さよなら福沢さん。新紙幣導入で変わること
「FLASHです。田内さんですよね?取材させてもらっていいですか」
思わず身構える。
FLASHといえば写真週刊誌。
何もやましいことをしていないはずだが、声がうわずった。
「はっ、はっ、はい。何でしょうか」
僕の緊張とは対照的に、電話の主は極めて落ち着いていた。
「新紙幣が導入されますよね。その影響についてお聞かせください」
写真週刊誌というとスキャンダルを扱うイメージが強いが(昨年末も、知人がスキャンダルでFLASH砲を浴びていた)、本来は情報誌である。
7月3日から新紙幣が流通し始めるが、商売をしている人たちから悲鳴があがっているので話を聞きたいということだった。
「だから言うたやん」
3年前に僕は警鐘を鳴らしていた。その記者さんは、むかし僕が書いた記事を読んで連絡してくれたそうだ。
オリンピックでもなんでも”お上”が決めたことを正当化するために、しばしばこの経済効果が計算される。
機械を売る会社にとっては、この特需によって1.6兆円の収入増だが、1.6兆円がふってわいてくるわけではない。
券売機を新しくするラーメン店だったり、ATMを買い替える銀行だったり、反対側に負担している人たちが存在する。その負担はまわりまわって、消費者が負担することになる。
大谷翔平がドジャーズに移籍することで800億円の経済効果があると言われており、こらもまた消費者が負担しているという点では同じだ。
しかし、この二つには大きな隔たりがある。大谷のドジャース移籍によって、1万円するドジャースのユニフォームを買う消費者は、その価格に納得している。ユニフォームを買うことに1万円以上の喜びがあるからお金を払うのだ。
それに対して、新紙幣への対応のための費用は半ば強制的な出費だ。券売機を一新するラーメン店はその費用の高さに悲鳴をあげている。
こういった経済効果を計算しているのは、”〇〇経済研究所”の人たちである。
https://www.dlri.co.jp/pdf/dlri/04-20/1906_4.pdf
(例として一つ挙げてみた)
こういったレポートの中では、”この特需で〇〇%経済成長率が上がる”と書かれており、まるで経済効果(費用)が多ければ多い方が良いような口ぶりだ。
彼らが経済音痴だと言いたいわけではない。
ここからわかるのは、こうした情報は企業や政府のために書かれているということだ。(政府は経済成長率が上がると評価される)
消費者である僕たちが、ニュースに接するときは、元の情報源が誰のために書かれたものであるかが非常に重要だと僕が思う所以である。
新紙幣導入で何が起きるのか
この新紙幣の経済効果の”罠”について、3年前はダイヤモンドオンラインで、昨年は東洋経済オンラインで書かせてもらった。
それを読まれた方々から、最近、相次いで取材を受けた。
FLASHのような雑誌だったり、大阪ABC の経済バラエティー「正義のミカタ」だったり、テレビ朝日「羽鳥慎一のモーニングショー」だったり。
ある意味、特需である。
そういう取材の中で、「新紙幣導入で何が起きるのか」とよく聞かれる。
「キャッシュレス化が進む」とか「タンス預金が炙り出される」とか言われるが、懐疑的に思っている。
お隣の韓国ではキャッシュレス決済が8割を超えたそうだが、これはクレジットカード対応が義務化されたり(ある程度の規模の小売店対象)、税的な優遇が受けられたりしたからだ。
中国でキャッシュレス決済が9割を超えているのも、決済手数料がめちゃくちゃ安いからだ。
なにかしら”お得感”がないと、すぐに導入しようとはならない。日本では決済手数料が2−3%かかるから、「ランチは現金のみ」と書かれている飲食店をしばしば見かける。
経済産業省はキャッシュレス化8割を目指しているから(現在は4割程度)、今後、何かしらの政策をすすめていくのだろう。
タンス預金についても、同じようにお得感がなければ炙り出されない。
銀行預金の金利がほぼゼロである以上、わざわざ銀行に持っていって預けようとは思わない。
脱税するためにタンス預金をしている人たちにとっては一定の効果はある。銀行で大量の現金を両替すれば、もちろん報告されるし、保有する旧紙幣のままで支払いをするのも目立ってしまう。
今回の新紙幣がどれくらい有効かはわからないが、いずれにしても、国としては現金の流れを追うことで不正なお金を取り締まろうとしていると考えていいだろう。
やましいことがなければ、身構える必要はない。
脱税が減って国の収入が増えることは、多くの人にとってはいいことなのだから。
ところで、新二千円札はどこにいったのだろう。新しくならないのだろうか?
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お金や経済の話はとっつきにくく難しいですよね。ここでは、身近な話から広げて、お金や経済、社会の仕組みなどについて書いていこうと思います。 …
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