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「終わりの町で鬼と踊れ」終
花の島は光に咲う 俺はひとりで、紗奈の体を担いで海辺を離れた。
山をのぼり、家の近くまで歩く。
力のない紗奈の細い体を、コスモスの群れに横たえた。
風と雨が頬を叩き、耳の奥をかき回していく。
やがて嵐は去り、雲が避けて、太陽が差し込んだ。凪いだ海の上を、草木の上を照らし出す。
花の群れの中、遮るものは何もない。穏やかな光は、血に汚れた紗奈の頬や額を焼いた。
そして少女は、灰になっ
「終わりの町で鬼と踊れ」13話
そして得たもの 爆発に、近くの家も吸血鬼どもも吹き飛んだ。立っていたものは誰も彼もなぎ倒された。
炎はいつまでもめらめらと燃えて消えない。
奴の体の破片が散らかってる。黒いコートの跡形もない。
――ざまあみろ。
思ってみたけど、全然うれしくなかった。ずっと殺してやりたいと思ってた父さんの敵を討っても、全然うれしくない。
達成感もない。
残った吸血鬼どもは、もうあと数人。こちらの方
「終わりの町で鬼と踊れ」12話
絶望するにはまだ早い 俺は隠れ家に隠してた包丁やらカセットコンロやら、粉末を詰め込んだペットボトルを取り出して、リュックに詰め込んだ。
また亨悟を自転車の荷台に乗せて、ひたすら漕ぐ。紗奈はさっきと同じように俺の横を走っている。
日は昇ったが、空を覆う雲がどんどん分厚くなって、ソーラー自転車は役に立たない。しかも潮風が強くて、全然進まない。ただひたすらもどかしかった。
俺は一昨日の天神から
「終わりの町で鬼と踊れ」11話
生への執着と欲望 俺はひたすらソーラー自転車を漕ぐ。
風が強くて思うように進めない。空は白んできたが、曇天のせいで太陽光はあてにできない。
紗奈はパドルを肩に担いで、走ってついてくる。
「いつまでついてくる気だ」
「そいつを安全なところに避難させるまでだ」
福大病院でのあいつの言葉が引っかかって、すぐにでも島に向かいたい。でも、紗奈も亨悟もつれていけない。
どこかで亨悟の応急処置をするに
「終わりの町で鬼と踊れ」10話
運者生存 しばらくして人間が駆けてきて、史仁を見て一瞬絶句する。傷口を押さえる榛真と慌てて交代した。
後から来た人々が、史仁を抱え上げてどこかへ連れて行く。杏樹は運ばれていく史仁の後ろから、少し離れてついていく。
「おい、なんかあったのか」
上から降りてきた亨悟が、腰の引けた様子で慌ただしい様子を見送った。
榛真は血まみれの手を服でぬぐい、亨悟をちらっとみて、立ち上がる。
「逃げるぞ」
「終わりの町で鬼と踊れ」9話-2
静まりかえっていた居住スペースから悲鳴が上がる。子供の泣き声がする。
あたしはエスカレーターの手すりを掴むと、勢いをつけて駆け上がった。
どこかの部屋がやられたようだった。また外からか。
さっき史仁がロケットランチャーを使っていた奴を倒したはずだが、武器を破壊しないとダメか。
下階から喊声が聞こえる。あちらこちらからこだましてきた。
――いつの間にか、中にまで侵入されている。
「
「終わりの町で鬼と踊れ」9話-1
闇は嗤い哭く まるで高いところから落ちるような感覚にビクリとして、あたしは目を覚ました。
あたりは暗い。
天井がある。背中の下が柔らかい。どこかの家の中だ。
考えてから、ここが病院の一室だと思い出した。
暑くなんかないのに、汗をぐっしょりかいていた。
荒く息を繰り返す。
部屋の中は決して狭くはないが、息が詰まる。
闇が迫ってくるようでずっしりとしたカーテンも重苦しい。
あた
「終わりの町で鬼と踊れ」8話
夕闇の記憶 杏樹と史仁が去って、あたしたちは狭い部屋に取り残された。外は曇天の上に暗い色のカーテンが閉めきられて、部屋は薄暗い。
緊張が少しゆるんで、どっと体が重くなった。
ただでさえ血が足りていないのに、出血しすぎたかもしれない。
傷を負ってもすぐに治るかわり、体が無理をしているのが感じられるくらい、だるくなっている。パドルを杖かわりにしてなんとか体を支える。
