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自治体における水害対応・対策の課題と対応のポイント

日本は水害が発生しやすい国の一つです。最近では台風や線状降水帯による被害も多く、少し前までの常識が通用しない甚大な被害をもたらす頻度が増えています。

この記事では自治体における水害対策のポイントを紹介します。



水害とは

水害とは台風や発達した低気圧、線状降水帯などによって引き起こされる大雨や洪水のような被害のことです。

日本は沖積平野と呼ばれる河川の堆積物によって形成される土地に住民が生活の拠点を置いていることや、台風などによる豪雨が発生しやすい場所に位置しているという特徴があり、世界でも水害が起こりやすい国の一つです。


近年、短期間豪雨の年間発生回数が増加傾向にあり、全国各地で大規模河川の氾濫などが発生しています。

気象庁のデータによると日降水量が200mm以上となる年間の日数を直近の30年間は1.7倍の日数となっており、長期的に増加していることがわかります。また短期間豪雨についても同様で長期的に増加傾向にあります。

そしてこのような雨量の増加に比例して土砂災害や水害の発生回数も増加傾向にあり、平成19年~28年までの間に、全国の97%以上の市町村で水害が発生しており、その中でも約50%の市町村で10回以上の水害が発生しているという驚きのデータもあります。

日本における自治体の水害対策は急務と言えるでしょう。

最近起こった大規模水害

それでは実際に起きた大規模な水害を紹介します。近年想像を超える豪雨の影響でたくさんの水害が発生し、自治体が対応に追われています。

令和 4 年台風第 15 号による水害

2022年に発生した台風15号により、静岡県や愛知県をはじめとする東海地方で激しい雨が降り甚大な水害が発生しました。

静岡県では特に強烈な雨が降り、平年の9月の一か月の降水量を24時間で上回るほどの猛烈な雨が降りました。


令和5年梅雨前線による水害

令和5年6月梅雨前線が日本付近に停滞し、温かく湿った空気の影響で大雨となり多数の水害が発生しました。

6月28日から7月16日までの総降水量は大分県、佐賀県、福岡県で1,200ミリを超えたほか、北海道地方、東北地方、山陰及び九州北部地方(山口県を含む)で7月の平年の月降水量の2倍を超えた地点がありました。


参考:気象庁 | 災害をもたらした気象事例(平成元年~本年)

https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/data/bosai/report/index_1989.html


これは最近起こった大雨による水害の一例ですが、日本全国どこでも水害発生のリスクがあるということがわかります。

自治体は今までの常識にとらわれず、いつ起こるかわからない水害に対する対策を行ってリスクを最小限に抑える努力が必要になります。


自治体における水害対策・対応の実態

大雨による水害は全国どの自治体でも起こる可能性があります。では実際に大規模な水害に見舞われた自治体の水害対応の実態はどのようなものだったのでしょうか?

自治体職員の声をご紹介します。

浸水による停電、固定、携帯電話の不通

“隣町の消防から「今、役場が浸水しとるんや!」と電話がかかってきました。あっという間に水があふれてきたので、あわてて書類とかを机の上に上げているところだというのです。それに、防災行政無線等の電源も全て1階にあったので、全部ダメになってしまったとも。

夜中に、「これが最後の通信になると思います。もう携帯電話の電池がありません」という連絡が入って以降通信が途絶え、その役場は孤立してしまったのです。“

【平成16年台風第23号(平成16年10月)】(福知山市60代男性市役所職員)

自治体職員の参集ができない状況

“8月13日の晩、そんなことになるなんて全く思いもせずに気持ちよく寝てたら、役所から被害が発生しているから出動してくれというような話があり、真っ暗な中を車で役所に向かいました。

今まで、たいがいの雨の時でも水がついたことはありませんでした。雨がきつかったので、水しぶきだけしか見えないような状況で、ヘッドライトをハイにして走っていて、何の疑いもなくアンダーパスを通り抜けようとしたんです。そうしたら、あれよあれよという間にハンドルが効かなくなり、車に水が入ってきて、前のドアが開かなくなり「どうしようかな」とあせりました。ハンマーも積んでませんで、後ろの席に行ってドアをクッと開けたらちょっとだけ開きましたので、脚をはさみ込んで、スルッと体を抜くようにして車の外に出たら、もう胸の下ぐらいまで水が来ていて、這うようにして手前の信号の方に戻りました。“

【前線による大雨(平成24年8月)】(宇治市50代男性市役所職員)


“去年の11月11日の未明に、最大時間雨量が122.5ミリの集中豪雨に遭った。和歌山市は、過去20年これといった被害を受けていなかったため油断があった。

警報が出た2時46分には自宅にいたが、外はザアザア降りで警報を伝える防災行政無線の声がまるきり聞こえない。危機管理官に電話して、「どんな具合だ」ということを聞いたところ、「1時間くらいで雨雲は去る見込みである」ということだったのですぐには出動しなかったが、市内の幹線道路が全部冠水して走れない状態で今度は出動できなくなった。4時の段階で93人しか出勤できず、対策本部を設置したのは4時48分だった。5時半で、本来出動すべき354人のうち185人しか出勤できていない。7時になってようやく372人出動した。こういう時にどうやって出勤するかというのは、大きな課題だ。私は結局、いちばん山の上を通る迂回路を探して、そこからようやく役所にたどり着くことができた。”

