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【長編小説】二人、江戸を翔ける! 4話目:江戸城闖入騒動①
■あらすじ
ある朝出会ったのをきっかけに、少女・凛を助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。これは、東京がまだ江戸と呼ばれた時代の、奇想天外な物語です。
■この話の主要人物
藤兵衛:主人公。隻眼の浪人で、傘張り仕事を生業としている。
凛:茶髪の豪快&怪力娘。『いろは』の従業員兼傘貼り仕事の上役、兼裏稼業の助手。
■本文
(平和な時代に浮かれ過ぎではないのか?)
江戸城側用人である弥陀之介は大きなため息をつく。弥陀之介は生来の真面目な性格からか、江戸城で勤める武士たちの堕落ぶりに頭を悩ませていた。
(江戸城といえば武士の頂点の城ぞ! それなのにこの体たらくとは何事か!)
弥陀之介が怒るのも無理はない。
勤務中にあくびをする者はまだマシな方で、囲碁や将棋に興じている者もいれば、そもそも出勤すらしない不届き者もいる。
平和に慣れると人が堕落していくのは世の常であるが、取りまとめる役目を負っている者からすれば、だからと言って許す訳にはいかない。
平和とは一瞬で崩れるものであるからこそ、武士とは常に緊張感を持ち、有事にすぐ対応出来るようにしなければならないのだ。
(勤番よりもあやつらだ。あやつらときたら・・・)
彼を最も悩ませているのは、将軍の親衛隊である『お庭番衆』の面々であった。
本来なら数多いる忍びから選ばれたエリートで構成されるのであるが、ここ最近はある事情から柳生の里出身に偏っている。その事情に甘えているのかはわからないが、今の面々は弥陀之介から見るとはっきり言って『アホ集団』であった。
当の本人達は近年稀に見るエリート集団だとほざいているが、微塵も感じられない。弥陀之介が物憂げに庭を見ると、そのアホ達がいつもの光景を繰り広げていた。
庭の石に一緒に腰掛けている男女がいる。
「いい天気だ。この雲一つない青空は、まるで君の心のようだ」
「まあ・・・。でも、あなたの心の広さには敵わないわ」
空を眺めながらイチャついている二人組は、それぞれ宗助、お華と言う名だ。
宗助は柳生家宗家の出身で、お庭番衆の頭領である。一番しっかりしなければならないはずだが、こいつはいつもお華とイチャついていて鬱陶しいことこの上ない。弥陀之介から見れば、ただの『馬鹿っぷる』であった。
(はぁ・・・)
ため息しか出てこない。
続いて馬鹿っぷるの奥にいる男は風丸という奴で、新しい武器の開発に余念が無く今も熱中している。
「ここをこうしてこうすれば・・・ うん、いける!」
だが、まともな武器を作った試しがなく、『実験』と称しては城の破壊行為をする。
この前も『新型まきびし・踏み男くん』と名付けた、踏むと音が鳴る玉を城内にばらまき、それを踏んだ高齢の勤番が驚いて心臓発作を起こすという事件を引き起こした。そのことを本人に注意すると、
「ふ。進化には犠牲がつきものなのさ」
と、悪びれもせず言ったので、血圧が高まっていったのを覚えている。
更にその隣にいる大男は美流陀という名で、局部だけを隠した小さな下着を履き、ほぼ全裸の姿で城内をうろつく変態だ。
こいつは自分の体が大好きなのか、今も池に向かって変な姿勢を取り、
「大胸筋! きたきたきた~~!!」
と叫んでいる。
(・・・イタタ)
持病の腹痛がまた出てきた。
そして、極めつけはこいつだ。
びよ~~~~~ん
自分の目の前に糸か何かでぶら下がっている蓑虫みたいな奴。
名は『ビヨ蔵』と言って、あらゆる術を使いこなす希代の天才忍者だそうだが、そもそも人間に見えない。
というか、その糸はどこから繋がっているのだ? それに、喋っているのを聞いたこともない。
(・・・・・・)
もう、なにも出てこない。
(こんな奴らで、何かあった時に江戸城を、上様を守り通せるのか?)
増え続ける浪人が不満を募らせていると聞く。今は大人しいが、腹の底では徳川家に反感を持つ大名もまだまだ多い。おまけに巷では、一時世間を騒がせた白光鬼がまた現れたと情報が入った。
そんな奴らがこの江戸城に攻め寄せたらと思うと・・・
(あ~、やだやだ・・・)
ふと頭を触ると、髪の毛が何本かハラハラと落ちていく。おまけに、キリキリと腹の底が締め付けられるように痛みだす。
(こうなったら秘密の仕事でも引き受ける、と噂のあの女傑に相談するか)
懐から取り出した丸薬を飲み込むと、弥陀之介は早々に江戸の町へと出かけるのであった。
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明けの六つ頃(午前六時ごろ)。
茶髪の少女・凛は、いつものように長屋・土左衛門店を訪れていた。
ここに住んでいる隻眼の浪人・藤兵衛が生計としている傘張り仕事の管理監督者であることと、裏仕事の助手(中身はほぼ身の回りの世話)だからである。
土左衛門店には藤兵衛の他にも行商人や職人が住んでおり、中には所帯を持った者もいる。凛は毎日通ってくるためか、朝の準備に出ているお内儀さん達とはすっかり顔馴染みになっていた。
「おはようございま~す」
「あいよ、おはようさん」
「凛ちゃんは今朝も元気だねぇ」
などと挨拶を交わしながら、藤兵衛のいる部屋へと向かう。
藤兵衛は夜更かしをしているのか、朝起きるのが遅い。そのため凛が『いの一番』にすることは、藤兵衛を起こすことであった。
「おはよ~、藤兵衛さん! 今日も元気に行きまっ・・・ しょ!?」
いつものように戸を勢いよく開けると、思わず絶句してしまった。
なんと、藤兵衛の隣にあられもない姿で眠っている女性がいるではありませんか!
「な・・・ な、な・・・」
驚きのあまり、次の言葉が出てこない。
すると、隣で寝そべっていた女性が、
「う~~ん」
と、藤兵衛に更に身を寄せだす。それを見た瞬間、凛はぷっつんした。
「起きんか、このやろ~~~~~!!(怒)」
長屋中に大音声が響き、藤兵衛は跳ね起きる。
「な、なんだ、なんだ!?」
起き様の藤兵衛に、
「隣の人は、な・ん・で・す・か?」
と、凛が怖い顔をして聞いてくる。
(へ? 隣?)
訳のわからない藤兵衛が凛の指さす方向を見ると、髪の長い女性が横たわっている。しかもその女性は上着がはだけ、豊かな胸元が見えていた。
「・・・げ、げぇっ! ひ、ひさ子!!」
藤兵衛は大いに驚いて布団から飛びのくと、ぶんぶんと頭を振って自分の無実を訴える。だが、それが凛に通じるはずもなかった。
「名前を知ってるってことは~~、まさか、まさか・・・ おのれはとんでもないことを~~」
「ま、待て。誤解だ、こいつは・・・」
必死に弁明をするが、凛は全くを耳を貸さない。
こうして起き抜けに凛の必殺技『超苦須理伊覇亜』を食らうという、清々しい朝を迎えたのでした。
「うげぇえ~~~!!」
つづく