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【小説】とあるおウマさんの物語(12話目:いつもより短いのですが!?)
前回までのあらすじ
理念は「2着こそ至上」。能力はあるけど、上は目指さず気ままに日々を暮らしていた1頭の芦毛の競走馬:タマクロス。
なんだかんだで連勝してしまい、臨んだ初のオープン戦。ちょっとした事情により、勝敗よりも己の尊厳を守るために必死となった結果、オープン初戦で圧勝劇を飾ってしまう。
本文
なんやかんやであっという間にレース発走直前。ゲート前で小坊主を乗せて輪乗りをしている。
ゼッケンは8番、末広がりでいい感じ。一方の彼女、アレグリアは12番のゼッケンを付け、輪乗りに参加している。パドックでもそうだったが、彼女も俺の事は気づいていて目線で挨拶をしてくれる。
それだけで、もう俺は幸せで馬生バラ色。レースなんてどうでもいいんだけど、彼女を引退させない為の合言葉を心の中で繰り返し呟く。
(オレ ライバルけおとす、オレ サイゴ抜かれる。)
これを達成させるために気合を入れなくては!
ゲートに入り、スタートを待つ。
バガァン! とゲートが開き俺は好スタートを決める。何故かスピードが出過ぎて先頭になりかけたので、慌ててスピードを緩める。結果的には、先頭から3番手の好位置に付けた。
(あれ? いつもなら先頭にはならないのに。)
自分の体に違和感を感じる俺。何故か、体が軽いのだ。まるで背中に翼が生えたかのように・・・。
(もしかして、俺、ペガサスにクラスチェンジしちゃった?)
なんてアホな事を考える余裕も出ている。とにもかくにも体の軽さに驚きを感じながら、レース前半を快調に走っていく。
ふと後ろの方向を見ると(馬の視野角は人間よりもかなり広く、前を向いていても後方が見えるのです)、アレグリアは真ん中よりやや後ろにつけ、前に出る隙を虎視眈々と狙っているようだった。
今のところは狙い通り。俺は当初の狙い通りにコーナー手前からスピードを上げ、2番手の馬を追い越し、更に先頭の馬に競りかけていく。
すると俺の突っかけが効いたのか、最終コーナー手前で先頭の馬はずるずると力尽きて下がっていき、直線に入った段階で俺は先頭に立った。
レースは大詰めとなり、観客のボルテージも一気に上がっていく。先頭に立った俺も妄想通りの展開でテンション全開。後はちょっと左右にもたれて、彼女に差されるのを待つばかり。
(さぁカモーン、マイハニー。僕の胸に飛び込んで・・・はまずいか、僕の横を追い抜いていって~。)
ウキウキしながら俺は今か今かと待ち構えて走っていく。だがしかし・・・
「タマクロス強い! タマクロス速い! 足衰えず、先頭のままゴール!」
(ん? あれ? もうゴール? えぇ~~!! 直線短くない!?)
いつもの東京や新潟だったら、まだまだこれから・・・、と先頭で駆け抜けたのに全く喜ぶ素振りも見せず、ただただ当惑するだけの俺。
するとそこへ、猛追するも先頭には届かず、2着でゴールしたアレグリアが横に付け、話しかけてきた。
「はは、速いねタマクロス。あたい、全然追いつけなかったよ。」
「あ、あの、その・・・・」
もごもごしてしまう俺。
「いや、でも直線が短かかったから。他だったらきっとアレグリアに抜かされてたよ。」
(いや、違うのよ、抜かれるはずだったのよ!)
俺は心の中で元々の予定を叫びつつ、そう返すのがやっとだった。
「そんな事ないって。はっきり言って、追いつける気が全然しなかったから。」
この後、彼女から最も聞きたくなかった言葉が飛び出す。
「あたい、連勝止まったら引退することになってたんだ。最後に負けた相手がタマクロスで良かったよ。十分踏ん切りがついた。もう、会えないかもしれないけど、タマクロスはこれからも頑張ってね!」
そう言い残し、寂しそうに笑った後、アレグリアは俺の前から去って行った・・・。
こうしてひと夏の恋は終わりを迎えた。事実を認められず、俺はいつの間にか現実逃避に入っていた。
(いや、これは夢だ。きっと本当の自分は今頃はあったかい寝藁の中で寝ていて・・・。そうだよね? 神様!?)
桜咲けども、桜散る。
タマクロス 芦毛 5歳 16戦6勝 怒涛の4連勝!
つづく