気に入っちゃって、プライベートでのトレーナー兼ボディガードとしてメンフィス・マフィアにスカウトするんですよ。その時、エルヴィスは1971年型のメルセデス・ベンツ280SLを「新しい車を楽しんでくれ!」ってプレゼントしたんですって。

右がデイヴ・ヘブラー先生
エルヴィスを警護中のデイヴ・ヘブラー

山口:デイヴ・ヘブラーはドキュメンタリー映画『ジス・イズ・エルビス』(1981年)でエルヴィスがアメリカン・ケンポーのデモンストレーションをしているシーンに映ってるね。

山口:でも、1976年にエルヴィスの父ちゃんが経費削減を理由に、デイヴ・ヘブラーを含む3人のメンフィス・マフィアをいきなり解雇するんだよね。それでクビになった3人は『Elvis: What Happened?』って暴露本を出版するんだよ。しかも、暴露本がアメリカで出版されたのは1977年の8月1日で、その2週間後にエルヴィスは亡くなってるんだよね……。

――デイヴ・ヘブラーたちはスキャンダラスな本にするつもりではなかったんですよね。

山口:晩年のエルヴィスの破滅的な生き方を本人に反省してもらうために、取材を受けてエルヴィスの素敵な面も話したのに、スキャンダラスな内容の本にされちゃって……。彼らはエルヴィスが大好きだったから後悔したんだよね。でも、暴露本はエルヴィスの死後、300万部も売れちゃうんだよ。

デイヴ・ヘブラーたちの証言で綴られた暴露本『Elvis: What Happened?』

――だから、デイヴ・ヘブラーは2018年に『The Elvis Experience』というエルヴィスの魅力を伝える回顧録を出版したんですよ。

映画では描かれなかったエルヴィス伝説⑨  タイガーと呼ばれていた

山口:70年代のエルヴィスはアジア人の武術家にも弟子入りしてるよね。

――カン・リーという韓国出身の人で、エド・パーカーの紹介で彼のもとで修行したんですよ。1970年から1974年に体調不良になって辞めるまで。

カン・リー先生とエルヴィス

山口:カン・リーの道場生は動物の名前で呼ばれるんだよね。エルヴィスはタイガーって呼ばれてたんだよね。カッコいいな(笑)。

タイガーの雄姿

――エルヴィスは1973年にカン・リーにキャデラックをプレゼントしてるんですよ。同じ年には七段になって、キッズクラスの昇段試験の審査もしたそうです。

子どもたちを指導するエルヴィスを見守るデイヴ・ヘブラー

山口:キャデラックをプレゼントしたから、七段になったんじゃないの(笑)。そもそもエルヴィスが取った段は、名誉段みたいなものなんだよね。指導した空手家たちも「大事なステージのあるエルヴィスが怪我をする危険があるから、スパーリングはしなかった」と証言してるし。

――それで最終的には八段になったんですよね。

八段になって嬉しそうなエルヴィス


カン・リーの道場で八段を取得した証明書


山口:ドキュメンタリー映画『ジス・イズ・エルビス』(1981年)で観る事ができる、格闘技の稽古をするエルヴィスの映像は、カン・リーの道場にいた頃のものだよね。エルヴィスが左胸にTCBのワッペンがついたエキセントリックな道着を着ていて、カッコいいんだよな! 

――あのワッペンは通販で買えるんですよね(笑)。


――『ジス・イズ・エルビス』のアメリカン・ケンポーのシーンは2分弱しかないですが、エルヴィスとアメリカン・ケンポーを描いたドキュメンタリーDVD『Elvis Presley Gladiators 1974 Karate Legacy』(2010年)は49分もあるので、彼の独特すぎる格闘スタイルを思う存分堪能する事ができるんですよ(笑)。その中には、カン・リーの道場でエルヴィスが生徒たちに指導する映像があるんですよ。「目の前で銃を突きつけられたら、どうやって回避するか?」というテクニックを教えるんですが、「ひざまずいて祈れ!」と実践してみせて、まずは一発笑いをとるんです(笑)。その映像がこれです。

