活動的になる効果 ー 行動活性化療法
お久しぶりです。心理専門職をしている湊ノドカです。
今回は楽しい活動に取り組むことによって起こる、心理的な効果についての説明をしていこうと思います。
これは認知行動療法の技法のひとつ「行動活性化療法」の説明でもあります。後日理論面も追記しますので、興味がある方はそちらも読んでいただけると嬉しいです。
興味ない方は、理論的なことはスルーで使えそうな部分をかいつまんでもらえたらと思います。
楽しい活動にとりくむ その効果
皆さん、まずは自分にとっての楽しいことや好きなことに取り組んでいるところを思い起こしてみてください。
例えば、
友達と遊びに行って楽しく話しているとき
お気に入りの美味しい店で食事をするとき
気持ちのいい天気の日に散歩に出たり、街歩きをするとき
運動が好きなひとは、体を動かしているとき
創作活動が好きなひとは、自分にとっての大事な創作に打ち込むとき
などなど…
ひとつ選んで想像してみてください。
そのときの光景を思い浮かべて
どんなものが見えて
どんな匂いがして
周りではどんな音がしていて
どんな空気が感じられて
そこにいるあなたの体にはどんな感覚があるか
感じてみてください。
どんな感じが起こったでしょうか?
多くの方が、楽しい感情や心地いい感覚を思い起こせたのではないでしょうか?
自分にとって何らかの楽しい活動をすれば、このようなポジティブな感情が起こり、気分のリフレッシュができます。悩みごとから少し距離をとることができたり、新鮮な気持ちで今ある問題に取り組み直すこともでき、場合によっては新たな解決の切り口を見出すことすらあります。
こんなふうに、私達の普段の生活には楽しい体験があります。そして楽しい体験が生み出すポジティブな感情を受けながら私達は生活しているのです。
落ち込んでしまうネガティブな出来事が起きたとしても、生活の中から得られているポジティブな効果によってバランスが保たれていれば、メンタル疾患になるほど落ちてしまうこともないでしょう。
ポジティブとネガティブを天秤にかけたとき、落ち込む方に傾ききらないで保てていれば、また元気を取り戻せると考えることもできるでしょう。
この当たり前の前提がけっこう大事です。
精神的な落ち込みで困ったとき、この原理が役立ってくるのです。
メンタル不調時は活動の量、幅が狭まる
メンタル不調になっているときには、いつもなら楽しいはずのことも楽しめなくなるという現象がおきます。
また、重大な心配事や不安があるときも同様で、すきな○○をしているのに面白く思えない、心ここにあらずで楽しいことに集中できない、などの体験をすることも少なくありません。
こういう体験が続くと、本来リフレッシュになるはずの楽しい活動をすることさえ億劫に感じ、取り組まなくなってしまいます。
そして一度生活習慣が変わってしまえば、それが継続してしまうことが多いものです。楽しい活動が少なく仕事と家の往復だけ、という生活が定着してしまう人もいます。
平日はとりあえず仕事に行くけど集中できずパフォーマンスもあがらない。休日になっても仕事が上手くいかない焦りや不安から仕事の心配ばかりして、結局何もできないまま1日が過ぎたというのもよくある話です。
仕事の心配事を減らすために1日あれこれ考えてみたものの、良い案も浮かばず。余計に仕事のパフォーマンスも落ちて考え込む傾向がさらに強まる…という悪循環もしばしばあります。
学生ならば(note使っているのは大学生以上ぐらいかなと思ってますが)、勉強や研究などの負担から落ち込んできて楽しいことにも取り組みにくくなるという例もあるかと思います。
こういう場合、先程の天秤の話でいえばネガティブな出来事は増加しているのにポジティブな活動は減っている状態です。天秤はネガティブな方向に傾きっぱなしです。
この生活では、より落ち込む傾向が続いていくと考えられます。
元々の状態に戻るためにはどうすればよいでしょうか?
