未来のためにできる最小単位のこと
2007年、日本は世界で最初の超高齢社会になった。
約4人に1人が65歳以上ということになる。
平均寿命が80歳を超える現在、人生を登山に準えたとしたらピークは40歳。山を下る人生の後半もまた40年という長い年月になる。
人生後半を、不安と衰退だけの「下り坂」とは捉えたくない。生きる先を未来とするなら、ピークを越えた先もまた未来なのだから。
発達心理学と聞くと、生後から成人期に向かい成長する時期に限った心理と捉えがちだが、実際には成年期、高齢期という単純に上に伸びていくとは言えない時期を含め、人は「生涯発達する」という見方がされている。
生物的な衰えが顕著になる一方で、意味記憶(知恵)、手続き記憶(技能やノウハウ)、結晶性知能(経験や学習から獲得した知能)には加齢による大きな衰えがみられない。
また、人生経験で得る 熟達した知識、成熟した知恵、心の豊かさなどを「資源」とすると、これらを貯蔵し活用する能力は、成年期以降に特に拡大するという。
人生を大きく3つの時期に分けると、子ども期は資源を得るために学ぶ成長の時期、成年期は資源の獲得と活用につとめる維持の時期、高齢期は資源を有効に使う情動調整や対処方略の調整の時期といえるだろう。
成年期までは「途上」ではなく質の良い資源を見つけ獲得する重要な時期であり、この時期に得たものは人生の「財」となる。
人生後半も「下降」ではなく、獲得した資源をコントロールして分配する重要な時期である。
心の健康は健康寿命に直結しているため、クオリティ・オブ・ライフ」(高齢者研究において生活における主観的幸福感や満足感)を満たせるかどうかが鍵となる。
長い人生の中でピークの時期はあまりに短く、一瞬の煌めきに過ぎないだろう。
頂上だけにスポットライトを当てた山を描いたような人生ではなく、どの「今」にもスポットライトを当てて生きること。
これが私たち1人ひとりが未来のためにできることの最小単位ではないだろうか。