【長編小説】二人、江戸を翔ける! 5話目:エレキテるおじさん⑤
■あらすじ
ある朝出会ったのをきっかけに、茶髪の少女・凛を助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。これは、東京がまだ江戸と呼ばれた時代の、奇想天外な物語です。
■この話の主要人物
藤兵衛:主人公。隻眼の浪人で、傘張り仕事を生業としている。
凛:茶髪の豪快&怪力娘。『いろは』の従業員兼傘貼り仕事の上役、兼裏稼業の助手。
平賀源内:自称・天才発明家。何故か、おじゃる言葉のおっさん。
■本文
藤兵衛から少し遅れて源内の家に到着した凛。ドスン、バタンと大きな音が聞こえたので、
「あ、もう始まってる!?」
と、慌てて中へ入ろうとした瞬間、男達が数人飛び出したところにかち合い、ドンッと突き飛ばされてしまった。
「いった~い。なんなの、一体!」
状況が飲み込めない凛は、とりあえず藤兵衛と源内の姿を探す。
「あ、いた! 藤兵衛さん! ・・・って、なにしてるの?」
凛が見たものは、泣きじゃくる源内と源内に平謝りしている藤兵衛、そして男数人がその周りに転がっている光景であった。
「すみません! 師匠、すみません!」
「ちょ、ちょっとちょっと、藤兵衛さん。一体、何があったの?」
「お、おお、凛。それがだな・・・」
藤兵衛の説明によると、花子をおんぶしたまま大立ち回りしていたところ、吹き飛ばした男たちの一人が苦し紛れに花子を掴み、その勢いで首が取れてしまったとのことだった。
「なんだ、そんなこと・・・」
凛はもっと大事件があったかと思っていたので一安心するが、源内はそうではなかった。
「ああ、花子・・・ こんな姿になってしまって・・・ もう語り合うことも、一緒に寝ることも出来ないのでおじゃる・・・」
首が取れた花子を抱きしめて、めそめそと泣いていた。凛は呆れてため息をつく。
「もう、壊れたなら直せばいいでしょ! それより、逃げた人たちはどうすんの! 放っておいていいの!?」
源内ははっと顔を上げた。
「そうでおじゃる! 藤兵衛!」
「は、はい! 師匠!」
呼ばれた藤兵衛は、居住まいを正す。
「こうなれば、花子の弔い合戦でおじゃる!」
「へ? 弔い?」
凛は源内の発言に困惑する。
「拙者は花子の応急処置をしてから向かう故、お主は逃げた奴らを追うのでおじゃる! そして捕まえたうえ、奴らが花子にしたのと同じように首を引き抜いてやるのでおじゃる!」
過激な内容に凛は思わずガクッと崩れる。
(何言ってるのよ! 首を引き抜くなんて、そんなこと出来る訳ないでしょ!)
そう心の中でツッコミを入れつつ藤兵衛を見ると、彼も異常な眼つきをしていた。
「・・・わっかりました、師匠!」
「は? わかったって?」
「あいつらを見事討ち取り、首を花子様の墓前に捧げましょうぞ!」
とこれまた過激発言をし、すぐさま家を飛び出したので凛はまたもずっこける。
しかし、本当にやりかねない雰囲気だったので、藤兵衛を止めようと凛も慌てて後を追うのであった。
「ちょ、ちょっと藤兵衛さん、本気!? 待ちなさいよ~~!」
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一方、逃げ出した男達は、ひたすら走って逃げていた。
何故なら、目を光らせた男がもの凄い速度で迫ってきているからである。はっきり言って、かなり怖い。
「ち、ちくしょ~!」
「なんでこんな目に遭うんだ!」
彼らが嘆くのも無理はなかった。彼らは花子を手に入れるよう頼まれた、単なる雇われに過ぎなかったのだから。
そして、逃げるうちにいつの間にか湿地帯に足を踏み入れてしまう。
「な! ぬかるんで進まねえ!」
「お、おい! あいつが迫ってきてるぞ!」
「なんで、こんな目に・・・」
口々に己の不幸を呪う男達であったが、そんな彼らに更なる不幸が襲いかかる。
「「「ひ、ひいぃ!」」」
前方を見ると、なんと源内が立ちふさがっていたのだ。しかも変な箱を背負い、鉄の棒のような物を両手に持ち、更にその棒からはバチッバチッと青白い火花が飛び出していて、いかにも危険な香りを漂わせている。
男達は鬼の形相の源内を見て、顔を青くする。
「い、いつの間に!?」
「お。お許しをぉ!」
そして、追いついた藤兵衛たちも源内がいることに驚いた。
「え? なんで、源内さんが!?」
「し、師匠! 何故ここに!? 花子様はどうしたんですか?」
すると、源内は遠い目をした。
「花子は・・・ 花子は必死の治療もむなしく、黄泉の国へ旅立っていったのでおじゃる。拙者に『ありがとう、私、幸せだったよ』と言い残して・・・」
「なんと・・・」
知らない人が聞けば悲しい死に別れの話のように聞こえるが、単に源内が修理に失敗しただけである。
「こうなれば、花子をめちゃくちゃにした奴らに、制裁を加えてやるのでおじゃる! 黄泉の国で花子に詫びるがよいでおじゃる! ・・・『エレキテル棒』出力限界突破ぁ!!」
源内は力強く叫び、箱に付いているツマミをぐいっと回す。その途端、鉄の棒から先走る光が激しさを増し、まるで稲妻のようになる。
「お、俺たちは何もしてねえ!」
「「ひいい!」」
男達は後ろへ逃げようとするが、そこに藤兵衛が、
「待てい!」
と、両手を広げて立ちはだかる。
まさに『前門の虎、 後門の狼』状態である。
(あ、あ・・・ これ、ヤバイかも!?)
そして凛は異様な状況に身の危険を予感し、逃げようとしたが遅かった。
「ちぇぇえええええい!」
すぐさま源内がエレキテル棒を男達の近くの地面に突き立てる。その瞬間、
バチバチバチィ! バババーーーーーーーーン!!
轟音と共に辺り一帯を稲妻が襲い、同時に阿鼻叫喚の叫び声が響き渡る。
「「「ぎえええええええ!」」」
「あびびゃややや!」
「きゃああああああ!」
「んぎぎぎぃぃいい!」
男達も、藤兵衛も、凛も、そして放った源内までもが感電し、オールノックアウトとなったであった。
つづく