普通に考えると、対策は以下のふたつです。
①ネガティブな出来事を片付けること
②ポジティブな活動を促進すること
「行動活性化療法」はこのうち、ポジティブな活動を促進していくものと言えます。
(ネガティブな出来事を片付ける技法も認知行動療法には存在しますが、かなりケースバイケースになることと今回の内容とは違うので割愛します)
②を高めることで、不健康な状態になっている天秤をもとの健康な状態に戻そうとするものとも言えるでしょう。
もちろん①が可能であれば、その実行を否定するものではありません。
行動活性化療法
行動活性化療法が勧めることは至ってシンプルです。
落ち込んで何もしたくないときはあるけれど、そのまま何もしないのを続けているとより落ち込みが強まってしまう。
なので、状態改善のために「敢えて」ポジティブな感情を起こす活動を計画的にやってみよう、ということです。
どういう効果がもたらされるか改めて説明していきます。
①ポジティブな感情を起こし、落ち込み等を緩和
実際に活動に取り組んでみると、「案外楽しめた」とか「やり始めたら、けっこう集中できた」といった話はよくあります。
何かしらのタスクをこなしたとしたら「できた!」という達成感がおきます。これもけっこう重要です。
こういう体験からポジティブな感情が起これば、気分の落ち込みや不安をいくらか和らげてくれます。
②「考え過ぎ」を緩和。過剰なネガティブ感情を状況相応に戻す
行動活性化では、体験的に五感を使って楽しむような活動を推奨する傾向があります。このような体験は、不安や心配事といった頭の中の出来事に過度に注目する傾向の抑止力になります。
心配事への過度な注目や思考は、不安、心配、焦り、落ち込みなどの感情を、その事態に相応のものから実態以上に大きくする傾向があります。しっかりと楽しい活動にとりくむことで、いわゆる「考え過ぎ」の状態から離れることができ、膨れ上がったネガティブ感情を通常の水準まで戻します。
もちろん落ち込みの元になった出来事は変わりません。しかし必要以上にネガティブ感情が拡大することに歯止めがかかることで、思ったより楽になる場合もあったりします。
③身体を動かすことによる抗うつ効果
また適度な有酸素運動は軽度~中度のうつに対し抗うつ薬と同等の抗うつ効果をもたらすことが分かっています。
取り組んだ活動がスポーツなどであれば同様の効果がありますし、散歩にいったり、街にショッピングに出かけたりであっても軽い運動としての効果が期待できます。
④進化した行動にたどり着く
最後は考え方の話になってしまいますが、行動活性化では行動のバリエーション・幅を広げる方向で相談し実行に移します。新たな可能性を探し実験するぐらいの気持ちで取り組むことを勧めます。
様々な行動を試していれば、今まで以上に「より上手くいく行動」や「より割のあう行動」などが見つかる可能性があります。これまでの行動より、一歩進化した行動にたどり着く可能性があるのです。
そして長い目で見た場合には、何かを試してみて上手くいく体験があると、何か新しいことをしようという傾向がより強化されます。
※行動活性化の反対方向に行く場合
一方「どうしたら仕事が上手くいくか…」とずっと考えて一日中家にいる場合は、どのような行動傾向になるでしょうか。
少し理論的な話が入ってしまいますが、人間は実際に体験していないことを思考だけで習得することができる希有な生物です。しかし、人間含めた全ての生物が行動を身につけたり変化させたりするのは基本的には身体でした体験によります。このことを念頭に置いて考えてみます。
落ち込んだときには次のような考えや行動がよくみられます。
外に出て何かするのは億劫だし、疲れるだろうな。もしかしたらやってみて余計に落ち込むかもしれないな…
疲れていることだし、やっぱりこのまま家にいよう
そうすると、このとき身体の体験はどうなるでしょうか?
