研究1年目を終えるにあたって
発達障害など種々困難さを有する生徒が高等学校にもかなりの人数が入学している。教育課程の編成基準を改定して、新領域となる「自立活動」を編成できるようにして、高等学校において個々の能力・才能を最大限に伸ばす特別支援教育を実施できるようにする方向が打ち出されている。本研究はそのための実証的研究を行うものである。文科省で行われた研究協議会の席でも初等中等教育局特別支援教育課課長補佐は「本研究は高等学校での通級指導にかかるもので、特別支援教育の最重要課題と位置づけている」と述べている。
本校の研究目的は報告書に示す通り、実践的な研究によって全国の高等学校が発達障害などの障害を有する生徒に対して特別支援教育を円滑に実施できるようにするメソッドを開発し、課題と改善策をとりまとめることである。
【メソッド1】特別支援教育対象者の把握と本人・保護者の理解
【メソッド2】個別の指導計画、個別の教育支援計画の効果的な活用
【メソッド3】授業方法・形態の改善
【メソッド4】多部制普通科高等学校における組織運営上の課題の明確化
メソッド1は初年度に成果をあげることができた。メソッド2と3については研究2年目に支援計画書が作られ、計画書に則った自立活動領域の授業が実践されることと考える。ただ、自立活動は特別支援学校学習指導要領解説では6区分「健康の保持」、「心理的な安定」、「人間関係の形成」、「環境の把握」、「身体の動き」及び「コミュニケーション」に分類されている。初年度の研究実践を振り返ったとき、高校生の自我の発達段階や自己の障害に関する認知能力を鑑み、自立活動領域の6区分には収まりきれない領域を作ることを提案した。例えば、コミュニケーションに課題がある生徒に直接的に対自己の課題を提示しても心理的な拒否が出る。しかし、自分の得意な領域やキャリア視点にたって、自らの自画像を描き、ありたい自分を構想させ、その実現を高度に実現するためにはコミュニケーションの課題の克服・対処方法を学ぶ必要があるとする視点を共有できれば納得し、意欲的に取り組む。つまり自己肯定に立脚し、マイストーリーを描く必要がある。そこで自立活動の6区分に加えて「キャリアの視点にたった個性・才能の伸長」という第7区分を設定したのである。この提案に対して文科省担当調査官は大いに挑戦に値する取り組みであると評価していただいている。自我の成長と高校生における発達段階を考慮して自立活動を定義することは本研究の「肝」であろう。
また、ユニバーサルデザインの推進やタブレットPCを活用した学びの拡張も2年目の研究では大いに挑戦したい。これらの研究には情報教育のみならずカウンセリング部門など生徒の支援に関わる校内チームの総力が必要となる。2年目の研究が外部組織との連携も模索しながら学際的な様相を帯びることを期待したい。
最後に本研究に参考になった映画を紹介したい。自閉症である女性の半生を描いたアメリカのテレビ映画『テンプル・グランディン~自閉症とともに』は一見の価値がある。私はこの映画によって本研究が「特別支援教育」の前に「個々の能力・才能を伸ばす」という言葉が加えられた意味を理解した。本研究の究極の目標は人間観の拡張(可能性の拡張)である。