本と映画とゲームが好きです。 小説を書くのが好きです。 WEBではだいたい御桜真名義で、 商業・同人では作楽シン名義で活動をしています。 さらに別名義でライターをしています。 現在2歳の子どもを育てているワーママです。 文章のお仕事はいつでも募集中です。 ◆好きなジャンルファンタジーや時代物作品が好きです。特に得意は和風ファンタジーです。バトル描写満載の現代ファンタジーも好きです。 カッコイイ女の人が出てくる作品は特に好きです。 選考の評論で、選考員の先生からバトル描写をほ
花の島は光に咲う 俺はひとりで、紗奈の体を担いで海辺を離れた。 山をのぼり、家の近くまで歩く。 力のない紗奈の細い体を、コスモスの群れに横たえた。 風と雨が頬を叩き、耳の奥をかき回していく。 やがて嵐は去り、雲が避けて、太陽が差し込んだ。凪いだ海の上を、草木の上を照らし出す。 花の群れの中、遮るものは何もない。穏やかな光は、血に汚れた紗奈の頬や額を焼いた。 そして少女は、灰になって消えた。 伝説の吸血鬼みたいに。 島のみんなが、死んでしまった人の遺体を
そして得たもの 爆発に、近くの家も吸血鬼どもも吹き飛んだ。立っていたものは誰も彼もなぎ倒された。 炎はいつまでもめらめらと燃えて消えない。 奴の体の破片が散らかってる。黒いコートの跡形もない。 ――ざまあみろ。 思ってみたけど、全然うれしくなかった。ずっと殺してやりたいと思ってた父さんの敵を討っても、全然うれしくない。 達成感もない。 残った吸血鬼どもは、もうあと数人。こちらの方がずっと数が多い。今は空が吹き荒れてるし、いずれまた夜も来るだろうけど、ここは島
絶望するにはまだ早い 俺は隠れ家に隠してた包丁やらカセットコンロやら、粉末を詰め込んだペットボトルを取り出して、リュックに詰め込んだ。 また亨悟を自転車の荷台に乗せて、ひたすら漕ぐ。紗奈はさっきと同じように俺の横を走っている。 日は昇ったが、空を覆う雲がどんどん分厚くなって、ソーラー自転車は役に立たない。しかも潮風が強くて、全然進まない。ただひたすらもどかしかった。 俺は一昨日の天神からの戻りと同じように、また愛宕大橋を進む。だけど空が澄んでいたあの時と違って、暗雲
生への執着と欲望 俺はひたすらソーラー自転車を漕ぐ。 風が強くて思うように進めない。空は白んできたが、曇天のせいで太陽光はあてにできない。 紗奈はパドルを肩に担いで、走ってついてくる。 「いつまでついてくる気だ」 「そいつを安全なところに避難させるまでだ」 福大病院でのあいつの言葉が引っかかって、すぐにでも島に向かいたい。でも、紗奈も亨悟もつれていけない。 どこかで亨悟の応急処置をするにしても、ゆっくり休ませてやらないといけない。だが、安全な場所なんてない。 ―
運者生存 しばらくして人間が駆けてきて、史仁を見て一瞬絶句する。傷口を押さえる榛真と慌てて交代した。 後から来た人々が、史仁を抱え上げてどこかへ連れて行く。杏樹は運ばれていく史仁の後ろから、少し離れてついていく。 「おい、なんかあったのか」 上から降りてきた亨悟が、腰の引けた様子で慌ただしい様子を見送った。 榛真は血まみれの手を服でぬぐい、亨悟をちらっとみて、立ち上がる。 「逃げるぞ」 ぶっきらぼうに言った。 まだ数人、この場を守るために残った吸血鬼たちはいるが
静まりかえっていた居住スペースから悲鳴が上がる。子供の泣き声がする。 あたしはエスカレーターの手すりを掴むと、勢いをつけて駆け上がった。 どこかの部屋がやられたようだった。また外からか。 さっき史仁がロケットランチャーを使っていた奴を倒したはずだが、武器を破壊しないとダメか。 下階から喊声が聞こえる。あちらこちらからこだましてきた。 ――いつの間にか、中にまで侵入されている。 「食料を奪え。使えそうな奴を見つけたら連れて行け!」 指示をする声に、また喚声が
闇は嗤い哭く まるで高いところから落ちるような感覚にビクリとして、あたしは目を覚ました。 あたりは暗い。 天井がある。背中の下が柔らかい。どこかの家の中だ。 考えてから、ここが病院の一室だと思い出した。 暑くなんかないのに、汗をぐっしょりかいていた。 荒く息を繰り返す。 部屋の中は決して狭くはないが、息が詰まる。 闇が迫ってくるようでずっしりとしたカーテンも重苦しい。 あたしは大きくひとつ深呼吸をしてから、ベッドから起き上がった。ポンチョのフードを深く