やらなかったので、心配していた余計な落ち込みや疲れもなかった。ほら、やっぱりやらなくて良かった
となってしまいます。
疲れや落ち込みを避けて活動しないパターンは、どこまでも「本人的には割があう」と感じられてしまいます。そして生物全般は「割にあった」と感じた体験様式を繰り返す性質をもっています。つまり外に出るのがめんどくさいから家でだらだらしていようという傾向を始めると、それが強まり続けることになってしまうのです。
このような理由が行動活性化療法の背景にはあります。
直感的にピンとくる対処法とは異なりますが、敢えて楽しめる活動するのが役に立つ場合もあるのです。
行動活性化の注意点
①医療が必要な状態の場合
もしあなたが、自分は「うつ」かもしれないなと思っているのであれば、まずは医療機関に受診しましょう。専門家の診察なしに自己判断で治療しだすと、より状況が悪化する場合があります。
また「うつ」などの症状で既に医療機関にかかっている場合、行動活性化は効果のある治療法ですが、今それを行うことが適切かまでは分かりません。一旦主治医と相談し了承を得てからにしましょう。
②長期的に上手くいくかも考慮する
行動活性化で取り組む活動は、基本的には楽しい等のポジティブな感情を起こすものでよいのですが、その活動が長期的に見て上手くいくものであることが重要です。
例えば、ギャンブルが趣味の方。ポジティブな感情を産む活動としてギャンブルに使う時間やお金をいつも以上に増やすとどうなるでしょうか?額にもよりますが、経済状況や生活の破綻につながりかねません。
お金が必要になる趣味の場合などには、経済状況も考慮しつつ、無理なく適度に行うことが必要です。
③現実逃避の傾向に注意する
楽しさを追求することは、必要なことを避ける現実逃避になりがちな面があるので注意が必要です。
例えば重大な試験が控えているプレッシャーで不安、焦り、気分の落ち込みが続いていたとします。趣味のゲームに没頭して一時的に楽しんだとしても不安の元は変わらず存在するので、すぐにまた不安、焦り、気分の落ち込みがやってきます。
この場合、ゲームを楽しみ一旦リフレッシュしてから試験勉強に集中して取り組むなどは役立つかもしれません。もしくは楽しみを後に置いといて、二時間集中して勉強したらゲームを一時間しても良いことにするのでもいいでしょう。
勉強をする時間もいれることで不安の元の根本的な改善に繋がりますし、長期的にみて自分の人生の役にも立ちます。
④楽しさだけでなく、達成感や充実感も重視する
楽しさの過度な重視は、享楽的で現実的でない生活傾向になりがちという問題点があります。そうすれば落ち込みは改善するかもしれませんが、その生活を継続できなくなればまた落ち込みが戻ってきてしまいます。
そうならないためには達成感・充実感を行動活性化の目標にもってくることが役立ちます。
例えば、部屋の掃除に取り組んだとき。ちょっと労力はかかるけど、キレイに片付くと気分もスッキリしたり、達成感を感じることがありますよね。
こういった「達成感・充実感」というのも、落ち込みに対抗するポジティブ感情になりえます。
家事に集中して取り組むことなどは、生活上の問題を起こさずに達成感を得ることができる手段として役に立ちます。
また先程の試験前の状況で勉強に取り組むことも、すこし気分が回復していれば達成感として感じることができるでしょう。
⑤「価値」の考え方も併用する
以前の記事で書いた「価値」ある行動を、行動活性化のなかにいれるのも役に立ちます。
ACTのパッケージ全体も、行動活性化と相性がいいことが知られています。
気になる方、思い出したい方はリンクから以前の記事をご覧ください。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
行動活性化は上手く使えそうでしょうか?
「なるほどそういうことなら試してみよう」と把握して使っていただけそうであれば、おそらく上手くいくんじゃないかと思います。
どうか上手く使って、皆さんの人生の役に立てていただければと思います。
行動活性化療法を含め「行動療法」のストラテジーは取り組みやすく効果が高いと、「認知療法」の創始者のベックも言及しています。
ただ、その効果が高い行動療法に取り組むことが、できない方、取り組んでも効果が上がらない方には「考え方(認知)」の問題を修正する「認知療法」が必要になる場合があるとも言っています。
これは現代の現場感覚としても当てはまるものだと思います。
今回の記事の内容に関連する詳細な参考文献や理論的な説明については後日記事にしたいと思っています。興味ある方はまたみてください。
行動活性化療法の内容についてはこちらを参考にしています
行動活性化 (認知行動療法の新しい潮流) ジョナサン・W・カンター
https://www.amazon.co.jp/dp/4750342297/ref=cm_sw_r_tw_dp_KGVMZ294RM6902CHMJVQ
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