山口:人前に出たら絶対に人を楽しませないとダメな人なんだな(笑)。

あまりに個性的すぎるエルヴィスの戦闘スタイルを存分に堪能する事ができる『Elvis Presley Gladiators 1974 Karate Legacy』

映画では描かれなかったエルヴィス伝説⑩  ボディガードがジャッキー・チェンの映画に出演した

山口:この頃、カン・リーの道場にいた人もエルヴィスのボディガードになるでしょ。

――ビル・ウォレスです。「スーパーフット」と呼ばれた蹴り技の達人で、1974年から1980年までの間、フルコンタクト空手の世界チャンピオンになった人ですよ。彼は1974年からエルヴィスが亡くなる1977年まで、パーソナルトレーナー兼ボディガードをやっていました。

山口:ビル・ウォレスも他の格闘家のようにエルヴィスから何かプレゼントされたの?

――ビル・ウォレスは、1974年に初めてチャンピオンになった時にオートバイ、その後、ステーションワゴンもプレゼントしてもらってます(笑)。

チャンピオンになったビル・ウォレスを祝福するエルヴィス

――ちなみにビル・ウォレスはエルヴィスが亡くなった後、ジョン・ベル―シのパーソナルトレーナー&ボディガードになるんですよ。

山口:ジョン・ベルーシって『ブルース・ブラザーズ』(1980年)に主演したコメディアンだろ。この人もエルヴィスも薬物依存症じゃん。

――そうなんですよね……。だからビル・ウォレスはベルーシがコカインをやらないように監視する役目も担っていたんですよ。でも、ベルーシが薬物の過剰摂取で亡くなった時の第一発見者になってしまうんです……。朝、迎えに行った時にベッドで倒れていたベルーシを発見して必死に人工呼吸をしたんですって。

ジョン・ベルーシを稽古中のビル・ウォレス

――ちなみにビル・ウォレスはエルヴィスのボディガード時代、彼と一緒にサム・ペキンパー監督のバイオレンス映画『ガルシアの首』(1974年)を映画館に観に行ったそうですよ。

山口:エルヴィスって変わった映画が好きなんだよね。スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』(1964年)とか。

山口:コメディも大好きでTV番組『空飛ぶモンティ・パイソン』(1969~74年)を観てたんだよ。

――あと、ビル・ウォレスはジャッキー・チェンの主演作『プロテクター』(1985年)に出演していて、ジャッキーと1対1の格闘シーンで、凄まじい蹴り技を披露していますよ。

『プロテクター』(1985年)より。ジャッキー・チェンと闘うビル・ウォレス


映画では描かれなかったエルヴィス伝説⑪ 妻が空手家と浮気した

山口:エルヴィスの妻のプリシラも空手を習っていたんだよな。プリシラはチャック・ノリスの教室に通っていて、そこで知り合った空手の先生とつき合うんだよな。

――マイク・ストーンという空手家で、音楽プロデューサーのフィル・スペクターのボディガードもやっていた人ですよ。1964年のロングビーチ国際空手選手権など数々の大会で優勝してる実力者です。

山口:アフロヘアで怖い顔してんだよな。

マイク・ストーンとプリシラ
アメリカの格闘技雑誌『BLACK BELT』の表紙を飾るマイク・ストーン

――プリシラがマイク・ストーンのもとで空手を習う事を提案したのはエルヴィスなんですよ。それで最初、プリシラはマイク・ストーンの道場に通うんですが、自宅から車で45分かかるから、自宅に近いチャック・ノリスの道場に通うようになるんです。そこにストーンが出張してプリシラを指導していたら、そういう関係になってしまって……。

山口:妻の浮気を知ったエルヴィスは烈火の如く怒って「マイク・ストーンを殺してやる!」って言い出すんだよな。しかも、実際にメンフィス・マフィアに命令したんだよね。それを知ったマイク・ストーンも「来るなら来いや!」って言い出して(笑)。それでストーンは1973年にエルヴィス夫婦が離婚した後、タブロイド紙に「エルヴィス・プレスリーの妻を彼から盗んだ方法」って暴露記事を載せたんだよ。でも、その記事にプリシラが失望してストーンと別れるんだよな。

映画では描かれなかったエルヴィス伝説⑫ 妻の浮気相手はニンジャ・ブームの仕掛け人?

