【読書記録】秋元康の仕事学
今回自分の備忘のために書き留めておきたいと思った本は、表題のとおり
秋元康さんの仕事についての本。
秋元康さんは好きでも嫌いでもなかったのですが、
この本の中で対談している勝間和代さんは毎月のサポートメールをとっており、一時期はオンラインサロンにも入っていたほど尊敬すべき人。
2011年に販売された少し古い本であり、しかも人からもらった本ですが、今でも通用する普遍的なことなので、手放さずにとってありました。
本題に入る前に、秋元康さんについて。
おニャン子クラブからはじまり、とにかく企画力がすごい人、ヒットを生み出す人、というイメージがありました。
そしてどちらかというとアイドルの生みの親というイメージでしたが、美空ひばりさんの「川の流れのように」を作詞していたり、演歌歌手をプロデュースしていたり、映画やドラマも作ってしまう。
好きでも嫌いでもないけれど、一体何者なんだろう?頭の中はどうなっているのだろう?という純粋な興味がありました。
印象に残った秋元さんの仕事学
企画やゼロ⇒1とは無縁の場所にいると思っていたのに、なぜか今はマーケティング・コンテンツ制作畑におり、ちょっと今新しい事業も考えている自分が印象に残ったことを挙げていきます。
(すみませんここからちょっと書きやすさの問題で文体が変わります)
企画探し=幸せ探しにも通じる
私ももともとは企画とは無縁だ、と思っていたと書いたが、多くの人は、企画なんて一部の職業の人のものだと思っているのではないか。でも、秋元さんは、
と語っている。
まず、企画というのは、大げさなプロジェクトのことではなく、たとえば会社でお茶くみだけをしている人が(今はそんなことないと思いますが)、それぞれの人の体調に合わせてハーブティーを出してあげたら、その人は企画力のあるお茶くみになると。それは営業でも言えることだし、だれにとっても言えることなのだ。
多くの人は企画を探しに外に行こうとする。そうすると、同じような場所に集まり、同じような企画ができる。でも、企画のネタが食材だとすると、どこにでもある豆腐や味噌やお米の方が、それぞれの工夫次第で面白い料理になる可能性が高い、と秋元さんは言う。
そして、それは「幸せ」にも置き換えられる。日常の中に幸せだなと思えるネタを多く見つけられるか、何も面白いことがないと思うかの差であると。
日常の気づきに付箋をつける、そして必要な時に取り出す
「企画の入り口は気づくこと」と秋元さんは言うが、その日常の様々な気づきをリュックサックにどんどん入れて、必要なときに取り出すという作業を行っているそうだ。秋元さんとリュックサックがなんだか自然にリンクするので、この表現は秀逸だと思った。
でもそのあとの勝間さんとの対談セクションの中で、勝間さんが、
「もう少し私たちにとってわかりやすい表現てないですか?」と突っ込んでいる。さすが、それを言えるのが勝間さんだと思った(笑)
そこで、秋元さんは気づきに付箋をつける、という表現をしていた。あ、確かに、私は普段リュックサックを使わないので、そのほうがわかりやすいかも!
例の一つとして小泉今日子さんの例を挙げている。
小泉今日子さんのコンサートをプロデュースしたときに、当時のアイドルのコンサートのポスターの多くは真ん中に大きく顔があるものだった。小泉さんのような魅力的なアイドルをそれと同じにしたら、埋没すると思ったので、あえて顔を出さずに、レントゲン写真にしたと(!!!)
