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松尾芭蕉の有名な句「名月や池をめぐりて夜もすがら」の「池」はどこ?

京都・嵯峨の広沢池(ひろさわのいけ)に、下の写真のような石碑があります。

広沢池(石碑の表記は「廣澤の池」)

よく見ると、碑の右側面に芭蕉の句が。

石碑

〈名月や池をめぐりて夜もすがら〉とあるようです。貞享3年(1686)、芭蕉が42歳(今の数え方で)になる年に作った、よく知られている作品です。この句は、

(中秋の名月が出ている。月を映す池の周りを一晩中歩き、飽きることなく月を眺めたことだ)

というような意味です。

広沢池は古くから観月の名所で、歌にも詠まれてきました。そこに芭蕉の句が刻まれた石碑が設置されているので、この石碑を見た人は、「芭蕉もここで有名な句を詠んだのだなあ・・・」と思うかもしれません。

でも、結論から言えば、それは事実ではありません。

この句は『続虚栗(ぞくみなしぐり)』という本(芭蕉の弟子・其角編の俳諧撰集。貞亨4年(1687)刊)に、「草庵の月見」という前書をつけて載せられてあり、『雑談集(ぞうたんしゅう)』(其角著。元禄5年(1692)刊)にも、芭蕉庵で月見をした時の句である旨の記述があります。

つまり、この句の「池」は、芭蕉庵(=江戸近郊・深川の草庵)のそばにあった池を指しているということになります。

広沢池は観月の名所だから、それにふさわしい芭蕉の句を選んで石碑に刻んだ、ということなのでしょうが、本当に広沢池で詠まれた歌にした方が良かったのではないか・・・とも思います。短歌の方が14文字多いので、彫りにくいかもしれませんが。
ちなみに、昔は違ったのかもしれませんが、今の広沢池を見ると、そのまわりを夜に歩くことは、すぐ水に落ちそうで怖くてとても想像できません。

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