――その後、マイク・ストーンは映画スターになろうと『燃えよNINJA』(1981年)という映画の企画を映画会社に売り込むんですよ。

山口:それってフランコ・ネロとショー・コスギが出演したニンジャ映画だよね。

――そうです! 当初は企画を売り込んだマイク・ストーン主演&アクション監督作として動いていたんですが、彼の演技が下手すぎて降ろされたんですよ……。それでフランコ・ネロが主役になり、ストーンはアクション監督のみになったんです。

『燃えよNINJA』の本国版ポスター。後ろの忍者はマイク・ストーンのままになっている……


山口:『燃えよNINJA』って、アメリカで忍者ブームを起こした作品だよな。マイク・ストーンがいなかったら忍者ブームはなかったかもしれないよね。

――玩具やコミックなどでヒットした『G.I.ジョー』に登場するニンジャ戦士も『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』も『燃えよNINJA』の影響で誕生しましたから。そういう面では、ストーンは偉大な人物かもしれませんね。

映画では描かれなかったエルヴィス伝説⑬ エルヴィスはブルース・リーと共演するはずだった!?


マイク・ストーンとエド・パーカーはブルース・リーが武術指導を担当した映画『サイレンサー/破壊部隊』(1968年)に彼の誘いで悪役として出演した。左からマイク・ストーン、空手家のジョー・ルイス、エド・パーカー、立ち回りを指導中のブルース・リー

――エルヴィスのアメリカン・ケンポーの師匠エド・パーカーはブルース・リーとも親しかったんですよ。彼は1964年にロングビーチ国際空手選手権大会というアメリカの空手史的には重要なイベントを開催するんです。

山口:さっきも話題に出たね。マイク・ストーンが優勝した大会でしょ。

――そうです。その大会には当時、アメリカで道場を開いていたブルース・リーを呼んでデモンストレーションを披露してもらったら、その様子を撮影した16ミリフィルムを観たTVプロデューサーが彼を『グリーン・ホーネット』(1966~67年)のカトー役に起用するんですよ。

山口:『グリーン・ホーネット』が香港で人気番組だったんだよね。それで香港の映画会社がブルース・リーをくどいて『ドラゴン危機一発』(1971年)を作った事で、彼は大スターになるんだよね。『ドラゴンへの道』(1972年)に出たチャック・ノリスもエルヴィスの友人だし、共通の知り合いが多いんだね。

――カン・リーとメンフィス・マフィアのメンバーになったデイヴ・ヘブラー、マイク・ストーンもブルース・リーの友人なんですよ。

左からマイク・ストーン、ブルース・リーの弟子だった俳優ジェームズ・コバーン、チャック・ノリス、ブルース・リー

山口:それだけ共通の知り合いがいるなら、エルヴィスとブルース・リーって会った事はないの?

――エルヴィスは、彼らからブルース・リーの凄さを聞かされて「ぜひ会ってみたい!」って言っていたんですよ。でも、当時は2人とも多忙だったので会う事ができなかったんです。エルヴィスはブルース・リーの死後に公開された『燃えよドラゴン』(1973年)が大好きで何十回も観たそうですよ。

映画に感動しすぎたエルヴィスは、ブルース・リーが亡くなった事をすっかり忘れていて、デイヴ・ヘブラーに「いつになったらブルース・リーに会わせてくれるわけ⁉」って詰めたんですよ。デイヴ・ヘブラーに「なに言ってるんですか? 彼はもう亡くなってますよ」と言われて物凄いガッカリしたそうですよ。

