ネクタイと息子
ガッチリした骨格と落ち着いた風貌からいつも年齢より上に見られてきた息子。小学6年の夏に私の身長を超えた。
ランドセルの肩ベルトの穴を増やした。
改札のピヨピヨ🎵音と共に駅員にジーッと疑いの眼差しを向けられることもしばしば。
足も大きく上履きを何足買い換えたかわからない。6年生になると下駄箱に靴が揃えて入らなくなったようで下駄箱を2つ占拠していた。
授業参観の日、下駄箱を見た誰かのお母さんが言った。
「あら?今日は教育実習の先生が来てるのかしら?」
「あのー、その靴‥うちの息子のですけど‥。」
お母さんたちの笑い声が玄関に響いた。
卒業が近づいたある日、卒業式用の息子のスーツを買うため息子を連れてデパートに行った。
王道ブランドの子供服売り場でジャケットは紺の金ボタン、グレーのズボン、シャツ、ベスト、ネクタイを選び息子を試着室へ。
しばらくして店員さんが申し訳なさそうに私のところにやってきた。
「あのー、スーツはバッチリなんですけど、ネクタイがですね‥。」
バツ悪そうな苦笑いの店員さんに誘導され試着室を覗くと、そこには芋洗坂係長のような息子の姿が。
ご存知だろうか?数年前に流行ったお笑い芸人の芋洗坂係長。ネクタイがかなり短いのだ。
「あのー‥。私どものブランド、紳士服売り場が1階にございまして‥。恐れ入りますがネクタイはそちらでご検討された方がよろしいかと‥。」
ややご機嫌斜めの息子をデパ地下のジェラートダブルでなだめて紳士服売り場へ移動。
店員さんに事の成りゆきを話し、1番フレッシュに見えるネクタイを買って帰ったのだった。
成人式、就活、大学の卒業式、入社式。
息子のクローゼットのネクタイはイベントごとに増えていった。その中に、あのフレッシュなネクタイが今も誇らしくぶら下がっている。