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私は春が嫌い。


春が嫌いな理由。  


芽を出した植物と柔らかくて温かな土の匂いに  

風に舞う桜の花びらとほんのりした陽ざし。  


ちょっとした日常のなかでふと春を感じたとき、瞼の裏が懐かしさでくすぐったくて、泣きたいような気持ちになる。  


また、春が来てしまった。  


正直、私にとって春は切なくてとてつもなく懐かしくて悲しい哀しい、季節。  


柔らかな陽ざしに包まれて、大切な人はみんなみんな私の側からいなくなってしまうから。 



あちこちでつぼみが膨らんで、優しい光に満ちた春。   

その暖かな春とは裏腹に、硬く冷たい布団からどうしても起き上がれない。  


微睡む瞳の奥。 


夢なのか現実なのか分からない世界で優しい残像がちらついた時には、もう、いま見ているなにもかもが現実だと思いたくなる。


これは夢なんかじゃない。


そうしてまた、起き上がれなくなる。


目覚めて現実に戻った瞬間、その淡い影は跡形もなく消えてしまうことを知っているから。


春が来ると、だからいつも心がなんだかざわざわして不安になる。  


おじいちゃんの笑顔がいまも頭から離れない。  


あの時の苦しげに揺れる瞳も  

そのときの、残酷なほどに優しい日の光も。  


増えて欲しくない日付たち。
忘れられない日にちが増えていく。  


こんなに苦しい季節なのに、
世界はなんでもないように明るい光を落とす。



心とは真反対に、当たり前の顔をして刻まれていく時間。 


笑顔に満ちた明るい春にまだ追いつけないときがあって、笑っている自分をどこか遠くから眺めている気持ちになるときがある。


茫洋とした日々の向こうと、浮かんでは消えるつかみどころのない言葉たち。  



春になると、  


淡くまっすぐな笑顔の輪郭が揺れて   

私を呼ぶ声が頭の奥で反芻する。



霞む視界が澄んだ空を映すまで  

まだ、少しだけ時間がかかりそうです。  





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