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22歳初日、日光旅行記

計画は2年前から始まっていた。
毎年、1年で1番嫌いな日である自分の誕生日は大なり小なりなんでも良いのでなにか"はじめてのこと"をしようと決めている。
2年前、はじめての一人焼肉をした帰りに『そういえば再来年は誕生日、土日だなあ』とふと思い立ってしまったのだ。
その時点で22歳の誕生日のはじめては決まった。

—はじめての一人旅をしよう


行き先が決まったのは誕生日の2日前だった。
金欠により泊まりの選択肢が無くなったことで、近場に絞られた一人旅の行き先決めは、自分の近場の観光地への無知さによって難航していた。
面倒で考えてなかったともいう。
昼過ぎなのに布団でぬくぬくと寝転びながらYouTubeを見ていた時、小さな画面の中に広がる自然の風景にふいに引きこまれた。
『これだ、この風景が見たいかもしれない』
温泉地や美術館や食べたいものばかりを調べていた私では出せなかった答えが12分の動画にあったのだ。

けれども登山は全くしたくない
好きな格好で過ごしたいから、いかにもキャンプが趣味だと言わんばかりのアウトドア用の服は嫌だ
荷物も少ない方が良い なんならちっさいショルダーバッグだけが良い
それでも山は感じたい ついでに美味しいもの食べたい

以上の条件を満たす自然のある場所を、関東近郊で探そうと検索してみた。
答えは🔍 関東 自然 日帰り の検索ワードですぐに出てきた。
"華厳の滝"
2回目のこれだ!だった。
華厳の滝といえば、栃木県の日本三代名瀑のひとつ しかも秋の華厳は紅葉が綺麗だという漠然とした情報を基にすぐに行き方をリサーチ
さらに、布団で1日過ごすと意気込んでいたのに突然着替えてドンキホーテに走り、写ルンですを買った。
準備は万端 当日をルンルンで待った。


誕生日当日

22歳になり、母親からLINEのバースデーカードで皮肉られた7時間後の午前8時に起床
この時点で予定時刻よりもかなり寝坊していた。
普段もったいなくて使わないちょっと伸びがいいファンデーションを使ってバッチリ化粧をしたら、いざ出発
始まったはじめての一人旅に心どころか体も普通に踊っていた。(好きなアイドルの新曲で)

華厳の滝最寄駅の東武日光駅までの道のりを調べた時、表示された一覧の中で1番短い所要時間は4時間18分
私はその中でも1番長い4時間58分かかるルートで移動した。
なぜなら1番交通費が安かったから
40分の差で2倍も料金が違ったのだ。

最寄駅から横浜で1度目の乗り換えを終えた後、1時間半ほど電車に揺られた。
車窓からどんどん遠ざかる都会を見ていたらいつのまにか寝ていた。起きたら40分が経っていたのにまだまだ着きそうにない。日光までの遠さをよくわかっていなかったのだ。
それでもワクワクは止まらなかった。
思えばスマホばかり見て車窓から景色を眺めることなんてほとんど皆無だったなあなどと、もっともらしいことを思っていた。

栗橋駅で東武日光線へ乗り換え

栗橋駅にて22歳最初の写真 撮った意図は謎


電車でずっと音楽を聴いていたため、充電がほとんどなかった。
ちょうど乗り換え改札に日頃から恩恵を受けているcharge spotが設置されているのが見えた。
こういう時寝起きで寝ぼけていたくせに頭は動く。動かなくても良いのに
日光って観光地だし、charge spotもっとたくさんあるでしょ!
あまりに楽観的な思考が頭に浮かんだせいで結局借りなかった。

東武日光線は想像以上に国際色豊かだった。
乗客は2人組や3人組が多く、7割ほどの混み具合だった。そこかしこから英語や中国語や韓国語が聞こえてきた。
1番隅を悠々と陣取り、本を読みながら時折車窓を見る時間が続いた。
電車がどんどん山に入って行くのが面白くて3度ほど写ルンですのシャッターを切った。

21駅分電車に揺られて13時過ぎに東武日光駅に着いた。

電車から降りてすぐ東武日光駅ホーム内の木

改札脇の待合は団体バス客で混雑しており、喧騒の中をまずはcharge spot目指して歩いた。
しかしどこを見ても借りられる充電器がない。
日光旅行を終えた今、強く主張したい。
日光駅付近にcharge spot増やしてくれ
1番近い借りられるcharge spotは日光東照宮の近くの上島珈琲店 歩き始めたものの残量2%の重度方向音痴患者には厳しい距離だった。
途中で揚げ湯葉まんじゅうを買って歩きながら食べた。餡子の甘さと少しの塩味が非常に美味しい。
日光参り帰りのおばさま達や地元の小学生とすれ違いながら、上島珈琲店を目指す。
充電器だけ借りて失礼じゃなかろうか なにかワンドリンク頼んだ方がいいかな
ぽかぽか陽気に反して心はどんどん不安になってきて、坂道が想像以上に急傾斜に思えた。
2%から減らない充電 いつ1%になるか怖くて自分も現代人の1人なのだと実感させられた。
結局、上島珈琲店は断念し、もう一度駅に戻って電車で下今市駅まで戻り、借りることにした。
決めた途端に軽くなる心 それまでぐんぐん上っていた坂道を小走りで下った。
下今市駅へ向かう為に乗った電車は、何かが軋む音が出る電車だった。
静かな車内だったら、充電がなくなる恐怖と相まって不安になっていたように思う。
しかし東照宮帰りの5人組マダム達が大声で世間話をするおかげで不安ではなかった。
マダム達は7時に日光に辿り着いたようだった。
まだなにも観光していない自分とは大違いである。
美味しいランチを食べて、家族へのお土産を買って、ちょっとしたハプニングも起こりながらグループでの旅行を満喫していた。
その様子に憶えた眩しさも、下今市駅に着いた途端に無くなる。一刻も早く充電器を探さなければならない。
下今市駅のcharge spotも残り1つだった。
走って改札を出て残りの1つを獲得し、そのまますぐに東武日光駅へトンボ帰りした。