山口:会ってほしかったね……。ブルース・リーはエルヴィスのファンで、『ブルー・ハワイ』(1961年)のサントラと映ってる写真があるよね。

『ブルー・ハワイ』(1961年)のサントラとブルース・リー
『ブルー・ハワイ』のサウンドトラック

山口:ブルース・リーの私服センスってエルヴィスっぽいよな。ブルース・リーは映画スターにならず、アメリカで武道家を続けていたら、エルヴィスの師匠になったかもしれないんだな。

ブルース・リーは、エルヴィスに負けないくらい独特すぎるファッション・センスのオーナー

――実はエルヴィスとブルース・リーは共演作の企画があったんですよ。

山口:そうなの⁉

――ブルース・リーは1973年7月20日に亡くなりますが、同じ年の8月に全米公開された『燃えよドラゴン』は公開前の時点でハリウッドでは「すごいスターが現れた!」って噂で持ちきりだったんですって。それで、エルヴィス主演作を製作してきたMGMが、2人の共演作の企画をしたんですよ。ブルース・リーが亡くなった事によって実現できませんでしたが……。

山口:そんなサイコーな企画があったの! どんな映画になったんだろう⁉

――ロックンロール・カンフー・ムービーの大傑作になってたはずですよ! 

映画では描かれなかったエルヴィス伝説⑭ 自分主演の空手映画を企画した? 

1977年にアメリカの格闘技雑誌『INSIDE KUNG FU』の表紙を飾ったエルヴィス

山口:その後、エルヴィスは自ら空手映画を企画したんだよね。

――『The New Gladiators』という映画なんですが、内容に関しては説が2つあるんですよね。ひとつはエド・パーカーたちを取材した格闘家のドキュメンタリー映画で、エルヴィスは企画とナレーションを担当する予定だった。こっちの映画は、エルヴィスのナレーションは実現しませんでしたが、『New Gladiators』というタイトルになって完成してるんですよね。2002年にフィルムが発見されてDVDになりました。

山口:次の説は?

――格闘アクション映画で、エルヴィス本人が映画のプロットを書いたメモが残ってるんですよ。メモには、エルヴィスが希望する出演者も書いてあって、主演は本人。共演は『燃えよドラゴン』に出演した事によってブラックスプロイテーション・ムービーのスターになった空手家のジム・ケリー。他には、TVドラマ『燃えよカンフー!』(1972~75年)に出演&武術指導をしたデヴィッド・チョウの名前も書かれているんです。

山口:『黒帯ドラゴン』(1974年)のジム・ケリーとエルヴィス! サイコーじゃない! 黒人から音楽を教わったエルヴィスは、自分が作りたかった空手映画でも黒人空手家と共演しようとしていたんだね。このキャスティングでエルヴィスのセンスの良さがわかるよ! 

『燃えよドラゴン』の大ヒットによって注目されたジム・ケリーの初主演作となった『黒帯ドラゴン』のチラシ

ボーナストラック:エルヴィス映画のすばらしい世界

山口:最後に映画『エルヴィス』以外にも俳優が演じたエルヴィス・プレスリーが登場する作品を紹介しようか!

――前回でも、TV映画『エルヴィス』(2005年)や『ザ・シンガー』(1979年)などは紹介しましたね。

山口:『ザ・シンガー』でエルヴィスを演じたカート・ラッセルは、その後、『スコーピオン』(2001年)で、ラスベガスでエルヴィスのそっくりさんコンテストが開催される時、エルヴィスのコスプレをしてカジノ強盗をする犯罪者チームのメンバーを演じたよね(笑)。

――カート・ラッセル、ケビン・コスナー、クリスチャン・スレーターたち5人の犯罪者が、それぞれ色の違うジャンプスーツ姿のコスプレをするんですよね。それが、ロックンロール戦隊エルヴィス・ファイブって感じでカッコいいんですよ!

