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言葉の実験室

言葉はとても便利なツールです。しかし、言葉そのものに囚われすぎてはいけません。

言葉は物事を伝える際に便宜上使われる喩えでしかなく、物事の実態を正確に映し取ったものではないのです。


例えば「りんご」という言葉の中に、りんごの味や色、形や質感が含まれているわけではありません。

「りんご」とは、それら全ての要素を圧縮変換した、解像度が低い情報なのです。

しかし、「りんご」という言葉の中に意味や印象は圧縮されているため、「りんご」という言葉から、「赤くて美味しい果物」などのイメージを瞬時に思い浮かべることができるようになっています。



さて、「赤くて美味しい果物」という言葉は、「赤い外装で覆われた、味覚を刺激する球状の食品」と表現することもできます。

どちらも同じ「りんご」を表現した言葉ですが、受け取る印象はかなり違うのではないでしょうか。


このように、言葉とは同じものを説明しようとしても、表現の仕方でイメージや印象が大きく変わってしまうものなのです。


全ての言葉が、この原理でできています。

「口」「顔に開いた開閉式の穴」と表現することもできます。

それならば、「りんごを食べる」ことも、「赤い外装で覆われた物体を、顔に開いた開閉式の穴の中に放り込む」と表現することもできます。

しかし、そのように表現すると、もはやりんごの話も人の話もしていないような文章になってしまいます。


このように、全ての言葉は曖昧であり、喩え話のように便宜上使われているものなのです。

ですので、矛盾するような情報や意見があった時に、どちらかが間違っていると安易に決めつけてはいけません。

どちらも真実の一部かもしれませんし、喩えの過程で歪んでしまった情報なのかもしれません。

文字の形や、文章の形式、発される言葉のリズムや音程によって、元の情報は加工されてしまうのです。

言葉とは、人間によって加工された世界の断片です。


さて、

「りんご」「アップル」では、どちらのほうが美味しそうでしょうか?

言葉は私たちが物を食べる時の、味覚にも影響を与えています。

「コーヒー牛乳」「カフェオレ」「ミルクコーヒー」では、それぞれ、味がなんとなく違いそうではないですか。

言葉は印象の調味料なのです。

食べ物は、言葉によっても味付けされているのです。



最後に、

言葉は、意味やイメージといった形のない情報を、耳や目で知覚できるようにするための容器です。

容器があることで、私たちは自分の中にある意味やイメージを、相手に渡すことができます。

それは、コップがあることで水を運べるようなものです。


容器とは、触れないものを運ぶための便利なツールです。

そして容器には、もう一つの性質があります。

中身の印象を変えるという性質です。


たとえば、包装紙で包まれたプレゼントは、ビニール袋に入れられた商品よりも魅力的ではないでしょうか。

ペットボトルで飲むコーラと、瓶で飲むコーラの味わいは何故だか違います。

このように、容器には中身の印象を変える効果もあります。

同じように言葉も、表現の仕方によって、中身の印象を変えてしまいます。

ですので、言葉はとても便利なツールではありますが、同時にとても曖昧なものでもあるのです。


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