エピゴーネンでも、証に【修正】1478文字#青ブラ文学部
俺の兄は、野球が上手かった。
小学生で野球を始めれば、すぐに頭角を現し瞬く間にチームのヒーローになった。
俺は兄より4つ下で、兄の野球している姿を見れば、俺も小学生から野球を始め、兄の真似ばかりしていた。
そんな事をしていた俺も中学生になって部活で軟式の野球をしていたある日の事。
顧問の先生に職員室へ呼ばれた。
顧問の先生の顔は青ざめていて、そんな先生の顔を見ながら「俺、何かやったかな?」なんて呑気に思っていた。
職員室へ行くと男の担任の先生が小走りで俺の元へとやって来て、俺の両肩を掴んで開口一番こう言った。
『お兄さんが部活中に倒れた。
今救急車で運ばれて緊急手術を受けている。親御さんの代わりに先生が病院まで送っていくから、今すぐ帰る準備して来なさい』
俺は最初、先生が何を言っているのか分からなかった。
分からなかったけれど、帰り支度をしなければならない事は分かったから、俺は急いで道具を片付け、学校鞄を背負い、先生の車に乗って兄が手術を受けている病院へと向かった。
兄は県内の野球強豪校に進学をしていて、1年生の秋からレギュラーの座に着いて活躍していた。
強豪校へ行ってもなおヒーローとして活躍する兄が、高校野球ファンの目に止まらない訳はなかった。
雑誌の取材を受ければ表示を飾っていたし、スカウトの人がチラホラ兄を見に来ていたりしていたと母から沢山聞いていた。
寮暮らしをしている兄からのメールは、ほぼ毎日届き、些細な事から面白い事までバリエーション豊かなメールが届いた。
俺は、そっけない返事しか出来なかったけれど、そんな兄から来るメールは、とても楽しみだった。
病院へと着くと、まだ兄の手術は終わっていなかった。
父と母が先生と話しをし先生が帰った後、兄の心臓が悲鳴を上げた事を知った。健康優良児だったはず兄が、今、生死の境を彷徨っている。
それから一週間後。
兄は…この世から旅立った。
父と母は暫く打ちひしがれていたが、俺は最初に泣くだけ泣けた為か、兄の死を受け入れる事に時間はかからなかった。
兄の突然の死から5年。
俺は高校3年生になった。
そして、俺は密かに高校野球ファンの間ではこう言われている。
『打つ姿も、守る姿も、野球に対する一挙手一投足が今は亡き兄とそっくりだ』
俺の野球の手本は兄だった。
ヒーローだった兄の試合映像を何度も見直し、真似をして模倣してきた。
全てを兄の様に出来なくても、野球の実力はメキメキとついてきたし、真似することで兄と一緒に居るようだった。
そんな俺も兄が通っていた同じ高校の野球部に所属し、兄の様に1年秋からとは行かなかったものの2年生の春にはレギュラーに昇格し、今に至っている。
高校に入ってから、ますます野球の実力が付いてきていると肌で感じる様になった。
俺にも高校野球の雑誌の取材が来たり、スカウトの人も来てくれたりした。
そんな俺の姿を見て両親も嬉しそうだから、俺はこれで良いと思っている。
兄を手本にして、模倣して、自分の実力へと昇華する事に成功した。
もしかしたら、誰かから見れば俺は何処かおかしかったりするのだろうか?
でも、おかしくてもいい。
兄は俺にとってヒーローで、憧れの人。
そんな兄を模倣した『エピゴーネン』の俺は、今、兄が居た同じ場所に立てている。
エピゴーネンでもいい。
本物になれなくても良い。
俺が野球を続ける事で、ヒーローだった兄の事を誰かに思い出してもらえる。
兄が居た証になる。
エピゴーネンで、十分なのだ。
〜終〜
こちらの企画に参加させて頂きました。
山根あきらさん
新たな1語が自分の語彙力に加わりました。
ありがとうございました(^^)