京都伏見の酒「桃の滴(もものしずく)」は松尾芭蕉の句から!
伏見にある松本酒造の酒「桃の滴」は、松尾芭蕉の句からとられた銘柄です。
「桃の滴 特別純米酒」のラベルには、よく見ると芭蕉の次の句が掲載されています。
〈わが衣にふしみの桃の雫せよ〉わがきぬにふしみのもものしずくせよ
この句は、芭蕉最初の紀行文「野ざらし紀行」に載せられているもので、芭蕉が伏見の西岸寺(さいがんじ。今もあります)住職の宝誉(ほうよ)上人を訪ねた時に詠んだものです。宝誉上人は当時八十歳、俳句を詠み、任口(にんこう)という俳号をもっていました。句の意味は、
(伏見の桃の花から私の衣に雫を落とすように、上人の高い徳をお与えください)
というもので、伏見が桃の名所であることから桃を使って、宝誉上人への尊敬の気持ちを表現しています。「桃の滴」という日本酒の銘柄は、この句の一部分を使用しているわけです。
また、「桃の滴 純米大吟醸 無何有郷」のラベルには、上の句に代わって「無何有郷(むかゆうきょう)」という文字があります。「無何有郷」は、「無何有(むかう)の郷」とか「無何有(むかう)」とか「無何(むか)」などともいうようですが、もともとは中国古代の書『荘子(そうし/そうじ)』にある言葉で、『精選版 日本国語大辞典』(小学館)によれば、「無意・無作為で、天然・自然の郷」「ユートピア」ということだそうです。
実はこの言葉も、芭蕉「野ざらし紀行」の冒頭にあります。「無何に入る」(=自然のままの境地に入る)と言ったという昔の人の言葉を支えに・・・、という記述があります。やはりこの日本酒の名前も、芭蕉の「野ざらし紀行」からとられたものかもしれません。
「野ざらし紀行」は、noteで現代語訳をしておりますので、よろしければお読みください。