【低気圧による大雨(平成21年11月)】(和歌山市長)

自治体の防災担当職員へ業務が集中

水害は復旧活動も大変ですから、ひとつの災害に1週間ぐらいかかりっきりになります。当時も課の5人がローテーションを組んで、2、3時間家に帰り、お風呂に入って仮眠してはまた出て来るということを4日ほど続けました。

市民の中には、夜仕事をして昼間寝ていらっしゃるという方もたくさんおられます。で、災害ゴミの出し方などの情報が入ってきづらいのか、夜の仕事が終わってから問い合わせてくる人も少なくありません。また、ちょっと一杯ひっかけて、災害に対するいろんな想いを誰かにぶつけたいといった感じで、電話をかけてくる人もいます。最初の3日ぐらいは、大変なことが起きているということで、アドレナリンがすごく出ていて頑張れるんですが、そのうち疲れがたまってきて、「倒れて病院に運ばれた方がいいな」なんて思ったこともありました。

【平成21年7月中国・九州北部豪雨(平成21年7月)】(宇部市50代男性行政職員)

住民、報道機関からの問い合わせが殺到

ずぶぬれになって役所に着くと、報道機関からの嵐のような問い合わせが待っていました。最初は「うわー、大変ですね」と言ってくれるのですが、そのうち思うように取材ができないもどかしさからか厳しい指摘の連続となりました。

「こう答えたいけれども、どうしましょう」と上層部に投げかけてもストップがかかってしまう。メディアから「なぜ、出せないんだ!」と言われても、担当としては市がまとめた確かな情報しか出せず、にっちもさっちもいかない状況が続きました。まだ被害の詳細がつかみきれていない状況であると説明しても、どの地域が浸水したのか、浸水した家屋は何百か、何千かと聞いてきます。報道機関からすれば、正確に確認がとれていなくとも、今わかっていることを出してほしいということなんです。中には、特ダネを求めてくるところもあり、そういうアプローチへの対応は、正直苦しかったですね。

【前線による大雨(平成24年8月)】(宇治市50代女性市役所職員)


いかがでしょうか?大雨による水害発生時には自治体職員に想像をはるかに超える負担がかかっていたことがわかります。

事前の対策を十分に行っていたとしても回避することができなかった状況がほとんどかもしれませんが、適切な対策を行うことで回避できた問題もいくつかあるように思います。

住民の安全と自治体職員の安全を守るために自治体として行うべき水害対策はどのようなことなのでしょうか。

自治体における水害対策・対応の原則

次に自治体の水害対応の原則について、

・水害前

・水害発生直前

・水害発生後

に分けてご紹介します。


水害発生前

初めに自治体における水害発生前の対策についてです。

水害発生前は行政機関、地域、住民の多角的な連携が必要です。

まずは災害対策本部体制の整備が必要です。水害発生時は防災担当課だけでなく他の部局も併せて自治体全体として活動を行います。

災害時に円滑かつ迅速な連携を行えるよう、平常時から本部体制の確認を行う必要があります。マニュアルの整備はもちろん、防災訓練なども効果的です。

また住民の防災意識向上も重要です。自治体職員の意識向上だけでは水害発生時スムーズな対応は実現しません。普段から住民向けに防災意識の啓発を行うことで自治体と住民の連携がスムーズになります。

そして、災害対策本部の整備と同様に避難所や避難設備の整備も行う必要があります。避難所は水害と地震発生時では想定される危険エリアがことなるため、それぞれの災害に合わせた整備が必要になることを覚えておきましょう。


水害発生直前

水害発生直前には行政機関と住民の間で危機感の共有が重要になります。

まず前提として理解し置く必要があることがあります。それは雨によっておこる水害は地震によっておこる災害と性質が異なるということです。

地震は発生前に予測がとても難しいのに対し、豪雨被害は天気図などの気象情報によってある程度予測することができます。(最近頻発しているゲリラ豪雨等雨雲発生から降雨まで時間がかからないケースもある)

とはいえ、雨が降るのか降らないのかを予測することはできても水害が発生するかどうかの予想は難しく、避難勧告や避難指示などの発令を検討する自治体職員には大きなプレッシャーがかかってしまいます。

防災担当者はできるだけ正確な気象情報を入手し、状況によっては積極的に県や国への助言を求めたりすることで状況把握の精度を高めたうえで避難が必要だと感じた場合は空振りを恐れず発令することが重要です。

また、災害対策本部の立ち上げによる迅速な初動対応や住民への情報発信を継続して行う必要もあります。


水害発生後

水害発生後はとにかく人命を最優先して行動と情報発信を行うことが重要で、救急救命活動についても同様です。そして、水害発生前に準備しておいた体制を計画通り実行するために自治体職員を総動員して対応に当たります。

また被害が想定を超えて大きくなると、ボランティアや他自治体からの支援を受ける場合があります。このような支援は水害対応にとってとても重要ですので、外部からの応援を受け入れる体制を整えておく必要があることも忘れてはいけません。


まとめ

この記事では自治体における水害発生時の課題と対応について書きました。

水害の特徴や、被害の特徴を把握して最適な対応が行えるように平時から準備を行いましょう。


「市町村のための水害対応の手引き」(内閣府) (https://www.bousai.go.jp/taisaku/chihogyoumukeizoku/pdf/suigaitebiki_r505.pdf)を加工して作成

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