失恋ラブレター

恋が終わるたびに私は、相手への気持ちやら自分の感情やら、思い出やらを文字に綴る。

’友達’という名の鈍器で殴打され、終止符を打った今回の恋は、2年半ただ食事をして、ただ散歩をして、ただ日常を共有した。
手をつないで走ったこともあったな。なんか、忘れたけど。
出会いはなんだったっけ?酔っていた私にお水をくれたんだ。覚えてないけど。

お酒とベッドには無縁故に、今時味わうのが難しいくらい純度が高くて、じわりじわりと喉を焼かれていた。
毎回刻まれるのはまぶしい太陽の色と、言葉にならないものたりなさ。

桜並木にあるパン屋さんの屋上でポカポカの日差しを浴びながら、春になったらピクニックしたいねって話したことは鮮明に思い出せる。
色素の薄い彼の髪の毛が、秋の日差しに照らされてきらきらまぶしかった。
マスク生活の中で、彼は髭を伸ばしていた。髭も茶色いんだなあ。
食べていた焼き立てのクロワッサンが、笑い声とともにパラパラと砕けて零れ落ちた。
彼がそんな私を見て笑いながら写真を撮ってた。
彼はよく、私の写真を撮った。
長い髪がすきだと言ったから、私は髪を伸ばしたんだった。
天気が良くて暖かい、最後のデート日和だった。そのうち忘れるのかな。

そんなこんなで書き始めたラブレター。

気晴らしに高級ホテルに行って、高層階から浜離宮を臨む。
曇ってるな。見透かされている気がした。
アメニティのお抹茶を立てる気にもならず、バルコニーの椅子が雨で濡れてるのをぼんやりと眺めていた。
書いては消して、書き直して、心が色んな感情でいっぱいなはずなのになんだこの虚無感。
アップグレードされてしまった広すぎる部屋に、ひとり。
今日みたく雨ならきっと泣けてた?


移動しよう。
いつもは混んでいるはずの店内は、外が見渡せるお気に入りの席が空いていた。
ちっとも心がやすまらないからカモミールティ。
甘いのすきじゃないから、シロップを減らしたティーラテにした。
甘かった。目測を誤った。やっぱりちっとも心がやすまらない。

消しては書いて、直して直して。泣けない。目の前にはロンアラッドのエバーグリーン?
雨が止んでいる。ただ、虚無感。
ピンクでふわふわのアウターを着るときは、笑顔でいたいのにな。
捗らないなあ、この気持ちをはやく昇華したい。

泣くか。

帰って、いつもの泣ける映画。絶対に泣きたいときに観る。前に見たのは何年前?

原作は真っ赤な表紙に白くてソリッドなカタカナ。

まだ寒さの残る令和の東京で、熱帯の昭和のバンコクに愛を観る。
前回旅行したときに、ロケ地巡りしとくんだったな。

観るたびに、心に残る感情が変わる。
でもいつも、最後の詩の朗読で泣くんだ。

サヨナラがやってきて、コンニチワがやってくる。

戻ってきた日常はこんなにも空虚だったかと思い出してみるけれど、もともと開いていた穴に彼がもぐりこんで、私が幸福とか綺麗なもので埋めていただけ。
これが日常だったはず。当たり前を、思い出せなくなってる。

ラブレター、書き終えるだろうか。
渡さないでそっと消えることを3日後の誕生日プレゼントにするね。

恋じゃなくて愛だったかも。



#忘れられない恋物語





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