小川洋子さん『元迷子係の黒目』
(あらすじ)(感想含む)
”ママの大叔父さんのお嫁さんの弟が養子に行った先の末の娘”と呼ばれていた人が裏の平家に住んでいた。
言い間違えると小さなペナルティを科せられていた。
名前を憶えてもらうほどには目立つ存在ではなかったのか。
彼女の目は黒く深みがありそして斜視であったがゆえに、一度に多くの物事の奥深いところまで見えていた。
結婚しそして離婚し復職してデパートの下っ端からやり直し、デパートの多くの仕事をして定年まで働いた職業婦人だった。
そしてデパートの迷子係こそ、彼女の能力が発揮できた仕事だった。
迷子になった子ども悲しみを見逃すことなく見つけ出し救うことができた。また、過剰にすることなく、きめ細やかな仕草や二個の黒目にしかできない目配せで迷子を安心させた。
何よりも迷子自身が迷子係に選ばれる能力があることを知っていた。
留守番の時に頼まれた水槽の魚のえさやりや苔取りの掃除など絶妙な加減ができた。
彼女の庭は、近所の人が横切ったり、子ども達が遊んでいたりした。
水槽のグッピーが赤ちゃんを産んだ時、親に食べられないようにその赤ちゃんを小さな網で取り出すことが実に手際が良く上手くできた。
水槽の苔取りとしてくれると信じて取ってきたヌマエビだと思っていたのが、魚たちをすべて食べつくしてしまった時の私の辛く悲しい気持ちにただ寄り添い、涙を自分のスカートで拭いてくれた。
そして私が願っていたデパートでの迷子となり、保護者として迎えに来てくれた。
(感想)
彼女は、ただ厳しい運命を受け入れる強さがあるだけではなく、つらい出来事さえも何事もなかったかのように生きることができる、さらに崇高な人間だ。
でも、私たちにはその崇高さが理解できないでいる。
理解できるのは迷子となって助けられる子どもだけなのだ。
そして今、彼女は自分の家の四角い庭に囲まれ誰にも傷つけられないように守られて暮らしている。
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