夕闇の記憶 杏樹と史仁が去って、あたしたちは狭い部屋に取り残された。外は曇天の上に暗い色のカーテンが閉めきられて、部屋は薄暗い。 緊張が少しゆるんで、どっと体が重くなった。 ただでさえ血が足りていないのに、出血しすぎたかもしれない。 傷を負ってもすぐに治るかわり、体が無理をしているのが感じられるくらい、だるくなっている。パドルを杖かわりにしてなんとか体を支える。 外からざわざわと声が聞こえて、あたしは窓辺に寄った。 フードを深くかぶる。曇天とはいえ日光に気をつけ
少女に暗転する牙 夕闇の薄暗い部屋の中で、肩に食い込む手。 あたしは骨が折れそうなほどの力で、床に押さえつけられていた。どれだけもがいても、少しも動けなかった。 圧倒的な力に蹂躙される恐怖。 見下ろしてくる男と目が合う。ゼエゼエと息をしながら、そいつは青白い顔であたしを見ていた。 開けた口から鋭い犬歯がのぞく。 時折あの恐怖が蘇る。 ※ 榛真《はるま》がバイクをふかすと同時、黒煙がふきあげて、あたしとにらみ合っていた吸血鬼が思わずのようにパドルを離した
木陰に鬼は潜み 素手で車を止めたのは、少年だった。 黒とグレーのチェックの大きなストールを、頭からぐるぐると巻いている。黒いケープコートを着ているから、ほんとに影のようだ。黒縁の眼鏡をかけた少年。 突進したトラクターの爆音が消えた。 残っているのは、和基と言われた奴が乗ってきたセダンと、トラクターがもう一台、それから亨悟を掴まえているバイクの奴。 男たちの呻く声がする。 いやな風が吹いている。ざわざわとけやきが揺れる。 通りの先のけやきの木陰に、ちらほらと人
ニワトリの恩 地響きが聞こえた。石炭の焼ける臭いが漂ってくる。ヤバイ。 「隠れろ」 黒煙が流れてきて、俺たちは慌てて床に伏せた。 コーヒーのカップが床に転がる。 プラスチックの床がガタガタと音を立てて、池の上でボートはかしぎ、スワンの首が波に大きく左右に揺れる。ざぶざぶと波をたてる。 ひやりとしたが、バイクの爆音にかき消された。 音が近づいてきて、公園の近くに止まった。車は侵入できない。 俺はおにぎりを口に押し込み、水筒をリュックに押し込んで、ボートの入口
スワンボートと鯉 渡船場に行くと、腰に日本刀を帯びて、仁王立ちで渡船場にいたおっさんが、俺を見つけるなり言った。 「お前もふらふらしてないで、自警団に加わってちゃんと島を守れ」 相変わらず、言うことはいつも一緒だ。 「俺は俺のやり方で守ってるよ、情報持って来てやっただろ」 昨日西見さんに言った話は、自治会にも自警団に伝わっているはずだ。 「地下鉄沿線づたいに伝令してやるよ。ありがたいだろ」 亨悟みたいにへらっと笑って受け流す。めんどくさい。 さっさと逃げ出すに限
花の島は銃器が守り 次の日の朝早く、七穂がいないのに気がついて、俺は家を出た。 俺たちの家は、元はアイランドパークという名で運営されていた公園の中にある。渡船場からは少し遠い、山の上だ。 昔は花やバーベキューや貸別荘なんかを目当てに街から人が来ていたらしい。 俺の両親は島の人間じゃなかったから、かつて貸別荘として使われていた建物に住んでいる。 外から来た他の人たちは、山の中に自分たちで家を作ったり、キャンプ場のコテージに肩を寄せて生活していたりするから、これはやっぱ
花の島は銃器が守り 俺はまた海近くの大通りを自転車で突き進む。 中央分離帯の植え込みがアスファルトを持ちあげてぼこぼこだ。それをよけながら、道路のど真ん中を、ソーラー自転車で走っている。 ぽつりと建つ福岡タワーが遠目にある。総合図書館にも立ち寄りたかったが、今はそれどころではない。 ああいう大きな建物はやはり危険だし、今はそれよりも先を急ぐ。 室見川の河口近く、愛宕大橋にさしかかると、海の上を通る都市高速が横目に見える。道路が落ちて、橋げただけが海の中に突っ立って
潮風に船は錆び 俺は息を切らしながら、長浜の漁港に辿り着いた。 まいた気はするが、地響きのようなエンジンの音がまだ聞こえている。油断はできない。 遮るもののない海の近くは、吸血鬼の心配は減るが、人間には関係ない。 海には漁船がたくさん浮いている。 ここに浮かぶ船も、ひっくり返った船も、放置されてそろそろ二十年くらい。とんがった船首を並べているどれも、塗装は剥がれ、潮風に錆ついて、ぼろぼろだった。 イカ釣り漁船の、ずらりとぶらさげられたランプの半分くらいが割れてい