これは、次の「予定調和を崩す」の話に通じるのだけど、つまり、「アイドルのコンサートのポスターは、なぜ顔写真ばかりなんだろう」ということに付箋が貼ってあったということだった。それにしても、いろいろ通り越してレントゲン写真て。しかも当時、3~40年くらい前の話だと思うので、いかにぶっとんでいたかがわかるエピソードだと思う。
一日を無駄にしない
この、「気づく」ことに対して、ヒントになる秋元さんの言葉が、
というもの。わかった気になってしまうと、何も気づかずに1日を終えたことになりかねない。
そこで秋元さんが推奨しているのが、「1行日記を書くこと」
それをやっていると、ある時何も書けない日があることに気が付く。そのときに、人間は何かしようとする。
何かをやったという事実があるから、その1日がそこに存在した明確な理由がある。このままだと家でごろ寝していただけということになりかねないから、上野の美術館にでも行ってみようかな、となる。そしてそこで気づきを得られる。言い換えると、「初めて」をつくることだともいえる。
「予定調和」を壊す
先ほどのポスターの例にもあるように、秋元さんは常に予定調和を壊している。
人は、何かを見て脳に記憶するときに、無意識にこういうものだという全体像を描こうとする。エンターテイメントに関しても同じで、頭の中で予定調和のストーリーが出来上がっている。「たぶんこうなるだろうな」というものを、誰もわざわざ見ようとはしない。反対にいえば、その予定調和が裏切られたときに、人は面白いと思う。
AKBに関しても、そもそもアイドルが48人もいるとか、会いに行けるとか、劇場があるというだけで予定調和を壊している。様々な謎があり全体像は見えない。その謎が、新曲を出すごとに明らかにされていく。ただ、その出し方もすごい。アイドルの王道のような明るい曲を出して、「明るい歌を歌う元気なアイドル」という皆が描き始めた全体像を、次の曲で裏切る。
この「予定調和を壊す」は、人が面白いと思うメカニズムを言語化してもらったようで面白かった。私はミステリー小説、特に東野圭吾さんや湊かなえさんの小説は必ず新作が出たら買うほど好きなのだけど、それは大きなどんでん返しが高確率であるから、ということが大きい。これは、こうなるだろうと思っていたことが裏切られるから予定調和が壊されて面白いのだという、単純といえば単純なのだが、そのメカニズムを知れたことが面白かった。
また秋元さんは次のようにも語っている。
これは、イノベーションにも通じる考え方だと思う。
最大公約数ではなく、最小公倍数を目指す
秋元さんは、ほとんどリサーチをすることはなく、むしろ、「今、ここにないものは何なのかな」ということを探しているそうだ。
たとえば、ヒマワリがすごく高い値段で取引をしていたら、皆がその種を植えようと思うから、1年後にはヒマワリだらけになる。それではもう間に合わないから、ヒマワリが全盛のときにタンポポを植えている感じに近いそうだ。
秋元さんが分析やリサーチをしない理由は、今、われわれの目の前にあるものはすべて過去のものだから。だからそれをリサーチしても意味がない。
秋元さんは、「自分の色を出す」ことを大事にしており、リサーチやマーケティングというのは、みんながやった最大公約数がそこに現れているので、そこからは自分の色は出せない。
一方で、勝間さんはもともとアナリストだったこともあり、リサーチやごりごりの分析が得意。その正反対の二人の対談だからこその面白さもあった。
私もリサーチや分析は、したほうが良いと思ってしまうタイプ。秋元さんのような天才ではないから、私たち凡人は、最大公約数を目指したほうが良い場合もあり、匙加減ではないかと思う。
川の流れのように生きる
詳細は省きますが、順風満帆な人生を歩んできたのだろうと思われがちな秋元さんも、仕事を一時期やめていた時期もあったそうです。そして、そんなときに、作詞の依頼がきて、そのときに書いたのが「川の流れのように」だったそうです。その時に、この流れに流されてみようかなと思ったとのこと。強靭な精神力を持ってここまでの道を切り開いてきたと思っていたので、とても意外でした。
でもきっと、川の流れのように、細々とでも、自分のやりたいことを追求し、立ち止まらないできた。それが今につながっているのだと思います。
私も、秋元さんの足元にも及ばないものの、細々と続けてきたことがやがて大きな仕事につながったりすることもありました。その時は意味があるとも思えなかった、趣味に関することも、もしかしたら将来の何かにつながるかもしれない。それも今少しずつ実感しています。
だから、立ち止まらないで、自分が心地よいこと、好きなものを追求していくことが大切なのだとあらためて思わされた本でした。そして、ピンときたときには流れに乗ってみるということも大事だということも。
ご紹介したのはほんの一部で、私の主観もだいぶ含まれているので、興味のある方は一読してみることをおすすめします★