これが『スコーピオン』で大暴れするロックンロール戦隊エルヴィス・ファイブ

山口:『スコーピオン』に出演したクリスチャン・スレーターは『トゥルー・ロマンス』(1993年)で、熱狂的なエルヴィス・ファンを演じていたな。彼にだけにしか見えない、エルヴィスをヴァル・キルマーが演じてるんだよね。でも、ヴァル・キルマーって、オリヴァー・ストーン監督の『ドアーズ』(1991年)ではジム・モリソンを演じてるんだよね。ジム・モリソンを演じた奴がエルヴィスやって似てるのかよ、と思ったけど雰囲気あったね(笑)。

『トゥルー・ロマンス』でヴァル・キルマーが演じるエルヴィス

――わがままな男ですね。グッチーさんが好きなエルヴィスが登場する映画は?

山口:俺が好きなのは『グレイスランド』(1998年)。「エルヴィスが実は生きている」って都市伝説に基づいて作られた映画で、プリシラ・プレスリーが製作してるんだよ。で、年老いたエルヴィスをハーヴェイ・カイテルが演じてるんだけど、これがイイのよ! 劇中ではハーヴェイ・カイテルが演じるキャラクターがエルヴィス本人なのか明言してないんだけど。クライマックスにハーヴェイ・カイテルが俺の大好きな「サスピシャス・マインド」を唄うんだよ。

――ハーベイ・カイテルがやるんですか⁉

山口:ステージアクションも意外にちゃんとやっていて、感動するよ! 

グッチーさんオススメの『グレイスランド』。取材後に観たら本当にクライマックスの「サスピシャス・マインド」のシーンは感動的でした!

――「実はエルヴィスは生きてる」という都市伝説系ムービーだと『プレスリーVSミイラ男』(2002年)という映画もありますよね。ブルース・キャンベルが密かに老人ホームで暮らすエルヴィスを演じていて、ホームを襲いに来たミイラ男と戦う、という荒唐無稽な作品が。

「死霊のはらわた」シリーズの主演スター、ブルース・キャンべルがエルヴィス爺さんを演じる『プレスリーVSミイラ男』

山口:今回は最後にエルヴィスが登場する作品のリストを載せようよ! もしも、リストに載っていない作品がありましたら、メッセージで教えてください! 作品の情報がくるたびにリストを更新しますので!   
 

永久保存版‼ エルヴィス・プレスリー登場作品リスト

『エルヴィスとニクソン』(1997年)


●『ザ・シンガー』(1979年)
カート・ラッセルがエルヴィスを演じる伝記作品。

●『Elvis and the Beauty Queen』(1981年)
エルヴィスとリンダ・トンプソンの関係を描いたTV映画。エルヴィスを演じるのはドン・ジョンソン。

●『ハートブレイクホテル』(1988年)
1972年を舞台に、母のために彼女のアイドルであるエルヴィスを誘拐しようとする少年を描いた青春映画。エルヴィス役はデヴィッド・キース。

●『Elvis and Me』(1988年)
エルヴィスの妻プリシラの著書『私のエルヴィス』を原作にしたTV映画。エルヴィス役はデイル・ミッドキフ。

●『ミステリー・トレイン』(1989年)
メンフィスのホテルが舞台のオムニバス映画。エルヴィスの幽霊(ステファン・ジョーンズ)が登場する。

●『ELVIS』(1990年)
1950年代のエルヴィスを描いた全13話のTVドラマ。

●『トゥルー・ロマンス』(1993年)
ヴァル・キルマー演じる主人公にしか見えないエルヴィスが登場する。

●『Elvis and the Colonel: The Untold Story』(1993年)
エルヴィスとパーカー大佐の関係を描いたTV映画。エルヴィス役はロブ・ヤングブラッド。

●『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)
主人公が少年時代にブレイク前のエルヴィスと出会うシーンがある。 エルヴィスを演じたピーター・ドブソンは『Tears of a King』(2007年)では70年代の彼を演じている。

●『エルヴィスとニクソン』(1997年)
1970年、ホワイトハウスでニクソン大統領とエルヴィスが密か会見した時の模様を描いたTV映画。エルヴィス役はリック・ピータース。

