【短編小説】異世界:魔法使い(土系)が雇われて・下
■本文
工房へ到着すると、すぐさま仕事に取りかかる。
目の前にある粘土の山に魔法をかけ、オカン・モータロー氏の望む土に練り上げるのだ。
『グッときてブッと出て、それでいて口当たりがまろやかなもの』
という、よくわからない要求を自分なりにイメージし、魔法で土の成分を調整する。
「・・・よし、出来たぞ」
一時間ほどで完成した土を爺さんの所へ持っていくと、爺さんは何故か一口土を舐め、その後すぐさま壺を作り始めた。
そして数日後に焼き上がったものを手に取るや・・・
「でぃ~っふぁれんとぉ!」
と、その場で床に叩きつけて割ってしまったのだ。そして私を見据え、
「ミスター・イジリー。これではないのだよ。これだとグッとくるが、ブッとはこないのだよ」
フィードバックしているつもりなのだろうが、私にはさっぱりと理解出来なかった。
しかし、私にもプロとしての意地がある。依頼主の要望にそった土を作らねばと、先程のアドバイスを基に再度魔法で粘土を調整する。
(ブッとが足りない、とか言ってたな・・・ ブッと、ぶっと・・・)
ぶうっ
集中していたら、思わず屁が出てしまった。恥ずかしい・・・
誰も聞いていないことを確認し、気を取り直して完成した土を持っていく。
そして数日後・・・
「ちっが~~~う!」
また、たたき割られてしまった。
「ノンノンノン、ミスター・イジリー。これだと、ブッとでるが、グッとはこないのだよ?」
指を振りながら、またもよくわからない批評をするモータロー氏に私は少しイラっとする。モータロー氏が去った後、弟子の一人が肩をポンと叩き、
「うちの先生、いつもあんな感じですから。・・・気長にいきましょう」
と、落ち込む私を慰めてくれた。
それならばと、私は数パターンを作りモータロー氏のところに持っていくが、全てダメ出しをくらう。意地になってきた私は何度何度も試すが、全てモータロー氏に叩き割られてしまった。
「ミスター・イジリー。芸術とは一日にして成らず、なのだよ? 一年程修行した方が良いのではないかな?」
その上、ドヤ顔かつ超上から目線で諭されるのであった。
その夜、私は荒れていた。
「有名な芸術家だか知らないが、何なんだ! あの爺さんは! 人が作ったものを片っ端から割りやがって!」
一人、手酌で酒を飲みながら、モータロー氏への悪態をつきまくる。
「大体、口当たりがまろやかなもの、だあ? 壺作るのに、なんで口当たりが必要なんだよ! ・・・ん!?」
この瞬間、ある閃きが私の脳裏に浮かんだ。
「そうだよ・・・ 口当たりが必要だっていうなら・・・ いいもの混ぜてやろうじゃないか」
そう言って私はおもむろに股間をまさぐると、魔法をかけた粘土の山にオシッコをかけてやった。
「これならさぞかし、口当たりがまろやかになるだろうよ。 あ~はっはっは」
ジョバジョバと降りかかる音と共に、私の笑い声が部屋に響いていた。
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次の日、私は何食わぬ顔で昨夜スペシャルブレンドした土をモータロー氏のもとへ差し出す。
「どうぞ、自信作です」
何も言わずに受け取った爺さんは、いつも通り一口土を舐める。その姿を見て少しだけ溜飲が下がった自分。
(口当たり、まろやかでしょ?)
と、思っていると突然、
「こ、これは!」
爺さんが目の色を変え、猛烈な勢いで壺を作り始めた。そして数日後・・・
「こ・・・ これだあ! このグッときてブッと出る。それでいてまろやかでスマートなもの・・・ これぞ、私が探し求めていたものだぁ!」
モータロー氏は出来上がった壺を頭上高く掲げ、大いに喜んでいた。その壺は、白基調にほんのりと黄色味がついた上品な色合いをしていた。
「ありがとう! さすがはイジリー殿だ、ありがとぉう!」
モータロー氏は私の手を取って喜んでいたが、私は内心複雑な気持ちだった。
経緯はどうあれ、作品は無事完成したということで私の仕事もこれで終了となった。いつ去ってもいいのだが、その前に昼ご飯を食べようと台所へ向かう。
「あ、アマダ―さん、お疲れ様でした。あんな短期間で完成させるなんてさすがは『イジリー・アマダ―』ですね。さあ、どうぞ」
と、差し出された茶碗を見て私は目を見張る。
「こ・・・ これ、まさか・・・」
「ええ、ついでにあの土で茶碗も作ったんですよ」
そう、私が内緒でオシッコを混ぜたものだった。
「これ、いい色合いでしょう? それと、何故かご飯がおいしくなるんですよ」
「え?」
周りを見ると、
「これ、美味いな!」
「ああ。ほんのり塩味が効いてるよな!」
と、大好評であった。呆然としていると、
「この土はアダマーさんが作った土で出来てますから、言うなればアダマーさんの作品でもあるんですよ。さあ、冷めないうちにどうぞ」
そう言って、ぐいぐいと勧めてくる。
まさか本当のことを言う訳にはいかず、散々迷った末に勢いをつけてご飯を口に入れる。すると、
「・・・う、美味い」
「でしょう?」
確かに出汁が出ている感があって、おいしいご飯であった。
そして、間接的ではあるが自分のオシッコを口に入れたと考えた瞬間、自分の中で何かが目覚めた感覚があった。
おわり