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ヒゲ脱毛と投資教育 共通する現代社会の闇

ヒゲが生えている男はモテないそうだ。

なんの話やねん。そう思って読んでいるとヒゲ脱毛の広告だった。最近では、若い人の間でヒゲ脱毛をする人が増えているとも書かれていた。たしかに、毎日ヒゲを剃るのも面倒だし、ヒゲ脱毛をするのもありだなと少し考えてしまった。

「モテない」といった不安を煽る言葉に、僕らは敏感に反応してしまう。今回のタイトルにつけた「現代社会の闇」というネガティブなフレーズが気になって、この記事を読んでいる人も多いのではないだろうか。
(※この投稿はAERAの記事を転載したものです)

「不安ビジネス」という言葉がある。
「みんなやっている。やらないと損だ」といわれると焦りや不安を感じる。物にあふれている現代において、消費者にお金を使わせるために、不安を煽って需要を生み出す戦略がよく使われている。

投資や教育などの分野は、こうした不安ビジネスのターゲットにされやすい。「みんな投資していますよ」「みんな勉強していますよ」と言われると、つい気になってしまうものだ。

“子どもへの投資教育は、いつから始めればいいんですか?”

この手の質問を親御さんからよく受けるようになった。雑誌などの取材でもよく聞かれる。「投資」と「教育」も組み合わせた「投資教育」は、不安を煽るのにうってつけの言葉だ。

学校教育で始まった金融教育が、この「投資教育」に飲み込まれつつある。

本来の金融教育は、お金や金融の働きを理解して、自分の生活をよくするだけでなく、よりよい社会作りができるような行動を養う教育だ。自分の生活といっても、お金を増やすことだけでなく、病気への備えや人生設計、消費者教育など広範囲にわたる。

投資の話は金融教育の一部でしかないのに、不安に駆られた親たちは、「学校で投資を教えてもらえる」と期待しているし、私立の学校では、「投資を教えなければいけない」というプレッシャーを受けている。金融機関から送り込まれた講師に金融商品の説明をしてもらって、金融教育をした気になっている学校も少なくない。

僕自身も、金融教育の一環として学校などに呼ばれて、講演をすることがしばしばある。さすがに中高生にはいないが、大学生くらいになると「老後の不安」を口にする人が出てくる。彼らは口々に「投資を始めているんです」という。早く投資を始め、奨学金を返済するためにバイトに時間を使ったり節約したりしているそうだ。

投資を学んで、お金を増やすこと自体は決して悪いことではない。しかし、若い人たちにとっては、知識や能力、経験などを蓄えて「働いてお金を稼ぐ力」を増やすことの方が、将来お金を増やす近道だ(運用できる資産が数億円でもあるなら、投資の勉強をした方がいいかもしれないが)。

そのためにわざわざ奨学金を借りて大学に行っているのに、バイトや投資でお金を増やすことに時間を使っているのでは、本末転倒ではないだろうか。「お金を蓄えておけば、人生の選択肢が増える」と言われると正しそうに聞こえるが、目に見えるお金を蓄えることを優先するあまり、他の大事なもの(知識や経験、人間関係)を蓄えられなければ、選択肢は逆に減るかもしれない。そうならないために、広い意味の金融教育をしっかりと行うべきだろう。

先日、参加した朝日地球会議の収録で、金融教育の文脈で「若いうちから投資を始めることが必要だ」という識者に対して、苦言を呈したのはそのためだ。

そのときの内容は、10月28日12時から配信が開始される。そのタイトルもまた、「新NISA時代のサバイバル術 」という不安をあおるものなのだが。

(12月31日まで配信されているので、見たい方は以下のリンクからどうぞ)


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お金や経済の話はとっつきにくく難しいですよね。ここでは、身近な話から広げて、お金や経済、社会の仕組みなどについて書いていこうと思います。 …

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