●『グレイスランド』(1998年)
実は生きていたエルヴィスをハーベイ・カイテルが演じるロードムービー。

●『プレスリーVSミイラ男』(2002年)
ブルース・キャンベルが密かに老人ホームで暮らすエルヴィスを演じていて、ホームを襲うミイラ男と戦うコメディ・ホラー。

●『エルヴィス』(2005年)
ジョナサン・リース=マイヤーズがエルヴィスを演じた伝記作品。

●『ウォーク・ハード ロックへの階段』(2007年)
ジョン・C・ライリーが演じる架空の歌手の半生を描いたコメディ映画。ホワイトストライプスのジャック・ホワイトがエルヴィスを演じている。

●『Tears of a King』(2007年)
死を目前に控えたエルヴィスが、『クリスマス・キャロル』風に自分の人生をふり返る低予算映画。エルヴィス役はマット・ルイス。

●『Protecting the King』(2007年)
1972年にエルヴィスのボディガードになる若者を主人公にした青春映画。エルヴィス役は『フォレスト・ガンプ』でも演じたピーター・ドブソン。

●『Hounddog 』(2007年)
1956年を舞台に、ダコタ・ファニング演じる少女がエルヴィスの音楽を通じて成長する姿を描く青春映画。エルヴィス役はライアン・ペルトン。

●『Memphis Rising: Elvis Returns』(2011年)
1977年に宇宙人に誘拐されたエルヴィスが30年ぶりに地球に戻ってきて、エルヴィスのそっくりさんコンテストに出場する低予算コメディ。エルヴィス役はジョージ・トーマス。

●『Elvis Lives!』(2016年)
実は生きていたエルヴィスを描いたTV映画。年老いたエルヴィス役はジョナサン・ネイション。

●『Shangri-La Suite』(2016年)
1974年にエルヴィス殺害を計画した若い男女を描いた犯罪映画。エルヴィス役はロン・リビングストン。

●『VINYL -ヴァイナル-』(2016年)
マーティン・スコセッシとミック・ジャガーが制作総指揮を務め、70年代を舞台に架空のレコード会社の社長の奮闘を描いたTVドラマ。実在のミュージシャンが登場する作品で、第7話「王様と私」ではラスベガスで常設公演をしていた、太りだした頃のエルヴィスが登場。エルヴィス役はプロのそっくりさんとして知られるショーン・クラッシュが演じている。

Vinyl is new tonight at 9PM.

Posted by Vinyl on Sunday, March 27, 2016

●『エルヴィスとニクソン 〜写真に隠された真実〜』(2016年)
『エルヴィスとニクソン』(1997年)と同じ題材を描いた映画。エルヴィス役はマイケル・シャノン。

●『Sun Records』(2017~18年)
パーカー大佐にマネージメントされる前、エルヴィスが在籍していたレーベル、サン・レコードの歴史を描いた全8話のTVドラマ。エルヴィス役はドレイク・ミリガン。

●『Elvis from Outer Space』(2020年)
宇宙人が作ったエルヴィスのクローンが、エルヴィスのそっくりさん大会に出場する低予算コメディ。似たような内容の『Memphis Rising: Elvis Returns』(2011年)でエルヴィスを演じたジョージ・トーマスが本作でも演じている。

●『Elvis, Trump and WhatsHisName』(2021年)
生きていたエルヴィスとトランプ元大統領のコンビが主人公の低予算コメディ。エルヴィス役はジョニー・フォンテーン。

●『Agent King』(2022年)
実はエルヴィスはアメリカ政府のエージェントだった! というアニメ・シリーズ。Netflixで配信予定。

●『エルヴィス』(2022年)

『エルヴィス』

監督:バズ・ラーマン
出演:オースティン・バトラー、トム・ハンクス、オリヴィア・デヨングほか
製作年:2022年
2022年7月1日より丸の内ピカデリーほかにてロードショー
公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/elvis-movie/

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