外からざわざわと声が聞
「終わりの町で鬼と踊れ」7話
少女に暗転する牙 夕闇の薄暗い部屋の中で、肩に食い込む手。
あたしは骨が折れそうなほどの力で、床に押さえつけられていた。どれだけもがいても、少しも動けなかった。
圧倒的な力に蹂躙される恐怖。
見下ろしてくる男と目が合う。ゼエゼエと息をしながら、そいつは青白い顔であたしを見ていた。
開けた口から鋭い犬歯がのぞく。
時折あの恐怖が蘇る。
※
榛真《はるま》がバイクをふかすと同時
「終わりの町で鬼と踊れ」6話
木陰に鬼は潜み 素手で車を止めたのは、少年だった。
黒とグレーのチェックの大きなストールを、頭からぐるぐると巻いている。黒いケープコートを着ているから、ほんとに影のようだ。黒縁の眼鏡をかけた少年。
突進したトラクターの爆音が消えた。
残っているのは、和基と言われた奴が乗ってきたセダンと、トラクターがもう一台、それから亨悟を掴まえているバイクの奴。
男たちの呻く声がする。
いやな風が吹
「終わりの町で鬼と踊れ」5話
ニワトリの恩 地響きが聞こえた。石炭の焼ける臭いが漂ってくる。ヤバイ。
「隠れろ」
黒煙が流れてきて、俺たちは慌てて床に伏せた。
コーヒーのカップが床に転がる。
プラスチックの床がガタガタと音を立てて、池の上でボートはかしぎ、スワンの首が波に大きく左右に揺れる。ざぶざぶと波をたてる。
ひやりとしたが、バイクの爆音にかき消された。
音が近づいてきて、公園の近くに止まった。車は侵入でき
「終わりの町で鬼と踊れ」4話
スワンボートと鯉 渡船場に行くと、腰に日本刀を帯びて、仁王立ちで渡船場にいたおっさんが、俺を見つけるなり言った。
「お前もふらふらしてないで、自警団に加わってちゃんと島を守れ」
相変わらず、言うことはいつも一緒だ。
「俺は俺のやり方で守ってるよ、情報持って来てやっただろ」
昨日西見さんに言った話は、自治会にも自警団に伝わっているはずだ。
「地下鉄沿線づたいに伝令してやるよ。ありがたいだろ」
「終わりの町で鬼と踊れ」3話-2
花の島は銃器が守り 次の日の朝早く、七穂がいないのに気がついて、俺は家を出た。
俺たちの家は、元はアイランドパークという名で運営されていた公園の中にある。渡船場からは少し遠い、山の上だ。
昔は花やバーベキューや貸別荘なんかを目当てに街から人が来ていたらしい。
俺の両親は島の人間じゃなかったから、かつて貸別荘として使われていた建物に住んでいる。
外から来た他の人たちは、山の中に自分たちで家
「終わりの町で鬼と踊れ」3話-1
花の島は銃器が守り 俺はまた海近くの大通りを自転車で突き進む。
中央分離帯の植え込みがアスファルトを持ちあげてぼこぼこだ。それをよけながら、道路のど真ん中を、ソーラー自転車で走っている。
ぽつりと建つ福岡タワーが遠目にある。総合図書館にも立ち寄りたかったが、今はそれどころではない。
ああいう大きな建物はやはり危険だし、今はそれよりも先を急ぐ。
室見川の河口近く、愛宕大橋にさしかかると、
「終わりの町で鬼と踊れ」2話
潮風に船は錆び 俺は息を切らしながら、長浜の漁港に辿り着いた。
まいた気はするが、地響きのようなエンジンの音がまだ聞こえている。油断はできない。
遮るもののない海の近くは、吸血鬼の心配は減るが、人間には関係ない。
海には漁船がたくさん浮いている。
ここに浮かぶ船も、ひっくり返った船も、放置されてそろそろ二十年くらい。とんがった船首を並べているどれも、塗装は剥がれ、潮風に錆ついて、ぼろぼろ
「終わりの町で鬼と踊れ」
あらすじ世界をパンデミックが襲い多くの人間が死んだ。
感染した者は吸血鬼のように血を求め、人間は武装し抵抗している。町には掠奪者だらけだ。吸血鬼、炭鉱の奴ら、偽善者たち。
福岡市天神。栄えていた町も廃墟になった。榛真は故郷の能古島で静かに暮らしている母親と妹のため、島を守ろうと奔走していた。そして父親を殺した吸血鬼を探している。
吸血鬼と武装した炭鉱ヤクザに襲われ、見知らぬ少女に救われる。