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写真にはドラマがある ~松本路子の撮影ノオト~

世界各地のアーティストの肖像を撮影する中で、忘れられないエピソード、写真のこと、自宅マンションのバルコニーから、60鉢のバラ・果樹の季節の便りなどを綴ってみたいと思います。本・映…
人やものとの出会いの物語りを、一緒に楽しんでもらえたら、嬉しいです。
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2020年10月の記事一覧

ルイーズ・ネヴェルスン ~撮影ノオト~

ルイーズ・ネヴェルスン ~撮影ノオト~

東京のギャラリーにて。その人は近づいてくると、両手で私の手を包み込むようにして語りかけた。「マイ・ディア」と。柔らかな手の感触とぬくもりが、その時の情景を思い起こすと、今も甦る。手を握りながら、2重のつけまつげの目がまっすぐにこちらを見つめ、きらりと光った。アメリカの彫刻家、ルイーズ・ネヴェルスンに会った時のことだ。

1982年、当時丸の内にあったギャラリー「ウィルデンスタイン東京」でネヴェルス

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ケイト・ミレット  ~撮影ノオト~

ケイト・ミレット  ~撮影ノオト~

ロサンゼルスにて。ケイト・ミレットに初めて会ったのは1977年の夏だった。その年、ロサンゼルスを訪れた私は、アメリカ西海岸におけるフェミニズム・アートの拠点ともいえるウーマンズ・ビルディングに立ち寄った。

ビルの3階ではフロアいっぱいに材料を広げて数人の女たちが彫像を作っていた。しばらく立ち止まって作業を眺めていると、中のひとりが片言の日本語で話しかけてきた。無造作に髪をたらし、ペンキだらけのT

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オノ・ヨーコ ~撮影ノオト~

オノ・ヨーコ ~撮影ノオト~

ダコタハウスにて。
ニューヨーク、セントラルパーク・ウエスト。ダコタハウスの最上階に近いフロアの鉄の二重扉が開くと、オノ・ヨーコその人が立っていた。

白い壁に囲まれた部屋をいくつも通り過ぎた廊下のつきあたりに彼女のお気に入りのダイニングルームがある。木製の大きなテーブルに向かい二人は話し始めた。1974年のことだ。

当時オノ・ヨーコに関しては国内外で興味本位の話題が多く語られていた。私はその人

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奏泉寺由子    ~撮影ノオト~

奏泉寺由子    ~撮影ノオト~

バリ島の工房から。ある時、インドネシア、バリ島から椰子の実の油が届いた。染色家・キルト作家、秦泉寺由子の工房からだ。10年近く、夏になるとバリ島の彼女の工房を訪ねていたが、その年はそれが叶わなかった。彼女の自家製の椰子油を愛用していた私にとって、嬉しい贈り物だった。

工房の様子を綴った便りが添えられていて、すぐにでも熱帯の風景の中に身を置きたい、そんな思いにとらわれた。

秦泉寺由子に初めて会っ

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大野一雄   ~撮影ノオト~

大野一雄   ~撮影ノオト~

ラ・アルヘンチーナ頌東京・恵比寿のギャラリーLIBRAIRIE6で、映像作家・飯村隆彦の60年代の実験映画「バラ色ダンス」を見る機会があった。暗黒舞踏の創始者・土方巽と、舞踏家・大野一雄が共演する舞台の映像はきわめて貴重で、興味深いものだった。

「大野一雄が若い!」と思ったが、彼はこのとき50歳代。私が知っている大野一雄が、深く皺が刻まれた年齢だったに過ぎない。長い間舞台から遠ざかっていた大野が

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