東武日光駅へ再度辿り着いた時、すでに14時近くになっており、早々に東照宮は諦めた。
華厳の滝へ行くバス乗り場でバスを待ち、乗車
バスはいろは坂を蛇行しながら山をどんどん登っていく。
バスを降りたら、山の上ということもあり、ジャケット1枚では耐え難い寒さだった。よくよく見れば老若男女周りはみんなダウンコートを着ている。
天気アプリを開いたら仰天


2℃だった。
頭を抱えたものの、無いものはしょうがない。
バス乗り場から華厳の滝までにはたくさんの路面商店があった。まだ日も高く、お腹が空いていた私は滝見たらどれかに入ってお蕎麦を食べようと決意していた。

滝へは迷わずにすんなりと着いた。
事前に調べた際、無料で入れる展望台と有料のエレベーターを下った展望台の2種類あるという情報を得ていて、とりあえず無料の展望台から見て物足りなかったらお金払おうと考えていた。
いざ着くと無料展望台がどこにあるかわからない。
どうやら大多数はエレベーターを使うらしく、チケット売り場には行列ができていた。
無料展望台を探していたのは、私と1組の家族連れだけで、どちらも早々に諦めて列に加わった。
エレベーターチケットを買い、エレベーターに乗る。階数ではなく、地下何mか表示されるエレベーターにセンターオブジアースに乗る時を思い出しながら揺られた。
エレベーターの最深部まで辿り着くと、無機質なトンネルがあり、向こうのほうから人の声が聞こえてくる。
近づくにつれ水の音も聞こえだし、その音に比例するようにワクワクしてきていた。

いよいよ滝とご対面だ。
トンネルの外に出た途端、ありえない寒さが襲ってきたけれど、滝の前ではどうでも良かった。
雄大な自然だった絶景だったとは言えない。水量は少なめだった。
それでも滝しか頭になかった。
何度も写ルンですのシャッターを押した。

何枚か滝の写真や岩肌の写真を撮った後、一歩引いて人間観察をしてみると、滝の水量に対して皆不満なようだった。
「前来た時、もっと凄かった気がする」「前は水飛沫が飛んできた」
調べるとどうやら滝の下流に水力発電所があり、人工的に滝の水量を調整しているらしかった。
なんとなくその事実でモヤモヤしていたが、ふいに一眼レフで何度も滝を撮る1人の外国人女性が目に入った。 スマホで撮ればいいのになぜか一眼レフで滝と自撮りをしていた。可愛いなあと思いながら、10分ほど滝を眺めた。
眺めている間は何も考えなかった。22歳になって人生失敗してるんじゃないかと考えていた昨夜が嘘のようにクリアだった。

写ルンですの残り枚数が8枚になって滝を離れた。
無機質に思えたトンネルもなんだか晴れ晴れしい気持ちで歩いた。
エレベーターを出ると、近くですいとんを売っていた。寒すぎて温かいものが食べたくて一杯買った。
みんな同じ思考だったから、石油ストーブの周りのテーブル席は全部埋まっていた。寒空の下でベンチに座って食べた。

食べたすいとん


初めて食べたすいとんは餅はあんまり入ってなくて、キノコが多かった。本当はそんなにキノコ好きじゃ無いけど、温かくて無心で食べた。
食べてる途中に雪が降り出した。
しんしんと降っていた雪はすぐに霰に変わってパラパラうるさかった。
寒すぎて避難しようと思うものの、帰りに入ろうと思っていた路面商店は軒並み営業終了しており、バスを25分待つことを余儀なくされた。
25分が本当に永遠のように思えた。イヤホンから流れてくるBUMP OF CHICKENに意識を集中させるしか出来ることがなかった。
バスに乗ったらあまりの暖かさにすぐに眠ってしまった。


いろは坂を下ってバスに揺られてまた東武日光駅に着いた。
空腹をどうにかしようとすぐに目についた店に入った。
1階がお土産屋さんになっているビルの2階『味処あずま』でゆばそばとさしみゆばを食べた。

湯葉そば

素朴であったまるお蕎麦ととろとろでわさびがキリリと聞いた刺身湯葉
すごくほっとしたのを覚えている。


よく考えたら滞在時間短めの一人旅も終わり
蕎麦を食べている時なんとなく父に会いたくなり、家ではなく東京へ帰ることにした。
JR日光駅から宇都宮を経由して東京方面へ

宇都宮駅で一時下車
有名な宇都宮みんみんにて宇都宮餃子を食べようと思い、列に並んだ。
20分ほど並び、席へ
日光でなんとなく地酒飲もうかな〜と思っていたものの飲めなかったので、焼き餃子・水餃子・レモンサワーとおつまみのメンマを注文

焼き餃子と水餃子

あまり酒は好きではないし、強くもないため、レモンサワーいっぱいで真っ赤になりながら、餃子を食べる。
王道の組み合わせではあるが、正直22歳の私にはまだ組み合わせの良さがわからなかった。
しかし餃子は圧倒的に美味い。
肉汁溢れる焼き餃子ともちもちの水餃子が両方とも360円で食べれる幸せ
宇都宮にはいつか餃子旅行をしに来ようと決めた。


この日光旅行以降、一人旅の楽しさに目覚めてしまい、目下の欲しいもの筆頭はフィルムカメラである。
未だに写ルンですの現像が出来ていないことが悔やまれるが、素晴らしい体験だったと胸を張って言える。

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