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好きになれない新紙幣とGDP

受け取った紙幣からメガネのオヤジの顔が現れると、僕は少し不機嫌になってしまう。北里柴三郎に恨みがあるのではなく、新千円札がなかなか使えないのだ。

 キャッシュレス決済を心がけている僕は、現金を使うシチュエーションが限られていて、もっぱら使うのは時間貸駐車場を利用するとき。ところが、新紙幣に対応していない自動精算機がいまだに多く、使えなくて困っている。

 5年ほど前に新紙幣が導入されると決まったときに、経済が良くなるという報道がなされていた。

「新紙幣による1.6兆円の経済効果が、経済成長率を0.3%押し上げる」

 新紙幣に対応するには、駐車場の自動精算機だけでなく、銀行のATM、ジュースの自動販売機などの機械をすべて新しくしないといけない。その結果、機械を作る会社の売り上げは1.6兆円増える。その分だけGDP(国内総生産)が増え、経済成長につながるという話だ。

 一見正しそうだが、本当にいいことなのだろうか?

 この1.6兆円というお金は湧いて出るわけではなく、機械を新調する店や銀行が負担している。回り回って消費者も負担することになるだろう。1.6兆円というと、国民一人当たり1万3千円という計算になる。銀行の手数料として支払うのか、自販機のジュースが値上がりするのかわからないが、とにかく誰かが支払わされている。

 普通の買い物でお金を支払わされるのなら文句はない。千円の商品を買うときは、千円以上の価値があると思って支払っており、消費者である僕らはその金額に納得している。

 しかし、新紙幣の導入のように、半ば強制的に支払わされるコストについては、本当にその価値があると納得して支払っているわけではない。にもかかわらず、経済効果の数字が大きい方が良いことかのように報道されるのはいかがなものだろうか。

 別に新紙幣導入を否定しているわけではないが、GDPや経済効果という表面的な数字にだけ注目して、無駄な仕事や無駄な出費が強いられていることに気づかないことは多々ある。このままだと僕らはどんどん疲弊してしまう。

 労働力不足が深刻化していく日本においては、無駄な仕事は減らさないと立ち行かなくなる。表面的な数字に踊らされることなく、その経済活動によってどれだけ、僕たちの生活が豊かになっているのか、その中身を考えなければいけないだろう。

 8月15日に発表された4−6月期の実質GDPは年率換算で3.1%増加(季節調整値)。これは、生活が豊かになっていると思っていいのか、それとも無駄なお金を払わされているだけなのだろうか?

*こちらは、週刊誌AERAに連載している「経済のミカタ」第4回の内容を一部変えて、投稿していいます


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お金や経済の話はとっつきにくく難しいですよね。ここでは、身近な話から広げて、お金や経済、社会の仕組みなどについて書いていこうと思います。 …

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