アトピー周辺知識30: 寄生虫・イベルメクチン

・マイクロバイオームにおける寄生虫
 人体のマイクロバイオームと言うと主に腸内細菌叢と表皮常在細菌叢が挙げられるが、寄生虫もまたマイクロバイオームに属する微生物の一種である。
 また一口に寄生虫と言っても生命に危険を及ぼすものから共生関係に近いものまで多様に存在する。昨今話題になったものだとトコジラミ、割と身近なものだと野山に多いマダニ、人の頭部にはほぼ確実に存在するニキビダニ等が広く知られている。

 中でも皮膚病の原因となるものでは疥癬のヒゼンダニ、ニキビの原因となるニキビダニ、シラミ症の原因となるシラミが馴染み深い。


・皮膚炎治療とイベルメクチン
 寄生虫はニキビダニなど共生関係に近いものであってもその性質は腸内の日和見菌に近く、免疫機能の低下に伴い過剰繁殖すると表皮の疾患を引き起こす。
 そして免疫抑制剤の過度な使用も当然に寄生虫の過剰繁殖を招く。アレルギー患者の酒さ様皮膚炎もこれが原因で起こり易く、他の免疫抑制剤使用患者の頭部症状にも関係しているものと思われる(毛髪や皮脂の関係から頭部は他の部位よりも寄生虫が生息し易い環境と言える)。

 酒さ様皮膚炎の治療へのイベルメクチンの使用もこの過剰繁殖した寄生虫の駆除と炎症の抑制を目的として行われ、アメリカではイベルメクチンクリームが2014年にFDAで酒さ治療薬として承認、日本でも保険未適用ながら自由診療にて治療への利用が進んでいる。


 同じく酒さ様皮膚炎の治療薬として使用されるものとしてロゼックスゲル(メトロニダゾール)が有るが、こちらは「世界60以上の国又は地域で承認取得、販売されており、欧米の治療ガイドラインでも推奨度の高い標準治療薬として位置づけられています。国内では標準的な保険適応となる酒さ治療薬が存在しないことから、日本皮膚科学会より2018年に酒さ治療を目的とした外用薬の適用に関する要望書が厚生労働省へ提出され、マルホ株式会社が開発を行い承認」されたとの事。

 アメリカでは1988年に承認され、日本で2022年5月26日に保険適用との事でこちらも海外の標準治療からは相当に遅れている。国内生産・供給の目処が立っての保険適用だとは思われるが随分時間がかかったものである。
 メトロニダゾールは強い抗菌・抗原虫作用、他にも免疫抑制作用・抗炎症作用を持つ。薬効のみ見ればアトピー治療にも使用出来そうだが、実際海外ではアトピー治療に用いられる事も有るそうである。ただ殺菌的な抗菌作用の強い抗菌・抗原虫薬であり、抗原虫作用ではイベルメクチンに劣り免疫抑制作用も有り、肝心の抗炎症作用もイベルメクチン程の強力さではないためアトピー治療薬として望ましいとは言い難いか。


 …イベルメクチンというと昨今のコロナウィルス絡みの話や日本人研究者のノーベル賞受賞が記憶に新しいが、そちらは色々と話が込み入る上に本noteの趣旨から外れるため割愛する。

 やはりノーベル賞受賞者は長距離選手の元アスリートが多いか…。

・イベルメクチンの性質
 現状イベルメクチンは承認から臨床を経てその様々な効能が確認され、単なる駆虫薬としてだけでなく、強い抗炎症作用や抗ウィルス・抗菌作用や一部癌の抑制作用が報告されている。
 またイベルメクチンはその性質上真菌に対しては増殖抑制に留まり必要以上に細菌叢に影響を及ぼさず、かつウィルスに対しても一定の増殖抑制作用を持つ。寄生虫に対しては駆虫薬として大きな効果を期待出来る上に、強力な抗炎症作用も持つ。加えてイベルメクチンはステロイド等の免疫抑制剤に比べて副作用も少なく長期使用での安全性も高い(内服では肝障害の副作用を引き起こす危険性が残るが外用であればそれも問題無い、妊娠中・授乳中や体重15kg未満の幼児の内服は安全性が確立されていないとの事)。
 詰まるところ酒さ様皮膚炎だけでなく、アトピー性皮膚炎の治療薬としても望ましい性質を持つと言える。

 またアトピーと混同し易い軽度の疥癬においても効果的であるため、誤診や複数疾患(アトピーと寄生虫による疥癬・毛包炎等)の併発においても治療が有効に働く点も現実的な医療に即した利点と言える。
 仮に免疫抑制剤を使わざるを得ない場合でもイベルメクチン外用剤の併用により副作用の発生を抑える事も出来るだろう。

 上記の性質等も踏まえて今後イベルメクチンが酒さ様皮膚炎の治療薬として保険適用され、アトピー性皮膚炎治療にもその用途が広がる事を期待したい。
 ただ保険適用にはメトロニダゾール同様に国内製薬会社による生産を条件とするものと思われ、結果自由診療に留まり世界の標準治療から遅れるという、公的保険制度が医療者により良い治療を躊躇わせる負の影響を及ぼしてしまっている現状もある。
 仮に保険適用に至らなくとも、自由診療での世界標準の治療までは妨げる事の無い様にして欲しいものである。


 イベルメクチンクリームの具体的な商品としてはIvrea(イブレア)やsoolantra(ソーラントラ)が有名な様である(共にイベルメクチンを1%配合)。イブレアはパラベンが使用されているため人に依っては刺激を感じる場合も有り、そちらが気になる場合はパラベンフリーのソーラントラを使用した方が無難である。


 …にしてもアトピー治療に有望そうな外用剤やサプリの大体が海外製というのは日本の製薬会社に開発力が無いのか政策に問題が有るからなのか(ただ日本製の整腸剤には良いものも多い)。おかげで望ましいアトピー治療を行おうとすると尽く自由診療になって公的保険の使い難さを実感する羽目になっている。
 産業保護を謳いながらノーベル賞級の有望な研究を見逃し治療薬開発で遅れを取っていれば世話は無いが、結局は皮膚科学やアレルギー治療軽視の姿勢の現れと見るのが正しいのだろう。
 アレルギー治療は精々が移植手術での免疫抑制剤など外科治療目的の研究の副産物だけで充分、副作用へのフォローも行うつもりはないといった所なのだろう。…正直なところ免疫抑制剤の副作用への詳細な説明とフォローの欠如だけは全く肯定出来ない、軽減する為に出来る事は幾つも有る筈なのだが。


・追記
 下部リンクは参考として免疫抑制剤使用が遠因となり寄生虫によって引き起こされる感染症についての記事である。このケースも感染症に対してイベルメクチンによる治療を行っている。


 加えてイベルメクチンを用いた疥癬治療の臨床研究も載せる。イベルメクチン認可の経緯も伺え、とても興味深い内容である。

・イベルメクチンをすべての患者により安全に届けるために

https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/141/7/141_20-00242/_pdf


 以前に紹介した硫黄やMSMも寄生虫に対して効果が有り、疥癬の治療にも用いられる。硫黄泉が皮膚疾患に有効とよく言われる理由にはこの事も含まれる。
 硫黄泉での湯治がミネラルの経皮吸収による消炎や皮膚の再生、表皮の殺菌・除菌、寄生虫の駆除を兼ねていたのだから、現代においてそれらを更に進めた形でかつ手軽に行うのは全く理に適った事だろう。


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