優しさに殺される世界…ハーモニー感想
伊藤計劃の人気作にハーモニーというのがあります。
みんな知ってる人が多いかも。
もともとSF小説で、映画にもなって、漫画にもなった。
前に地獄について引用した、虐殺器官の次の作品です。
これもカルト的人気が出ました。
そこから、地獄についての言葉を引用します。
……前にいた場所は、地獄だった。だから逃れてきた。
でもここも十分狂っていた。優しさに殺される世界……。
ハーモニーは未来の話。
世界中が大災厄という大混乱に陥って内乱が続いたあとに生まれた高度生命主義社会の話。
生命の尊重と他人への優しさが最も重視される社会で、マイクロマシンによって病気が世の中からほぼ消え去り、皆が互いに優しく気を使って生きている穏やかな世界。
すごくいい社会に見える。実際、いい世界。でも実は、優しさで互いを監視する社会。みんな標準体重以内でなければならず、デフも痩せも許されない、健康に気を使い、肌荒れや傷んだ髪も許されない。自分の気持ちも全部他人にさらけ出さないといけない。他人の気持ちも受け止めなければならない。そんなことが嫌でも、許されない、だから、自由なようでいて、自由じゃない。優しくあるために、健康にあるために、プライベートが捨てられる。みんなはみんなのため、社会のためにある。
そのための設備も制度も整っているから、簡単、困らない。気にしなければ、素晴らしい世界。
じゃあ、それが合わない人は?気にする人は?
居場所がない。
優しさに絞め殺される地獄。
そこから逃げ出したくて仕方がないのが、主人公たちの女の子、トアン、ミアハ、キアン。
この優しい社会は、健康管理オンラインシステムのメディケアで、人類の身体情報をリアルタイムに管理することで成立している。
ここでもまた、作者伊藤計劃の、肉体へのこだわりがある。
健康甘の名のもとに人類すべての肉体がデータ化され管理される。そして、精神の自由が奪われる。
このシステムに反旗を翻す方法ありはない。じゃあ、どうする?
苦しみの元の精神を消し去ろう。人の意識が消えれば、悩むことも苦しむこともない。
それを可能にするのが、実はメディケアを利用したハーモニーシステム。
マイクロマシンが人間の脳を操作して、システムと一致させる。肉体と精神の差異が消える。健康になんの疑問なく優しく健康
に人間は生きていく。
これって、天国、それとも地獄?