シュレーディンガーの少女
「シュレーディンガーの少女」松村有理
本屋さんでプッシュされていて、地元出身の作家さん気になるなぁと購入して早数ヶ月。ようやく読み終えた。
SF、数学や物理のキーワードがちょいちょい出てきて、「むむっ難しい」と思う場面はあったけど、それでも面白かった。
※一部ネタバレがあるため、未読の方はご注意を。
「六十五歳デス」
試し読みがちょうどこの短編の冒頭で、めちゃ面白いじゃないか……と買うきっかけになったお話。
紫さんカッコいいんだよな……今まで1人で生きてきて、ようやく思い残すことはないとなったタイミングで桜ちゃんと出会って。
紫さんの最後は何とも切なかったけど、お話の終わり方は良かったな。
桜ちゃん、たくましく生きてほしい。
「太っていたらだめですか?」
まさかの政府による公開デスゲーム。サメに捕食されるシーンはマジで怖かった……
デザイナーの彼女の咄嗟の判断はすごいし、あのクレイジーな状況下でも冷静に判断できるのすごいよ……
最後の終わり方を読むと、やはり事実は変わらないということなのか……
「異世界数学」
これ好きだった〜
水戸一高(めちゃ頭の良い高校です)かな?と思う舞台で、数学が嫌いなエミちゃんがひょんなきっかけで、数学を禁止されている世界へ飛んでしまうという、異世界物語。
「開放派」のみんなと関わるうちに、数学の面白さに気づきはじめて、危ない場面では練りに練った作戦で助けるのはカッコいい〜!
王様が必要な公式だけ暗記させられる、人間電卓になっていきそうなのは本当かわいそう……
エミちゃんがさぁどうだ!とあれこれお披露目して、うわぁと目を輝かせるシーンはグッときた。
元の世界に戻っても、劇的に数学ができるわけじゃないんだけど、本当にやりたいこと、興味を持つことを探し始めたラストは良かった。
「秋刀魚、苦いかしょっぱいか」
これも好きなお話。
みなさん、秋刀魚を食べることがなくなった世界って、想像できますか?
全てAIを使えば生活には困らない世界で、今はない秋刀魚について調べて、味を作り上げていくシーンは面白かったな。
ちはるちゃん、やるじゃんねぇ。とよしよししてあげたい。
「ペンローズの乙女」
色々な世界線のお話が交互に出てくる。これは慣れないと何のこっちゃ?となるよね。読み終えた後もまだ上手く理解できていない。
とある南国の島に流れついたヨーイチとサホの話は最後うーんと考えさせられたな。
世界を守るため、命を投げ出しても構わないと思えますか。
変えられない世界の元では、受け入れるしかないのかな。その意志を強く持たないと、いつか精神がやられてしまうのかもしれない。
「シュレーディンガーの少女」
今回のための書き下ろしですって。
少女×ディストピア
紅と藍、そして僕と彼。
生きている世界と死んでいる世界、と細かく分かれていく世界。
多世界解釈を証明するための方法が結構過激すぎる。
この多世界解釈って村上作品にも出てきたよね?選んだ世界と選ばなかった世界みたいな。
面白かったけど、怖いなとも感じた作品でした。
◆◆◆
ディストピア、と聞くと身構えてしまうけど、救いようのない、変えられない出来事って実は気が付かないところであちこち転がっているのかもしれない。
人間の寿命は65歳で終わってしまうし、太っていることはやはり生きづらい。
数学の点数が上がるわけでもなく、本当の秋刀魚の味を確かめることは出来ない。
迫り来る事実を劇的に変えることは不可能だし、謎のウイルスは消えることもなく、物事の真理を突き詰めようとする友人を止めることは出来ない。
全て丸く収まるなんてことはありえない、出来ない、という事実だけが残る。
でも、そんな中でも彼ら、彼女らは生きていかなくちゃならならない。
生贄になってしまったサヨのように、自分が逃げたところで次に選ばれる人間は決まっている、ならやるしかない、逃げるという選択肢はないとどこか諦めて、無理くり納得するしかない。
そう考えると何とも言えない気持ちになるけど、事実なんだよな。
変えられない、という事実とどう向き合っていくか。もしもの話かもしれないけど、実は近くにごろごろ転がっているかもしれない。と思う1冊だった。