サウナでととのうか、ととのわないか。
「ととのうことができるサウナ=いいサウナ」という考え方。この考え方だけでサウナが評価されているのを見ると、わたしはとても悲しい気持ちになってしまう。
Googleの口コミや、サウナ情報サイトでのレビュー。自分の好きなサウナを検索して見ているときに、「ここのサウナではととのいませんでした」といった内容の文章だけで低い星の評価にされているのを見るたびに、ため息をついてしまう。サウナって、ととのえば100点満点、ととのわなかったらダメなサウナってわけじゃないと思うんだよなあ。
そもそも「ととのう」とは
サウナに入ると味わえる感覚として、「ととのう(整う)」という表現がある。
いろいろな考え方があるとは思うけれど、よく言われているのは、サウナ→水風呂→外気浴(外の空気を浴びながら休む)のサイクルを数回繰り返すことで得られる感覚のことだ。
人それぞれ感じ方は違うのだろうけれど、ふわふわと浮いているような、ぐるぐると回るような、不思議な感覚になる。そしてそれが落ち着いたころには、頭がしゃきっと冴えわたっている。わたしはこの感覚のことだと思う。疲れがとれるし、頭がすっきりする。たしかにめちゃくちゃ気持ちがいい。あの感覚を味わいたくてサウナに入る、というのはとても分かる。
ととのうための絶対条件はない
本当に個人的な感覚ではあるけれど、わたしはサウナに行って、毎回ととのうことはない。しかも、ととのうときの体調や、サウナの温度、サウナの種類、滞在する時間。よくよく考えてみても一貫性がまったくない。
わたしは、自分がととのうための条件がまったくわからない。
サウナの評価として毎年発表される「サウナシュラン」で3年連続グランプリを受賞し殿堂入りとなった「御船山楽園ホテル らかんの湯」という、まじの日本一のサウナに行ったことがある。
長い夢を見ていたような、とにかく素晴らしいサウナ体験だった。けれど、深くととのうことはなかった。滞在中、夜と朝に数時間楽しんだのだけれど、完全にサウナハイになって、サウナの素晴らしさ、サービスの徹底ぶりに感動するあまり、胸いっぱいでととのうことができなかった。また行って落ち着いて入りたいもんです……
日本一のサウナでととのわないのに、ビジネスホテルの大浴場についているこじんまりとしたサウナでととのったことは何度もある。外気浴の場所もしっかりした椅子はなくて、浴槽の縁に腰かけてただけなのに、ととのったことは何度もある。
忙しく過ごして、めちゃくちゃ疲れて入るサウナだからって、絶対にととのうわけじゃない。疲れてても全然ととのわないこともあるし、ゆるゆるの休日に近所のスーパー銭湯でバキバキにととのうことがある。不思議だ。
ちなみに、わたしが人生でいちばんととのった経験をしたのは、金沢の「松の湯」で入ったサウナだった。
そんなに大きな施設ではなく、街の銭湯だった。数人しか入れないサウナで、外気浴もフラットな椅子があるわけではなかった。ただめちゃくちゃいい銭湯で、きれいだけど昔の雰囲気が残っていておしゃれ。スタッフの方も気さくで、街の人と観光客がごちゃまぜでみんな気持ちよく利用していた。
金沢旅行の最終日で、ホテルのガイドマップで見つけてふらりと立ち寄った銭湯だった。あまり時間もなくてバタバタと利用したのに、人生で一番ととのった。旅館の温泉で朝風呂に入って十分に癒されていたにも関わらず、ととのった。頭の中がぐわんぐわんになって(あぶない)落ち着いて目を開けると、視界がクリアで、色がいつもより多くて、頭では処理しきれない世界を見た。(あぶない)
つまり、サウナの種類も、体調も、滞在時間も、絶対にととのう条件というものはないのだ、とわたしは思う。
ととのうかどうかは運。ととのったらラッキー。
ということは、ととのうかどうかは運なのではないかと思う。自分でどうこうすることができない。そのときの運次第で、ととのったらラッキー。それだけ。ととのわなかったからって、そのサウナが悪いわけではないし、自分がサウナに向いていないってことでもない。
だから、サウナにあまり行かない人がたまに行ってみて、「ととのうって感じがよく分からなかった」と思ってサウナから足を遠ざけることもとても悲しい。ととのうかどうかなんて、そのときの運でしかない。
サウナで暑さを我慢して得られる水風呂での気持ちよさ。スマホを手放した環境での外気浴での澄んだ時間。大量の汗をかいたからこそのスキンケアの浸透度。そういうのをしっかり感じるだけで、サウナに行く意味って、あると思う。
いいサウナに出会うって、「ととのうかどうか」って基準じゃないと思いたい。落ち着いて過ごせるか。清潔で気持ちよく利用できるか。新しい体験ができるか。そんなふうに考えて、わたしにとってのいいサウナに出会いたい。
サウナを自然体で楽しんでいくなかで、たまに体がふわふわして、頭がぐわんぐわんになって、冴えわたることがあると思う。それがととのいで、それはラッキーだ。今日はラッキーだったなあ、と思って帰る。それだけでいいと思う。
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